■第144話 白銀の冒険編 63人雪に潜る
雪の下では、みんな同じように息をひそめる。
でも立ち上がる時、それぞれの顔が違う。
その違いが、面白い。
■後発隊到着
翌朝、ユーリの案内で村の入り口に出ると、雪原の向こうに小さな影が連なっていた。
「来た!」
さくやが駆け出した。
後発隊のさくやたち、レイナたち、エレナたちが、雪をかき分けながら次々と姿を現す。息を切らしながら、それでも元気いっぱいに手を振っている。
「先発隊ー!無事やったー!」
「雪崩の連絡びっくりしたわ!」
「迂回路わかりにくかったけど来られたで!」
さくやたちが入り乱れ、抱き合い、雪を蹴り上げて大騒ぎになった。
ユーリは少し離れたところで、その様子を黙って見ていた。
■ユーリの狩猟
昼過ぎ、一人のさくやがユーリに声をかけた。
「なぁなぁ!狩りって見せてもらえる?」
ユーリは少し考えてから、頷いた。
「……ついてこい。静かにしろ」
総勢63人が、声を潜めてユーリの後に続いた。
雪原の端、木々の手前でユーリが立ち止まった。
「……伏せろ」
全員が雪の中に潜った。さくやがユーリの隣に滑り込む。白い雪原に、63人分の小さな膨らみができた。
しばらく、何も起きなかった。
風の音だけがある。
「……ユーリって、いつもひとりで狩りするん?」
さくやが耳元で囁いた。
「……そうだ」
「怖くない?」
「……慣れた」
ユーリは雪原から目を離さなかった。
■クマが来た
木々の向こうから、黒い影が現れた。
大きい。頭だけでさくやたちの全身ほどある。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
さくやは息を止めた。隣のレイナが小さく震えている。エレナは静かに観察していた。
「……あーやって」
ユーリが耳元で静かに言った。
「あーやって、あたしたちを襲うクマを、返り討ちにするんだ」
さくやは何も言えなかった。
ユーリが雪からすっと立ち上がった。
一瞬だった。
クマが気づいて立ち上がる。ユーリが駆け出す。雪を蹴る音。低い唸り声。
それから、静寂。
クマが雪の上に倒れた。
■大騒ぎ
一瞬の沈黙の後、雪の中から63人が一斉に飛び出した。
「うわぁぁぁ!すごい!すごすぎる!」
「一瞬やったで!見えんかったわ!」
「ユーリちゃん強すぎる!!」
「エレナ、見た!?あの動き!?」
「……記録します」
「そんな冷静な場合か!」
村のユーリたちも出てきて、クマを囲んで手際よく解体を始めた。さくやたちがわっと集まり、あちこちで声が上がる。
ユーリは騒ぎの真ん中で、少し戸惑ったように立っていた。
いつもひとりでやっていたことが、こんなに賑やかになるとは思っていなかった。
■不思議な感情
夕方、作業が一段落した頃、先発隊のさくやがユーリの隣に腰を下ろした。
「……どう?なんか変な感じやろ」
「……うん」
「賑やかすぎる?」
「……いや」
ユーリは広場を眺めた。さくやたちとユーリたちが入り混じって、あちこちで話している。笑い声がある。声がある。
「……久しぶりだ」
「何が?」
「……こんなに、声がある場所にいるのが」
さくやは何も言わなかった。ただ、ユーリの隣に座り続けた。
これが何という感情なのか、ユーリにはうまく言葉にできなかった。悪くない、とだけ思った。
■クマシチュー
夜、レイナが荷物から乳製品を取り出した。
「雪山でも美味しく食べられるものをと思って……クリームとチーズを持ってきました」
「レイナ!!天才!!」
さくやが飛びついた。
クマの肉をクリームで煮込んだシチューが、村の広場に並んだ。湯気が白く立ちのぼり、香りが雪の冷気に混じる。
「いただきます!」
「……いただきます」
ユーリたちも、少し遅れて手を合わせた。
一口食べた瞬間、村のユーリたちの表情が変わった。
「……美味しい」
「こんな食べ方があったのか」
「クリームって何だ……」
「北西の拠点で作っているんです。乳製品です」レイナが嬉しそうに説明した。
「レイナの村、すごいやろ!」さくやが自慢げに言った。
「……さくやの村でもないですけど」
「細かいことはええねん!」
笑い声が広場に満ちた。
先発隊のさくやが横目でユーリを見ると、シチューを両手で持ったまま、静かに湯気を眺めていた。
その表情が、昨日とは少し違って見えた。
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