■第147話 白銀の冒険編 測って、測って、また測る
数字は、嘘をつかない。
でも数字だけでは、見えないものがある。
勘と計算が揃った時、初めて道が見える。
■再び雪山へ
狼煙を上げると、翌日ユーリが迎えに来た。
「……また来た」
「来たで!よろしく!」
さくやは測量道具の入った袋を背負い、雪を蹴った。今回は測量班も連れている。エレナは昨夜書き込んだノートを抱え、レイナはスケッチブックと記録帳を両手に持っていた。
「荷物が多い」ユーリが言った。
「全部必要なんです」エレナが答えた。
「……そうか」
ユーリは黙って先を歩き始めた。
■レーザー測量開始
谷に着くと、エレナが指示を出した。
「レーザー測量を始めます。さくやは計測器を持って右側斜面へ。測量班は等間隔に展開してください」
「了解!」
さくやがハンディ計測器を手に、右側斜面を駆け上がった。測量班がそれぞれの持ち場に散らばる。
レーザーが谷の空間を縦横に走り、距離・角度・高低差を次々と記録していく。さくやが計測器を構えるたびに数値が飛んでくる。エレナがその場でデータを受け取り、三次元の地形モデルに合成していった。
「さくや、そこから斜面の角度をもう一度」
「はいはい!……これでどう?」
「完璧です。次は十メートル下へ」
「はーい!」
さくやが雪を蹴りながら駆け下りた。
レイナはスケッチブックを開き、レーザーが届かない木々の茂る区間を丁寧にスケッチしていた。枝の張り出し方、幹の太さ、雪の積もり方。目で見たものを正確に記録する。
「この区間、レーザーが木に遮られています」エレナが言った。
「従来の方法で補足します」レイナが答えた。
測量班が木々の間に入り、巻き尺と水準器で地道に計測を始めた。レーザーのデータと手作業のデータが、エレナの手元で一枚の地形図に合わさっていく。
「……精度が高い」エレナが呟いた。「三次元で現況が再現できます」
■中心杭の打設
午後に入ると、さくやとレイナの設計班が動き始めた。
「ロープウェイのルートを決めていきます。まずは想定ルートに中心杭を打っていきましょう」
さくやが設計図の叩き台を広げた。ルートは大まかに決まっているが、細かい部分はまだ白紙だった。
「ここに杭、打つで!」
さくやが雪に杭を打ち込み、レイナが位置を記録帳に書き込む。一本、また一本。ルートが少しずつ形になっていく。
だが途中で、さくやが立ち止まった。
「……ここ、どうする?」
谷が大きく曲がっている区間だった。直線で結べば距離は短いが、支柱が急斜面に当たる。迂回すれば安全だが、距離が伸びる。
「ルートが二つ考えられます」レイナが言った。「直線案と迂回案」
「測量データで比べてみましょう」エレナが割って入った。
三人が地形図を囲んだ。直線案は支柱を急斜面に打つリスクがある。迂回案は距離が伸びる分、ワイヤーの張力が変わってくる。
「ユーリ、この斜面、春になると雪が動く?」
さくやが振り返った。
ユーリが斜面を見上げ、雪を踏んだ。
「……毎年、動く。この辺りは特に」
「じゃあ直線案は消えた」さくやが言った。
「迂回案で進めます。ただし支柱の位置をここに変えれば、ワイヤーの張力は許容範囲内に収まります」エレナがノートに計算を書き込んだ。
「これで行きましょう」レイナが記録帳に最終ルートを書き込んだ。
■測量完了
夕暮れが近づいた頃、エレナがノートを閉じた。
「測量、完了です。三次元データも揃いました」
さくやが大きく伸びをした。「長かったー!でも全部揃った!」
レイナの記録帳も、数字と絵でびっしり埋まっていた。地形の断面図、中心杭の位置、木々の茂る区間の補足データ。エレナの数字とレイナの絵が並ぶと、設計図の骨格として十分な情報量になっていた。
「このデータをもとに、設計図を仕上げます」エレナが言った。
「設計図が完成したら爆音社長に送って資材を頼もう」さくやが付け加えた。
レイナがスケッチブックを抱えた。「……早く描きたいです」
ユーリが空を見上げた。稜線が赤く染まり始めている。
「……今日は泊まっていけ。暗くなる」
「ありがとう!」さくやが即答した。
「……またクマ肉か」
「文句あるん?」
「ない」
三人は顔を見合わせて笑った。ユーリは背を向けて村へ歩き出した。
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