■第106話 市街地再開発編 郊外計画の闇と潜入作戦
巨なる陰謀うごめきて、街の運命風前の灯 小さき忍者影となり、真実求めて夜に消ゆ 月明かりのみが照らしけり、希望という名の細き道を
■湖面に映る朝日と気になる報告
湖面が朝日を受けて、まるで溶けた金のように美しく輝いている。自然の荘厳な美しさに心を奪われそうになるが、昨夜のリトルさくや忍者隊からの報告が気になって、師匠は完全に集中することができずにいた。
「師匠、昨日の夜中に市役所の周りをパトロールしてたら、妙なもん見つけてしもうたんや」
リトルさくやが小さな手に数枚の写真を大切そうに抱えて、息を切らせながら駆けてくる。
「最初はな、普通に外から見てたんやけど、窓が高すぎて何も見えへんかってん」
「それで?」
「せやから、みんなで人間ピラミッド作ってん!でも途中で崩れて、みんなでゴロゴロ転がってもうた」
師匠が思わず苦笑する。
「次は街灯によじ登ろうとしたんやけど、滑って落ちそうになるし…」
「危ないじゃないですか」
「大丈夫や!最終的に、雨どいを伝って屋根まで登って、そこから撮影に成功したんや!」
写真を見ると確かに、かなり高い角度から撮影されている。小さな忍者たちの努力の跡が伺えた。
「でもな、一番大変やったのは帰りやで。屋根から降りる時に、また滑り台みたいになって…」
師匠は湖の静寂を見つめながら、忍者隊の奮闘ぶりを想像して、複雑な気持ちになっていた。
■新たな協力者の登場
朝8時——湖南西拠点の会議室。
いつもの会議室に師匠、OLさん、リトルさくやが集まり、テーブルの上には忍者隊が試行錯誤の末に撮影してきた写真が整然と並べられていた。
「これ見てみ、師匠」
リトルさくやが一番鮮明に写っている写真を指差す。
「市役所の4階、夜中の2時やのに煌々と電気がついてて、知らんおじさんらが10人以上も集まって、なんやら真剣に相談してはったで」
「でもな、最初の写真は全部ブレブレやってん。屋根の上で風に吹かれながらやから、手がプルプル震えて」
別の写真を見せる。確かにピンボケで何が写っているかよく分からない。
「せやから、今度は三脚代わりに仲間の肩を借りてん。でも、その子も震えるから結局あかんかった」
「最終的には、みんなで息を合わせて『せーの』で撮影してん。10枚目でやっとマシなのが撮れたわ」
そこへ、会議室の扉を慎重にノックする音が響いた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、普段商店街の純喫茶を経営している上品で知的な女性——通称マダムだった。その後ろには、黒いスーツを完璧に着こなした屈強な体格の男性SP2名が、音もなく静かに続いている。
「あ、マダム!来てくれはったんや」
リトルさくやが心底嬉しそうに声を上げる。
「師匠から緊急のご連絡をいただきまして、お手伝いに参上いたしました」
マダムが上品に挨拶する。普段は商店街で優雅にコーヒーを淹れている彼女だが、実は街の古い地主として様々な事業を手がけており、師匠の重要なスポンサーでもあると皆が密かに予想している、謎に満ちた女性だった。
「こちらは私の護衛です。今回の件、単純な行政手続きの問題ではないかもしれませんね」
■写真から浮かび上がる不審な事実
「写真を拝見する限り、確かに極めて不審な動きですわね」
マダムがテーブルに散らばった写真を一枚一枚、まるで名探偵のように丁寧に検分する。
「ピンボケのやつもあるけど、これが一番よう撮れてるで」
リトルさくやが自慢げに一枚を差し出す。
「それに、この写真に写っている建設会社のロゴマーク、私も見覚えがございますわ」
「知ってはるんですか?」
「ええ。最近、この街の郊外で大規模な土地買収を進めている会社です」
「それに、この地図…」
別の写真を手に取ったOLさんが眉をひそめる。
「私たちが提案した駅前球場の位置とは全く異なりますね。これは郊外の山際です」
「ほんまや!」
リトルさくやが驚いて声を上げる。
「ウチらの駅前一体整備計画と全然違う場所やんか!これってどういうことやねん?」
マダムが状況を整理するように静かに話す。
「恐らく、師匠を『市民の敵』に仕立て上げて、委員会が自由に予算と設計を進める算段でしょうね」
「どういうことですか?」
師匠が尋ねる。
「師匠は市との癒着がない小さな設計事務所。最初から『問題のある民間会社』として糾弾する予定だったのではないかしら」
「なるほど…」
師匠が深く頷く。
「そうすることで『委員会が市民を守った』という構図を作り、堂々と別の計画を進められるわけですね」
■月夜の市役所潜入作戦
夜9時——静寂に包まれた市役所への出発。
「準備はどうですか?」
師匠がOLさんとJDさんに確認する。二人は完璧に清掃員の制服を着こなしていた。
「清掃用具も本物を調達しました」
OLさんが清掃カートを点検する。
「さくや、入ってみて」
特製の清掃用具入れは、リトルさくや専用に作られた隠れ場所だった。小型カメラと録音機が仕込まれている。
「ぴったりやな!でも、この前の屋根登りで筋肉痛になっててん。ちょっと狭いわ」
リトルさくやが用具入れの中から顔を出す。
師匠は拠点で待機しながら、通信機を通じて逐一状況を確認する。
「清掃チーム、市役所到着。職員専用入口から侵入開始します」
「了解しました。くれぐれも無理は禁物ですよ」
■深夜の重大発見
深夜11時——潜入チームからの緊急報告。
「師匠、マダム、とんでもないことが判明しました」
OLさんの緊張した声が通信機から聞こえてくる。
清掃用具入れの中からリトルさくやの小さな声が報告される。
「『師匠の提案は専門的検証の結果、地盤や環境面で重大な問題があることが判明した』って言うてはるで」
「それから?」
「『やはり小さな設計事務所では荷が重すぎた。市民の安全を考えれば、委員会が責任を持って優秀な設計会社と進めるべきだ』って話してはります」
「続けて」
「『師匠を悪役にして、われわれが市民を守ったという構図にする。そうすれば予算も設計も自由に決められる』って、めっちゃ得意そうに言うてはりました」
師匠とマダムが意味深な視線を交わす。
「なるほど、そういう手法ですか」
マダムが冷静に状況を分析する。
「師匠を『問題のある民間業者』に仕立て上げ、委員会が『市民の味方』として登場する。最初からそのシナリオだったのですね」
「市との癒着がない小さな事務所やからこそ、都合がよかったってことか」
リトルさくやが悔しそうに言う。
「でも、決定的な証拠を入手できましたね」
師匠が静かに、しかし確信に満ちて微笑む。
「相手の手の内が完全に分かりました。真実を市民に伝える準備を始めましょう」
月明かりの下で、巧妙な陰謀の全容が明らかになった。街の未来を守るための真の戦いが、まさに始まろうとしていた。
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