■第117話 市街地再開発偏 波紋
録音データが、静かに放たれた。
SNSの片隅に、小さな火種が灯る。
じわじわと、街に広まっていった。
■証拠の準備
マダムの邸宅の作戦室に、緊張が漂っていた。
さくやが録音データを机に置いた。マダムの部下がパソコンをセットアップし、モニターに波形が映し出される。会議室で拾った声が、鮮明に再生された。
「Aブロックの登記変更、来月中に片付けろ。住民への通知は後回しでいい」
「議員への手土産は用意できてるな。今回は現金じゃなく、迂回させろ」
「委員会は全員こちらの人間だ。問題ない」
部屋が静まり返った。
さくやが腕を組んだ。
「わかりやすい悪だくみやなー」
■動画、放たれる
「まずは動画を上げます。同時に、いくつかのメディアへの情報提供も済んでいます」
部下がアップロードボタンを押した。
最初の数時間、再生数はほとんど動かなかった。数十回。百回を超えたのは、夜になってからだった。
さくやが呟く。
「思ったより静かですね」
「最初はこんなものです」部下はモニターから目を離さず答えた。「ただ、小さなネットニュースが一つ拾ってくれました。明日の朝には変わります」
翌朝、予告通りだった。ネットニュースの記事が拡散され始め、「うちの町の話かもしれない」という声とともに静かに広まっていった。
■街の反応
数日後、街角のカフェで話題に上るようになった。
「ねえ、あの記事見た?」「立ち退きの話、やっぱり裏があったんじゃないの」「うちの旦那も変だって言ってたんよ」
大きな炎ではない。しかし確実に、火種は広がっていた。
企業側も動きを察知したのか、動画の削除申請を出し始めた。しかし削除されるたびに、記事がまた別の場所で取り上げられた。
さくやがモニターを見ながら言った。
「隠そうとするから、余計に広まるんやで」
■次の一手
夜、師匠が資料を広げながら言った。
「次の一手は慎重かつ大胆に」
マダムが頷く。
「録音データだけでは足りません。書類の現物が必要です」
さくやが顔を上げた。
「また潜入、ですか」
「今度はマダムたちも一緒に動きます」
部下が静かに付け加えた。
「企業側の次の会議は三日後です。準備は整っています」
さくやは少し考えてから、頷いた。
窓の外に、湖が静かに広がっていた。水面に小さな波紋が立ち、ゆっくりと岸へ向かって広がっていく。
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