■第130話 戦国無双編 にんまり
話し合いは、あっという間に終わった。
四国連合軍が、動いた。
城壁の上で、さくやはにんまりしていた。
■開戦
「問答は無用と言ったはずよ」
チンギスが腕を組んだまま言った。
「話しましょうと言いましたよね」
さくやが答えた。
「貴様の度胸は買う。しかし我らの草原を返してくれるわけでもあるまい」
「それは——」
「ならば戦うのみよ」
チンギスが指を鳴らした。
千頭のオオカミが一斉に動いた。
■四国連合、動く
ノブナガが紀州犬に跨り、真っ先に飛び出した。
「来い。この剣術、見せてくれる」
マサムネが秋田犬で静かに前に出た。槍を構え、無言で待つ。
シンゲンが甲斐犬と並んで薙刀を振り上げた。
「力比べといこうではないか」
ジュウベェの千人が波のように押し出した。柴犬たちも一斉に動く。城壁の外で整列していた紀州犬、秋田犬、甲斐犬が、主の号令とともに駆け出した。
千頭のオオカミと、四国の犬たちがぶつかった。
轟音が広場に響いた。
■一蹴
チンギスの軍は強かった。
草原を渡り歩いてきた者たちの戦い方は荒々しく、速く、容赦がない。最初の一撃でジュウベェの前衛が大きく押し戻された。
しかし四国連合軍は崩れなかった。
ノブナガが紀州犬の突進でオオカミの列を割り、マサムネの槍が正確に隙を突く。シンゲンの薙刀が広範囲を薙ぎ払い、ジュウベェの千人が波のように押し返していく。
農業で鍛えた力、水の流れのような柔らかさ、果樹の世話で磨いた正確さ。三国の技が一つになって、チンギスの軍に叩きつけられた。
オオカミたちが後退し始めた。
「なっ……」
チンギスが目を見開いた。
「これほどの連携、草原では見たことがない」
千人の表情に、初めて動揺が走った。
「退けい」
チンギスが号令をかけた。千頭のオオカミが一斉に引いていく。
広場に静寂が戻った。
■城壁の上で
さくやは城壁の上で腕を組んでいた。
にんまりしていた。
ジュウベェが見上げた。
「さくや殿……まさか最初からこうなると」
「四国で話し合いより先に一戦交えた方がええと思ったんよね。強さを見せてから話す方が、チンギスには伝わると思って」
「……それで最初から城壁に上がっておったのでござるか」
「そういうこと」
ジュウベェが額に手を当てた。
「教えてほしかったでござるよ……」
「言うたら止めるやろ」
「止めるでござる」
さくやがにんまりしたまま言った。
「でも上手くいったやろ」
ジュウベェが苦笑いを浮かべた。
千人分の苦笑いが、広場に広がった。
東の方角で、チンギスの軍が止まっていた。引いてはいるが、去ってはいない。
さくやは城壁の上からその様子を見ていた。にんまりは、まだ続いていた。
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