■第118話 市街地再開発偏 師匠の流儀
紅茶の香りが、作戦室に漂う。
部下たちが次々と報告する。
師匠は、静かに紅茶を飲んでいた。
■翌朝の作戦室
マダムの邸宅に朝の光が差し込んでいた。
部下が大型モニターに資料を映し出した。株価の下落グラフ、議員事務所への問い合わせ件数、地元紙の内部告発の動き。昨夜からの動きが、数字になって並んでいる。
師匠は紅茶を一口すすりながら、モニターを眺めていた。
「土地登記書類の改竄痕跡を発見しました」
「うん」
「マネーロンダリングのルートも判明しました」
「そうだね」
「コンペ白紙撤回の決定が、来週に迫っています」
「うん」
さくやが師匠をちらりと見た。
部下たちの報告が続く。
「SPから新たな報告です。黒装束の影が昨夜も出没しました」
「うん」
「オフィス周辺の監視カメラに不審な人物が映っています」
「そうだね」
「次の潜入の日程ですが、早ければ明後日が——」
「うん」
さくやの眉が、じわじわと上がっていく。
「……師匠」
「うん」
「今のは返事ですか、相槌ですか」
「うん」
さくやが立ち上がった。
「どっちやねん」
部下たちが一斉に顔を伏せた。肩が小刻みに震えている。
マダムだけが涼しい顔で紅茶を飲んでいた。
■さくやの爆発
「ちょっと待ってください、師匠」
さくやが机の上に仁王立ちした。
「コンペの締め切りは来週で、書類の現物はまだ手に入ってなくて、黒装束はうろうろしてて、状況はどんどん動いてるんですよ。それで『うん』『そうだね』って、話が全然進んでないじゃないですか」
師匠は紅茶をゆっくり置いた。
「うん」
「だから、うんじゃないでしょーーーー」
部下たちの肩が、さらに激しく震えた。
■師匠の言葉
しばらくして、師匠が静かに口を開いた。
「みんな、よく動いてくれてるね」
それだけだった。
さくやが少し黙った。それから、おずおずと口を開いた。
「……たまにはもうちょっと具体的なアドバイスも欲しいです」
師匠が微かに微笑んだ。
「うん」
「また『うん』ーーーー」
作戦室に、温かい笑いが広がった。
■次の潜入へ
笑いが収まると、マダムが手を挙げた。
「では、次の作戦に移りましょう。書類の現物を押さえるために、今度はわたくしたちも動きます」
部下たちの表情が引き締まった。さくやも机から降り、資料を手に取った。
「今度は、もっと深いところへ」
師匠は紅茶の最後の一口を飲み干した。
夕日が湖面を金色に染めていた。
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