■第133話 戦国無双編 影の守護者たち
会場の熱気が冷めても、街の夜はまだ続いていた。
爆音社長のバイクが、灯りの少ない道を飛ばしていく。
リュックの中のさくやには、風の音だけが届いていた。
■発表会の後
市役所前の広場は、もうほとんど人がいなかった。
さくやはリュックから顔を出して、夜風に目を細めた。
「師匠、ああいう顔するんやな」
「どういう顔や」
「なんか、楽しそうな顔」
爆音社長が少し黙った。
「普段が無愛想すぎるんや」
「社長も人のこと言えへんけど」
「うるさい」
■鉄道倉庫へ
「せっかくやし、本物見に行くか」
爆音社長がバイクにまたがった。さくやがリュックに滑り込む。
エンジンが唸った。
街の灯りが後ろに流れていく。大通りを抜け、高架下をくぐり、倉庫街に入った。バイクのスピードが落ちない。さくやはリュックの縁をしっかり掴んだ。
「社長、飛ばしすぎやって」
「文句言うな」
突き当たりの大きな倉庫の前で、爆音社長がブレーキを踏んだ。
■本物の列車
シャッターを開けると、暗闇の中に赤い塊が浮かんだ。
爆音社長が照明を入れた。
光が広がった瞬間、さくやは息を呑んだ。
赤い。とにかく赤い。塗装が新しく、倉庫の照明を受けてぬらりと光っている。傷一つない車体は鏡のようで、さくやの小さな姿が歪んで映り込んでいた。
先頭部分は流線型に削り出され、空気を切るための角度が計算されている。その先端に、小さな羽が左右に広がっていた。金属製で薄く、光の角度によって銀にも見える。
窓ガラスは分厚く透明で、フレームの継ぎ目が見えないほど精巧に嵌め込まれている。車体の側面には細いラインが一本、赤の中に赤で入っていた。光が当たると初めてわかる。
さくやはリュックから出て、倉庫の床に降り立った。
列車を見上げる。自分の何十倍もある。
「……」
言葉が出なかった。
ゆっくりと歩き始めた。先頭から、側面を沿って、後部まで。手を伸ばして車体に触れた。冷たくて、滑らかで、継ぎ目がほとんどわからない。
「社長」
「なんや」
「これ、走るんやな」
「当たり前や」
「人が乗って、駅から駅まで」
「そや」
さくやはもう一度、先頭に戻った。羽を見上げた。薄い金属が、照明の光をきらりと返した。
「……すごいな」
呟きが、倉庫に小さく響いた。
爆音社長は何も言わなかった。ただ、腕を組んで列車を見ていた。その横顔に、珍しく柔らかいものがあった。
■夜の倉庫
しばらく、二人とも黙って列車を眺めていた。
倉庫の中は静かで、外の風の音だけが聞こえる。
「師匠、この列車見たかな」
「模型は見とる」
「本物は?」
「……さあな」
「今度連れてこよか」
爆音社長がさくやを見た。それからまた列車に目を戻した。
「余計なことせんでええ」
「でしょ」
さくやが笑った。爆音社長は答えなかったが、バイクに戻る足取りが少し緩んでいた。
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