表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/71

第14話 設計女子爆誕 湖底に届くまで

春の風が、湖面を薄く撫でていた。

リトルさくやたちがこの湖を見つけてから、数週間。

岸辺には簡易ベンチ、手書きの観察看板、測量ポール。

中央には、例の東屋が静かに浮かんでいる。

整備されたというより――

“住みはじめた”という表現が近かった。

交代で観察、記録、清掃。

そして、やたら長い休憩。

東屋の中で、声がひそめられる。

「やっぱり……深さ、気にならへん?」

最近、語尾が少し現場寄りになったさくやが言う。

「水、透明なのに中心だけ色が違うよね」

湖の中央は、藍より暗い。

光が途中で吸われる。

「測りましょう。ちゃんと」

設計女子は、“気になる”を放置できない。

最初は原始的な方法だった。

ロープ+おもり。

落とす。

待つ。

まだ落ちる。

まだ落ちる。

「……これ、メートル表示足りへんで」

追加ロープを継ぎ足す。

まだ届かない。

「湖ってこんな深いものでしたっけ」

「普通は、もう当たるよね」

全員が同じ結論に達しかけた時だった。


トラックが来た。

来てしまった。

ドアが開く前から分かるタイプの人が降りてきた。

「お待たせやでぇぇぇ!!」

湖に反響する声量。

爆音社長だった。

「潜水調査やろ? 聞いたで! こういうんはな! 装備や!」

コンテナが開く。

中に並ぶ――

小型潜水スーツ一式。

丸型ヘルメット。

耐圧ゴーグル。

軽量関節構造。

背面にʕ•ᴥ•ʔマーク。


真面目に作っているのが余計に面白い。

師匠が静かに確認する。

「気密テストは?」

「三段階や!」

「安全弁は?」

「二重!」

「視界角度は?」

「広角や!」

「声量は控えてください」

一瞬だけ静かになった。

奇跡だった。


試験潜水開始。

体制は異様に大規模だった。

潜水10名。

補助40名。

記録係8名。

見学だけで来ている人15名。

すでに遠足。

水中は想像以上に冷たい。

「歩けます」

「動きやすい」

「ちょっと楽しい」

開始3分。

「ゴーグル曇った!!」

「何も見えへん!」

「くしゃみしたら死ぬ!」

「誰のロープこれ!?」

陸がパニック。

「番号で呼んでください!」

師匠の声だけが通る。

不思議と通る。

浅瀬は豊かだった。

小魚。

藻。

貝。

甲殻類。

「ウーパールーパー!」

「違います、サンショウウオです」

感動の質が高い。

中心部へ進む。

色が変わる。

青 → 藍 → 黒。

音が消える。

水温が落ちる。

視界が距離を拒否する。

ロープテンションが揺れた。

一瞬だけ。

補助係が顔を上げる。

師匠が即断する。

「――引き上げましょう」

声は穏やか。

判断は速い。

全員同じ報告をした。

「何も見えませんでした」

そして、間を置いて。

「でも……見られていた気がしました」

データには書けない情報だった。

東屋。

ストーブ。

毛布。

潜水スーツ姿でココアを飲もうとして失敗する設計女子。

「ヘルメット脱がないと無理でした」

「設計ミスやな」

「運用ミスです」

ログブックには同じ一文。

湖底確認できず

視認不能

存在感のみ感知

技術文書なのに詩的だった。

一人が言う。

「このスーツ……漁に使えませんか」

「用途変更が早いですね」

師匠は笑う。

否定しない。

拾ってから、整える。

「まずは改良しましょう。調査用として」

その言い方が、次の挑戦を許可していた。


湖は、まだ答えを出さない。

けれど彼女たちはもう知っている。

測れない深さほど、

設計したくなるということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ