■第126話 市街地再開発偏 殲滅
倉庫の外で、何かが組み上がっていた。
さくやのスマホに、返信はなかった。
そして、轟音が夜を揺らした。
■壁際で待つ
廊下に出たSPたちが、さくやの剣幕に押されて壁際に集まっていた。
「なぜ壁際なんですか」
「とにかく壁際です」
「外で何かあるんですか」
「……わかりません」
「わからないのに壁際に——」
「早く」
SPたちが顔を見合わせながらも、壁にぴったりと張り付いた。さくやも壁際に収まった。
スマホをもう一度確認した。
『社長、応答してください』
返信がなかった。
『社長!!!』
返信がなかった。
さくやは天井を見上げた。
「……お兄さんたち、耳を塞いでください」
「え?」
「塞いでください」
SPたちが恐る恐る耳を塞いだ。
しばらく、静寂が続いた。
■社長、発射
倉庫の外では、社長がバイクから組み上げたものを肩に担いでいた。
バズーカ砲だった。
バイクのパーツに偽装して持ち込んだ特製品。爆音社長の手にかかれば、どんな部品も武器になる。
社長が倉庫を見据えた。
「SPが中におる。敵もおる」
社長が肩をぐるりと回した。
「……皆殺しじゃ!」
引き金を引いた。
ドォォォォォン。
爆風が倉庫を直撃した。壁が吹き飛び、屋根が浮き上がり、窓ガラスが四方へ散らばった。土煙が夜空へ巻き上がる。轟音が川沿いの倉庫街全体を揺らした。
社長がもう一発装填した。
ドォォォォォン。
残った壁が吹き飛んだ。
社長が肩からバズーカ砲を下ろし、腕を組んだ。
「……まあ、こんなもんやろ」
■倉庫の中
壁際に張り付いたSPたちが、爆風で宙を舞った。
「ぎゃあ」「うわあ」「なんやこれ」
さくやも爆風に押されて壁にめり込んだ。
「っ……やっぱりか」
瓦礫が降り注ぎ、土煙が廊下を覆った。昼間の男と別の人物が、爆風で吹き飛んで壁に激突していた。ぴくりとも動かない。気絶しているようだった。
土煙が少し晴れた。
SPの一人がのそのそと起き上がった。
「な……何が起きたんですか」
「救出です」
さくやが瓦礫の中から這い出しながら答えた。
「これが救出……?」
「……はい」
全員が無事だった。爆風弾なので命には関わらない。ただ全員、揃って頭がくらくらしていた。
■瓦礫の中から
倉庫の正面だったところに、社長が仁王立ちしていた。
壁がなくなっているので、外からそのまま見える。腕を組み、土煙の中でサングラスをかけたまま涼しい顔をしている。
さくやが瓦礫を踏み越えて社長の前に出た。
「社長」
「おう、全員おるか」
「おります」
「よかったやないか」
「よかったやないか、じゃないです」
さくやが社長を見上げた。
「SPを先に出してから吹き飛ばしてください」
「でも全員無事やろ」
「それはそうですが」
「なんとかなったやろ」
「……なんとかなりましたけど」
さくやが深く息を吐いた。
SPたちがのそのそと瓦礫の中から出てきた。全員が土まみれで、頭がくらくらしている。社長を見た。社長がサングラスの奥で目を細めた。
「全員無事か」
「は、はい……」
「ならええ」
社長がバイクに向かって歩き始めた。
「行くで」
「待ってください、SPのお兄さんたちはどうするんですか」
「マダムに連絡せい」
「あ、そうですね」
さくやがスマホで連絡した。数分後、マダムの部下が手配した車が来た。SPたちが次々と乗り込んでいく。
一人が乗り込む前に振り返った。
「さくやさん……ありがとうございました」
「よかったです。でも次は私が出てから吹き飛ばしてもらうようにします」
「……何が起きるか事前に教えてもらえると助かります」
「善処します」
■帰路
バイクに戻ると、さくやがリュックに収まった。
「社長」
「何や」
「バズーカ砲、バイクに偽装して持ち込んでたんですね」
「そや」
「かちゃかちゃ組み立ててたのはそれですか」
「そや」
「……最初からそのつもりやったんですか」
「当たり前やろ。アタシが手ぶらで来るわけないやろ」
さくやが少し黙った。
「次から教えてください」
「教えたら止めるやろ」
「止めます」
「やから教えへんねん」
さくやがもう一度深く息を吐いた。
「……よろしくお願いします、社長」
「ああ」
社長がエンジンをかけた。
アクセルを全開にした。
「速い速い速い速い速い——」
バイクが夜の街へ飛び出した。リュックの中でさくやの声が上がり続けた。社長は一切緩めなかった。エンジン音が夜の川沿いに轟き、遠ざかり、消えた。
瓦礫だけが、静かに残っていた。
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