第2話 出会い1
「おい黎、その基板の配線は逆だ。またショートさせる気か!」
「……悪い、親父。この時代の規格は、どうも頭に入ってこない」
薄暗いトタン屋根の隙間から、錆びついたような陽の光が差し込む。
ガラクタの山に埋もれた小さな工房。
油と鉄の匂いが染み付いたこのジャンク屋、と言っても周りはスラムでゴミからガラクタを集め、デバイスという魔導具を作ることで成形を立てている。
俺の名前は朝霞黎このジャンク屋もどきの店主に10年前拾われてから、一緒に過ごしている。
俺は記憶を失い、あるゴミ捨て場に捨てられていた。それを拾ってくれたのが俺の親父ーー朝霞鉄だ。
俺を拾い、育ててくれている親父は、油まみれのタオルで顔を拭いながら大きな溜め息をついた。白髪交じりの無精髭に、筋骨隆々の体躯。不器用だが、その手はどんなガラクタも直してしまう魔法の手のように思える。
「……まあいい、今日は店仕舞いだ。飯にするぞ」
親父がコンロに火をつけ、鍋を温め始める。具材は出汁の出きった野菜の切れ端と、少しばかりの人工肉。それでも、俺にとっては世界で一番美味いご馳走だ。
「……親父」
「ん?」
「俺、また自分の血を見た。やっぱり、赤くなかった」
俺の言葉に、親父はコンロの火を止めることなく、ただ少しだけ背中を強張らせた。
俺の身体の中には、人間の血は流れていない。皮膚の下に蠢いているのは、冷たくて眩い銀色だ。痛みは感じるが、怪我をしてもすぐにその銀色が傷口を塞いでしまう。
自分が何者なのか、どこから来たのか。本当は人間ですらない、ただのバケモノなんじゃないか。
その不安を口にするたび、親父は決まってこう言うのだ。
「馬鹿野郎。血が銀色だろうが泥水だろうが、俺の作ったスープを美味えって言って食う奴は、等しく人間だ。お前は俺の息子で、この店の従業員。それ以上でも以下でもねえよ」
「……親父」
「ほら、食え。冷めるぞ」
差し出された凹んだアルミの器。そこから立ち上る湯気の温かさが、俺の空っぽの胸の奥をじんわりと満たしていく。
食事を終え、俺は店の外に出た。
スラムの澱んだ空気の中、遥か遠く、分厚い防衛壁の向こう側にそびえ立つ中央タワーを見つめる。
あの中央タワーには特務防衛局という市民を守るための組織がある。この国にはテロが頻発していて、このテロを対処するのが特務防衛局である。
組織には特別な試験か、スカウトでしか入隊することができない。話によると親父も昔、あそこの開発局という部署にいたらしい。
そんな人がどうしてこのスラムでジャンク屋もどきをしているのかはわからないが、その話はいくら聞いても教えてくれなかった。
特務防衛局の中央タワーその地下深く、誰も立ち入れない中枢に鎮座しているとされる絶対的な存在――アダムカドモンという神の死骸があるとされている。
誰もその本当の姿を見たことはない。それを使って未来予測システムを構築し、この世界の未来を観測し守っているらしい。
そのシステムから無価値とされた人間は、遠くない未来必ず死に至る。つまりは国から見殺しされる。
『……廃棄区画アラート。対象エリア、第十三スラム街。生存確率、2.4%』




