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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ


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第3話 出会い2

「黎! ぼさっとしてんじゃねえ!!」


店から飛び出してきた親父の怒声。

振り返ると、親父の手には、彼が密かにジャンクパーツから組み上げていた旧式の武器型デバイスが握られていた。


「骨格系シールド展開! 血管系、魔力回路接続――ッ!」


親父が叫ぶと、ツギハギだらけのデバイスが、強烈な赤い熱光を放った。親父の体から魔力が注ぎ込まれ、デバイスに刻まれた魔法陣が宙に浮かび上がる。


「こいつは水と質量のバケモノだ! 物理は通らねえが、熱には脆い!!」


親父のデバイスから放たれた極太の爆炎が、降り注ぐ粘液と触手を一瞬で蒸発させる。

元・特務防衛局の研究開発部にいた親父の知識と、ガラクタから実践レベルの火力を引き出すその腕は、紛れもなく本物だった。


だが――相手の質量が、あまりにも絶望的すぎた。


「■■■■■――ッ」


怪物が嘲笑うかのように咆哮した瞬間、炎を突き破り、焼け焦げた巨大な鱗の尾が叩きつけられた。


嫌な破砕音。


親父の構えた骨格系のシールドが粉々に砕け散り、その強靭な身体が、ボロ布のように俺の目の前へ吹き飛ばされた。


「親父、しっかりしろ! 今、止血を……!」

「馬鹿……野郎……」


血を吐きながら、親父は震える手で俺の腕を掴んだ。


「お前は……逃げろ。お前の体を……絶対に……防衛局に……見られる、な……」


親父の遺言のような言葉に、俺は涙を堪え、瓦礫の破片で自分の腕を引き裂こうとした。俺の血を分ければ、親父の傷だって塞がるかもしれない……!


だが、怪物の巨大な触手が、瀕死の親父と俺を、まとめてすり潰そうと振り下ろされる。


「……親父を、殺させない」


俺の中で、何かが完全に壊れる音がした。

親父の言葉を破り、俺は自分の中の銀色を、本能のままに解き放った。


裂けた俺の皮膚から噴き出した銀色の流体が、意志を持つように空中で凝固し、巨大な銀の盾へと変質した。


ガァァァンッ!!


振り下ろされた触手が、俺の創り出した銀の盾に激突し、凄まじい衝撃波がスラムの廃屋を吹き飛ばす。


その凄まじい衝撃波を、一人の人物が、泥に塗れたスラムには不釣り合いな純白の制服を纏いながら、一人で舞い降りて受け止めていた。

俺はその姿をゴミ箱に入れられていた雑誌で見たことがあった。


特務防衛局の若きエース――灰原蛍。


「……何、今の力。デバイスなしで、神の力を……?」


蛍の顔が、動揺に歪む。

洗練された人間の魔術戦闘の極致に立つ彼女にとって、黎のその理外の力は、戦慄と嫉妬、そして得体の知れない恐怖として映った。


だが、怪物の咆哮が、彼女を現実に引き戻す。


「■■■■■――ッッ!!」


恩師である鉄を瀕死に追いやった、怪物。

蛍は動揺を圧し殺し、その美しい瞳に冷徹な殺意を宿した。


「……私の前で、師を傷つけた代償は、高いわよ…怪物」


彼女は自身のデバイスを起動する。一切の無駄がない魔術行使。


「 血管・神経系、魔力全開。――紫天の罰(ケラウノス)


彼女の放った赤い紫電が、怪物の巨大な肉塊を貫き、その瞬間に凄まじい熱と雷が眷属の体内を駆け巡り、破裂した。


蛍はデバイスを収め、黎と、瀕死の鉄のもとへ歩み寄る。


怪物の巨体が塵となって崩れ落ち、悲鳴に満ちていたスラムに不気味な静寂が戻る。チリチリと空気を焦がす紫電の余韻の中、蛍は特級デバイスを静かに鞘へと収めた。


彼女の純白のブーツが、泥と血に塗れた地面を踏みしめ、俺たちの前へと歩み寄ってくる。

その冷徹な瞳は、瀕死の親父を一瞥した後、俺の腕から静かに体内へと引っ込んでいく銀色を真っ直ぐに射抜いていた。


(……デバイスもなしに、事象を書き換えた。人間の魔術の極致すら嘲笑う、理外のバケモノ)


彼女の表情は氷のように冷たかったが、その奥底には、自身の積み上げてきた誇りを揺るがすほどの戦慄と、得体の知れない存在に対する警戒が渦巻いているのがわかった。


「……頼む。あんた、防衛局のエリートなんだろ……っ!」


俺は親父の血で赤く染まった手で、すがるように叫んだ。


「親父を助けてくれ! このままじゃ死んじまう!」


「……ええ、そうね。彼の傷は、スラムのガラクタじゃどうにもならない。けれど、特務防衛局の医療設備に繋げば、ギリギリで命を繋ぎ止めることは可能よ」


蛍は感情の読めない声で淡々と告げた。


「でも、あなたはどうするつもり? その異常な力……あなたを、防衛局の研究開発部が見逃すと思う? あなたは解体され、無限に魔術を引き出される資源になるわ」


俺は息を呑んだ。親父が最後に「防衛局に見られるな」と警告したのは、そういう意味だったのか。

だが、俺にとってそんなことはどうでもよかった。


「俺の体なんてどうなったっていい! だから――」

「私が、あなたを匿ってあげる」


俺の悲痛な叫びを遮り、蛍は冷たく言い放った。


「恩師である彼を、ここで死なせたくはない。……そして、あなたのその理外の力は、防衛局のシステムから隠し、私の手元に置いて管理・監視する必要がある」


蛍はしゃがみ込み、血だまりの中に座り込む俺と視線を合わせた。


「私の特権を使って、この男の命は保証する。その代わり――」


蛍は俺の目を真っ直ぐに見据え、この世で最も非情で、最も甘美な条件を突きつけた。


「今日からお前は、私の(いぬ)になりなさい」


人間としての自由を捨て、防衛局の暗部で永遠に飼い殺される最悪の契約。

だが、腕の中で微かに息をする親父の温もりを守れるのなら、俺に迷いなどなかった。


「……ああ。親父が生きられるなら」

俺は、自分に心を与えてくれた世界で唯一の居場所を強く抱きしめ、新たな主人を見上げた。


「俺の命も力も、全部あんたにくれてやるよ。……マスター」


俺は最悪の契約を結ぶことになった。

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