■第129話 戦国無双編 東からの影
春風が、三国の野を渡る。
笑い声が、畑と水田に響いていた。
誰も、まだ気づいていなかった。
■シンゲンの国
丘を越え、小川を飛び越えると、見渡す限りの黄金色の小麦畑が広がっていた。
「うわあ」
さくやが思わず声を上げた。風に揺れる穂先が、海の波のように動いている。畑の端には巨大なカボチャがごろごろと転がっていた。さくやの身長ほどある。
麦わら帽子をちょこんと被ったシンゲンが、土で汚れた手を手ぬぐいで拭きながら出てきた。
「よくぞ来てくれたのう」
「これ、どうやって育ててるんですか」
シンゲンが土を掬って見せた。ふかふかで黒々としている。
「肝心なのは土づくりでござる。土とお話しせい、と昔から言い伝えられておってのう。最初は分からなんだが、日々触れ合ううちに理解できたのでござるよ」
ジュウベェが目を丸くした。
「ぜひとも手伝わせてほしいでござる」
三人は畑仕事に没頭した。土を耕し、種をまき、水をやる。汗をかきながら、笑い声が絶えなかった。
■マサムネの国
午後は水田が美しいマサムネの国へ向かった。
藍染めの着物に身を包んだマサムネが、静かな声で出迎えた。
「よく来てくれたな」
見渡す限り、青々とした稲が並んでいる。水路が網の目のように張り巡らされていた。
「水の流れを整えれば稲が元気になる。小魚たちが害虫を食べてくれるのだぞ」
「魚と稲が助け合ってるんやね」
「自然を尊べば、美味しい米が実る」
稲刈りの体験もさせてもらった。ジュウベェが隣で感心している。
「この技、拙者の国でも使えそうでござるな」
「知を分かち合えば皆が豊かになろう」
■ノブナガの国
翌日は果樹園で有名なノブナガの国へ。
「よくぞ来たな」
小さな剪定鋏を手に持ったノブナガが、勇ましい声で迎えた。
「枝を整えれば実が甘くなるのだぞ。見よ、この技を」
手際よく不要な枝を切り落としていく。差し出されたリンゴを齧ると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。
「甘っ。めちゃくちゃ美味しい」
「ふふん、秘訣は土と水やりの機微なのだぞ」
保存や加工の知恵も教えてもらった。工夫次第で一年中果物が楽しめるという。
■大宴会
夕方、四国の広場に長い卓が並べられた。
シンゲンの小麦で焼いたパン、マサムネの米で作ったおにぎり、ノブナガの果樹園から採れたリンゴやブドウ。それぞれの国の料理が所狭しと並んでいる。
「うますぎるでござる」
ジュウベェが両手いっぱいに料理を抱えた。
「いつかは四国鉄道で新鮮な農産物を運べるようになるな」
「うむ、力を合わせれば皆が幸せになれるでござる」
さくやが杯を掲げた。
「四国の友好に乾杯や」
「「「乾杯」」」
笑い声が広場に広がった。料理が減り、話が弾み、夜が深くなっていく。
誰も気づいていなかった。
東の暗闇の中で、無数の影が静かに動いていることを。
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