■第136話 師匠の拠点巡り編 鉄道と海と運ばれるもの
モノが動けば、人も動く。
人が動けば、言葉も動く。
小さな手が、世界をつないでいた。
■いってらっしゃーい
街歩きと農園での1週間を終えた師匠。いよいよ本格的な拠点巡りが始まる。
「それでは、行ってまいります」
オフィスのさくや主任たちが、いっせいに手を振った。
「いってらっしゃーい!!」
今回の拠点巡りには、数人のさくや主任も同行することになった。師匠と各拠点の橋渡し役として、重要な任務を担っている。……本人たちは「師匠と旅行や!」と大喜びだったが。
■南西の拠点へ
湖を中心とした拠点群の中でも、南西の拠点は鉄道網の中心だ。東の村、南東の拠点、岩山トンネルの向こうの海の拠点。すべての路線がここに集まってくる。
師匠一行が到着すると、50人のさくや主任たちが整列して迎えてくれた。
「師匠!お疲れ様でした!見ていただきたいことがたくさんあるんです!」
最初に案内されたのは鉄道管制室。壁一面の地図に、複雑な鉄道網が広がっている。
師匠は思わず息を呑んだ。「これは……すごいね」
「でしょ!」50人が同時に胸を張った。
■4つの路線を走る鉄道
「東の村への路線は1日3往復。武器や工芸品、お米を運んでます。南東の拠点を経由するので、積み替えも効率よくできるようになったんです」
拠点責任者のさくや主任が説明を続ける。
「シンゲンの国では和紙や漆器が大人気で、マサムネの国とは精密機械の貿易が盛んです。爆音社長の会社の製品が大好評なんですよ!」
「それは嬉しいね」
「はい!『めっちゃ嬉しいわ!』って」
さくや主任が声色を変えてモノマネすると、その場の全員がくすくす笑った。師匠も笑った。
「ノブナガの国は絹織物と貴金属の取引で、警備にはジュウベェたちの忍者技術を活用してるんです。最初は『忍者に警備頼むの?』ってみんな半信半疑やったんですけど」
「今は?」
「めちゃくちゃ頼りにしてます」
■国際急行、到着
師匠は実際に鉄道駅を見学した。美しく整備された線路が遠くまで続いている。
「師匠、見てください!」
駅長のさくや主任が指差した先に、蒸気機関車がゆっくりと入ってきた。
「東の村からの急行です!」
機関車から降りてきたのは、ジュウベェたちだった。
「拙者たち、無事到着でござる!」
「とても快適でござる!鉄道技術、見事でござるよ」
褒め言葉に、南西拠点のさくや主任たちが一斉に顔を赤くした。
「あ、ありがとうございます……!もっと頑張りますね!」
「うむ、期待しておるでござる」
ジュウベェたちはにこりともせず、しかし満足そうに頷いた。
■海の拠点からの報告
夜、コテージに戻った師匠のもとに、さくや主任たちが集まってきた。
「師匠、海の拠点の報告もいいですか?」
「ぜひ」
「岩山トンネルの向こうは……師匠には見せてあげられへんのが残念なんですけど」
さくや主任が少し悔しそうな顔をしてから、鞄をごそごそと漁った。
「これ、持って帰ってきました」
差し出されたのは、深い青色をした小さな器だった。
「リアンの島からの特産品です。海の恵みを活かした陶器で、染料から全部手作りなんですよ」
師匠は器を光にかざした。海の底を切り取ったような、吸い込まれそうな青だった。
「……美しいね」
「でしょ!他にも真珠、海藻を使った織物、珊瑚の装飾品……レッドたちが船の修理や造船も担当してくれてて」
「元海賊が造船担当ですか」
「最初はちょっとドキドキしましたけど、めちゃくちゃ腕がいいんです。今では一番頼りにしてます」
師匠はもう一度、青い器を眺めた。自分の目では見られない場所で、着々と世界が広がっている。
■難所との戦い
翌朝、道路建設の担当者が図面を広げた。高地の拠点への道路建設の詳細が描かれている。
「師匠、高地への道路建設、想像以上に大変で……」
担当のさくや主任が、少し疲れた顔で話し始めた。
「標高差が大きくて岩盤が硬くて、天候も変わりやすくて工事が何度も中断されてて。今は全体の60%が完成してるんですけど、残り40%が一番の難所で……」
「どんな工法を使っていますか?」
「それが!」
さっきまでの疲れ顔が、一瞬で目を輝かせた。
「爆音社長の会社の掘削機械で振動を使って岩盤を砕く方法で、従来より3倍速いんです。マケダたちに『自然と調和した道路を』って言われたので、石の色も道路の曲線もこだわって設計しました」
師匠はじっと図面を見つめた。「……見せてもらえますか、もっと詳しく」
さくや主任の顔が、ぱあっと明るくなった。
■運ばれるもの
最終日、師匠は全員を集めた。
「皆さんが運んでいるのは、モノだけじゃないですね」
100人のさくや主任たちが、静かに聞いている。
「陶器と一緒に、リアンたちの技術が渡る。精密機械と一緒に、信頼が渡る。道路ができれば、マケダの村に新しい時間が生まれる」
師匠は一人ひとりの顔を見回した。
「皆さんの丁寧な仕事が、全部つながっています」
しばらく沈黙が続いた後、一番後ろにいたさくや主任が小さく呟いた。
「……師匠に言うてもらえて、よかった」
「うん」「うん」と声が続いた。
■まだまだ続く
夕日が湖面をあたたかく染める。コテージの縁側で、師匠はぼんやりと空を眺めていた。
「次はどこへ行きましょうか」
同行していたさくや主任たちが、目を輝かせた。
「海の拠点の報告ならうちらが持って帰ります!」
「高地もおすすめです!」
「うちの村にも来てくださいよ!」
師匠は笑いながら、もう一度青い器を手に取った。
見られない場所がある。でも、持って帰ってきてくれる人たちがいる。
1か月はきっと、あっという間だ。
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