■第142話 白銀の冒険編 トナカイの少女
出会いは、いつも予告なく訪れる。
雪原に足跡を刻みながら、誰かがこちらへ向かってくる。
それが味方か、それとも――。
■雪原へ
雪崩の跡を迂回し、三人は再び雪原へ出た。
空は高く澄んでいたが、風は相変わらず鋭い。踏み出すたびに雪に足を取られ、体力は静かに削られていく。
「はぁ……雪崩の後やのに、山って何事もなかったみたいな顔してるよな」
さくやは白い息を吐きながら、広大な雪原を見渡した。
「自然はそういうものです」エレナが淡々と答えた。「私たちの都合で動きません」
「……それが、山の正直さなのかもしれません」
レイナが静かに呟いた。
三人はしばらく黙って歩いた。
■白い影
限界が近づいた頃だった。
「……だ、誰かおる……?」
さくやのかすれた声に、三人の視線が一斉に向いた。
遠くの雪原に、白い影が滑るように動いている。風か、幻か――。
影は近づくにつれて輪郭を持ち始めた。毛皮をまとった小さな影。白銀のトナカイにまたがり、雪原を音もなく駆けてくる。
「……迷ったのか」
短く低い声が、冷気の中に響いた。
三人が固まる中、少女はトナカイから降り、こちらを静かに見回した。雪に沈むことなく、無駄のない動きで立っている。冷気に溶け込むその存在感は、雪山の精そのもののようだった。
「……ついてこい」
それだけ言って、再び雪原を駆け始めた。
「な、名前を……お伺いしても……?」
レイナがおずおずと声をかけた。
少女が振り返った。
「……ユーリ」
三人は顔を見合わせ、慌ててその背を追った。
■道中の交流
雪をかき分けながら歩く最中、ユーリは腰の袋から干し肉を取り出した。
「……これ、食うか」
「わぁっ!ありがとぉ!めっちゃ助かる!」
さくやが飛びつくように受け取り、口いっぱいに放り込んだ。
「かっ……かたい!でも、うまっ!」
「……栄養は十分にある」
エレナは慎重に口にして、小さく表情を緩めた。
レイナは両手で丁寧に受け取り、一口噛んでから目を細めた。
「……雪山で生き抜く術を、こんなに自然に持っておられるとは。本当に尊いことです」
ユーリは答えなかった。ただ、黙って前を歩き続けた。
■ユーリのペース
「なぁなぁ!ユーリって、このあたりに住んでるん?」
さくやは干し肉を頬張りながら声をかけた。
「……近くに」
答えは簡潔。だが揺るぎがない。
ユーリは歩きながら、時折三人の様子を振り返った。さくやの息が上がれば歩幅を狭め、レイナが足を取られれば足元の固い場所を示す。言葉はない。それでも確かに、三人のペースに合わせて進んでいた。
エレナはその足取りを観察しながら、地形を記録していた。どこに重心を置き、どこを避けて進むか。無駄が一切ない。
レイナは静かにユーリの背を見つめ、また小さく祈った。
言葉少なに、淡々と。それでも迷いなく動くユーリの姿に、三人は次第に体を預ける安心を覚えた。
■小さな安心
やがて遠くに、黒々とした木々の影が現れた。吹きすさぶ白の中に、確かな生命の気配。
「……ここまで来れば、安全だ」
ユーリが呟いた。
三人の胸に一気に安堵が広がる。
「やっと……!」
さくやが涙混じりに笑った。
「精霊よ……導きをありがとうございます……」
レイナが小声で祈る。
エレナは無駄のないユーリの行動を振り返り、静かに息を吐いた。
「……あなたは、ずっとここにいるんですか」
ユーリはしばらく黙っていた。
「……いる理由がある」
それだけ言って、木々の影へ歩き出した。
三人は顔を見合わせ、その背を追った。
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