■第113話 戦国無双編 白虎、広場を駆ける
夕陽が広場を赤く染める。
三国の将が、影を引いて現れた。
白い虎が、砂塵を蹴って走る。
■夕暮れの広場
白い孔雀の爆撃で前線を崩したものの、三国勢力はまだ退いていなかった。
夕陽が東の村の広場を赤く染めている。城壁の上からジュウベェが村全体を見渡した。
「まだ油断はできないでござる」
■三国の将、現る
地を踏み鳴らす重い足音が、広場に響いた。
先頭はノブナガ。紀州犬に跨り、その存在感だけで周囲を圧している。続くマサムネは秋田犬の背で槍を構え、冷静な目で戦場を読んでいた。最後尾のシンゲンは甲斐犬と並んで薙刀を携え、一歩一歩、計算された動きで前進してくる。
三国の犬部隊が、広場を埋め始めた。紀州犬、秋田犬、甲斐犬。それぞれの隊列が整然と並び、城壁へ向かって圧力をかけてくる。
城壁の上が、静まり返った。
その時——
「おまたせー」
■白虎、駆ける
最初に気づいたのは、地面の振動だった。
広場の端から、白い塊が迫ってくる。最初は遠くの白い点だった。それが瞬く間に大きくなり、地を揺らしながら突進してくる。
チュールさんだった。
小さきものから見れば、白い山が動いているようなものだ。その背にさくやが低く構え、前だけを見ている。後ろには奥さん、さらに子トラ三匹が続く。一家が一直線に、敵陣へ向かって走っていた。
広場を埋めていた犬部隊が、その姿を見た瞬間に動きを止めた。
止まったまま、動けなかった。
チュールさんが紀州犬の前衛へ激突した。
轟音が広場を揺らした。土煙が空へ巻き上がり、前衛の隊列ごと吹き飛んだ。兵士たちが宙を舞い、犬たちが横転し、盾や槍が四方へ散らばる。
チュールさんが吠えた。
その咆哮が、広場全体を震わせた。土煙がまだ晴れない中を、そのまま突き進む。次の列へ激突する。また轟音。また土煙。また隊列が弾け飛ぶ。
奥さんが右の穴へ突っ込んだ。土煙の中から犬が一頭、二頭と吹き飛んでいく。子トラ三匹が左へ散り、小さな体で縦横に走り回りながら足元を崩していく。
城壁の上が、しんと静まり返った。
土煙が晴れるたびに、あった隊列が消えている。
「今でござる」
■波が押し寄せる
チュール一家が割いた穴へ、ジュウベェが流れ込んだ。
刀を抜いた者、槍を構えた者、盾を押し当てた者。それぞれが敵の隊列の隙間へ入り込み、内側から押し広げていく。紀州犬の部隊が立て直そうとするが、次々と横から押されて陣形が保てない。
側面では、レッドが動いていた。
「ダダダダダ」
マシンガンが秋田犬の隊列を横から削る。盾が吹き飛び、隊列が崩れたところへチュールさんの奥さんが突っ込んだ。秋田犬たちが散り散りになる。
マサムネが槍を構え直して怒鳴る。しかし声が届く前に、レッドはもう次の位置へ移っていた。
「ヒャッホー」
■将たちの焦り
ノブナガが紀州犬を走らせ、崩れた前線を立て直そうとした。しかしジュウベェの波は止まらない。一人押し返しても、次の者が来る。また押し返しても、また来る。
シンゲンが薙刀を振るい、周囲を薙ぎ払った。一瞬、空間が生まれる。そこへさくやが入った。
チュールさんの瞬発力で間合いを詰め、シンゲンが薙刀を振り直す前に懐へ潜り込む。甲斐犬が体勢を崩した。
広場を俯瞰すれば——三国の隊列は、もう整然としていなかった。あちこちに穴が開き、将たちが穴を塞ごうと走り回っている。塞いだ端から、また別の穴が開く。
「今だ。全員前進」
ジュウベェの声が、広場に響いた。
城壁から残りの守備隊が一斉に飛び出した。広場全体が、村側の色に染まっていく。
■退却
夕暮れが深くなる中、三国軍が退いていった。
将たちの背中が、夕陽の中に消えていく。広場に残ったのは、砂塵と、荒い息と、立ったままの者たちだった。
チュールさんが鼻を鳴らした。さくやがその首を軽く叩いた。子トラたちが足元でころころと転がっている。
城壁の上からジュウベェが降りてきて、さくやの隣に立った。
「次も全力で行こうな」
さくやが頷いた。周りのジュウベェたちも、静かに頷いた。
夕陽が、広場を静かに照らしていた。
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