■第131話 戦国無双編 霧と鉄路
霧が川面を這い、昨日の戦場を白く塗りつぶしていく。 水音だけが残り、オオカミの足跡すら消えかけていた。 世界がまだ、息をひそめているようだった。
■朝霧の川辺
さくやは柴犬の背に立ち、対岸を見つめていた。
霞んだ浅瀬に人影はない。昨日あれだけいた騎馬の群れが、まるごと霧に呑まれたかのように消えている。
「……ほんまに、おらんなったな」
「夢だったようでござるな」
「夢にしては杭の跡がしっかり残っとるけど」
「……それはそうでござる」
しばらく、二人とも川を見ていた。
■見張り城の計画
作戦会議にノブナガ、マサムネ、シンゲンが集まった。
「川の近くに見張り城を」とマサムネが地図を指す。「高台なら川の隅々まで見渡せましょう」
「よい策でござる」とシンゲンが頷く。
ノブナガが腕を組んだ。「……引いたが、去ってはいない。それを忘れるな」
誰も反論しなかった。
■北の拠点から
遠い北の拠点で、レイナとエレナが地図の上に身を乗り出していた。
「新しい小城にも、遠隔のシステムを入れましょう」
レイナが穏やかに言いながら、鉛筆で図面に弧を描く。
「高台の角度と射程を計算すると——」エレナが数値を書き込みながら続ける。「どの地点からでも、最適なタイミングで制圧できます。理論値を超えた精度になりますね」
二人は顔を見合わせて、静かに微笑んだ。
窓の外、湖が朝の光を受けてきらきらと揺れていた。
■最終点検
南西の拠点では、鉄道の最終点検が始まっていた。
さくやが柴犬にまたがって線路沿いを走り、要所で止まっては膝をついて確認する。
「この継ぎ目、ちょっと浮いてへん?」
「ほんまや。調整しよ」
仲間が工具を持って駆け寄る。ジュウベェの班からも「こちら異常なしでござる」と報告が届いた。
「ジュウベェ、早かったな」
「拙者の担当区間は短うございましたゆえ」
「それ自慢にならへんやろ」
「……精一杯でございます」
■赤い列車
点検の終わり際、南西の拠点から見慣れない列車が姿を現した。
さくやが手をかざした。
真っ赤な車体。透明な窓。先端に、小さな羽。
列車はゆっくりと加速し、風を切りながら線路を滑り始めた。羽が光を受けて細かく揺れる。窓から小さきものたちが手を振っている。
「……爆音社長、やりよるな」
「美しい列車でござるな」とジュウベェが呟いた。
「羽、なんのためにあるんやろ」
「聞けば教えてくれるのでは」
「なんか怖くて聞けへん」
■四国鉄道、開通
試運転が終わり、正式な開通となった。
駅に人が集まった。荷を抱えた者、子を連れた者、遠方から来た者。ノブナガの城下からは商人が乗り込み、マサムネの村からは石材が積まれ、シンゲンの領地からは兵士が軽い足取りで降り立った。
「重い石材が、これほど楽に」とマサムネが目を丸くした。
「辺境の村も繋がり申す」とシンゲンが頷く。
ジュウベェがさくやの隣に来て、列車を見送った。
「拙者たちの努力の結晶でござるな」
「そやな」
さくやはそれだけ言った。
■夕暮れの川辺
夕方、さくやはまた川辺に戻っていた。
霧はすっかり晴れて、水面が茜色に染まっている。
「あの人たち、どこ行ったんやろ」
「さあ。草原に帰ったのでは」
「草原が枯れたって言うてたやん」
「……それもそうでござるな」
ジュウベェが少し黙った。
「いつか話せたらええけどな」
「拙者も、それは思い申す。……まあ、次に来たときに爆風で吹き飛ばす前に、一声かけてみるでござるよ」
「その発想やめぇ」
川の水が、静かに流れ続けていた。
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