■第112話 白い翼、舞い降りる
絶望が城壁を覆う。
矢も槍も、もう限界だった。
その時、空が白く割れた。
■崩落寸前の城壁
東の村の城壁が、じりじりと押されていた。
ノブナガの紀州犬に乗る兵が放つ矢が屋根を掠め、槍を持つ手が疲労で震えている。矢筒はとうに半分を切っていた。
「くそっ、また押されとるやんけ」
城壁上のさくやが、埃にまみれた顔で呟いた。
■天然指揮官の奮闘
ヤマネコの背でジュウベェが駆け回る。
「皆、落ち着けでござる。壁を死守するでござるぞ」
城壁全体に声が響く。が、次の瞬間——
「……あ、拙者、間違えて切腹の準備しそうになったでござる」
一斉に刀を抜きかける音がした。
さくやが額に手を当てた。
「やめとき。まだ介錯の準備もしてへんやん」
刀を収める音が、波のように広がった。
■限界
矢が尽きかけ、槍を持つ腕が上がらなくなってきた。
ジュウベェが叫ぶ。その声にも、疲労が滲んでいた。敵兵の勝ち誇った声が、じわじわと近づいてくる。
城壁が、悲鳴を上げるような音を立てた。
その時——
■空が白く光った
三羽の白い孔雀が、雲の向こうから現れた。
城壁のあちこちで、顔が空を向く。孔雀の背に、レイナとエレナの姿がある。羽ばたくたびに風が吹き、戦場の埃が舞い上がった。
「こ、これは……我、守るでござるぞ」
その声が重なり、城壁が震えた。
■逆転
「全員、反撃開始」
レッドがマシンガンを構え、敵陣へ向けて引き金を引いた。
「ダダダダダ」
盾が、次々と吹き飛んでいく。城壁の上が、どっと静まり返った。
「な、なんという轟音でござるか」「盾がでごぁ……」「天の怒りでござるか」
どよめきが広がる。さくやが一歩引いた。
「……普通の武器やで」
その時、孔雀の背からエレナが静かに腕を振った。
爆弾が、敵陣の真ん中に落ちた。
「ドカーン」
地面が割れるような轟音とともに、土煙が空へ舞い上がった。紀州犬ごと兵士たちが吹き飛び、盾も槍も、まとめて宙を舞う。ノブナガ軍の前線が、一瞬で消えた。
続けてもう一発。
「ドドーン」
今度は秋田犬の部隊が巻き込まれた。土煙の中から、兜だけが転がり出てくる。
「て、天が火を吐いたでござる——!」
城壁の上で、一斉に手を合わせる気配がした。
さくやがもう一歩引いた。
「拝んでる場合ちゃうで」
煙がまだ晴れない敵陣で、右往左往する影が見える。指揮官の声が届かない。犬たちも散り散りになっていた。
「ヒャッホー」
レッドがマシンガンを掲げた。城壁の上がしんと静まり返る。
「……あの御仁、何と申されたのでござるか」
ジュウベェがさくやを見た。さくやは首を振った。
「一気に押し返すでござる。皆、続けでござるぞ」
城壁から、どっと声が上がった。今度は拝まなかった。
■夕暮れ
戦局が傾いたのは、夕方のことだった。
三国勢力が退いていく。城壁の上に、静けさが戻ってきた。
ジュウベェがヤマネコから降り、さくやの隣に立った。
「今日の勝利は、ほんの一瞬に過ぎぬでござる。だが、次の策に移るでござる」
白い孔雀が、夕陽の中を北へ帰っていく。金色の光の中に、翼が消えた。
「今日は、ほんまにすごかったな」
「拙者一人では、とても成し遂げられなかったでござる」
しばらく、二人とも黙っていた。
「まだ戦いは続くんやろうな」
「そうでござる。でも、皆がおれば大丈夫でござる」
夜空に、一番星が出た。白い孔雀の姿は、もうどこにも見えなかった。
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