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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ
第1章 魔術戦争編

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第4話 ご主人様の教えとやかましい番犬たち

かなり修正しました。ちょっと説明が回りくどくてめんどくさかったので……

それからというもの、急遽呼ばれた魔道車が呼ばれ、親父が運ばれた。


けたたましいサイレンの音が、夜の静寂を切り裂いていく。

魔力駆動の特殊救急車――魔道車に同乗した俺は、中央タワーの地下に併設された防衛局専用の医療区画へと案内された。


そこからの時間は、生きた心地がしなかった。

処置室の重厚な扉が閉ざされ、赤々と点灯する治療中のサイン。清潔で冷たい廊下の長椅子に座り、俺はただ祈るように両手を組んでうつむいていた。

隣には、純白の制服を纏った少女――灰原蛍が、微動だにせず立ち尽くしている。


どれほどの時間が経っただろうか。

不意に赤いランプが消え、扉が開いた。出てきた医療スタッフが、蛍に向かって短く敬礼し、告げる。


「灰原隊長。対象の処置、完了しました。内臓の損傷および魔力汚染の浄化に成功。……一命は取り留めました。現在は深い眠りについています。魔力の自然回復を待つため、当面はこのまま絶対安静となります」


その言葉を聞いた瞬間、俺は張り詰めていた糸が切れたように、深く、長く息を吐き出した。


「……見なさい」


蛍に促され、俺は処置室の中を覗き込んだ。

部屋の中には、寝台に親父が静かに横たわっている。

白いい良質の中で親父は深く穏やかに眠りについていた。


顔色は悪く、痛々しい姿ではあったが……その胸は確かに、規則正しく上下していた。


「……親父は、本当に助かったんだな」

「ええ。防衛局の医療班は極めて優秀よ。私の権限で、彼には今後も最高レベルの延命処置と治療を受けさせるわ」


蛍は俺を一瞥することもなく、淡々と事実だけを口にした。


「その代わり、約束は守ってもらうわよ。今日からあなたは私の手駒。鎖に繋がれた狗として、私のためにその身をすり減らしなさい」

「……分かってるよ、マスター」


俺が自嘲と皮肉を込めてそう呼ぶと、蛍は「よろしい」と短く返し、踵を返した。

親父の命を握られている以上、俺に拒否権はない。だが、親父が今日も生きて息をしているという事実だけで、不思議と腹は括れていた。


「ついてきなさい。まずは、あなたに基礎を叩き込むわ」


蛍に先導されるまま、俺は医療区画を離れ、専用の認証エレベーターへと乗り込んだ。

上層階へと昇りながら、蛍は正面を見据えたまま冷徹な声で告げた。


「今日からあなたは、私が個人的なツテで引き抜いた無名の特待生ということになっているわ」

「特待生……ね。スラム上がりの俺が?」

「いいこと? あなたの体内にある力は、本来この世界に存在してはならない代物よ。もしそれが防衛局の上層部や研究開発部に知られれば、あなたは実験体扱い。鉄師匠の治療もそこまでね」

「……脅さなくても分かってる」

「ならいいわ。だからこそ、あなたは普通の隊員として振る舞い、システムを欺き通す必要がある」


エレベーターが止まり、俺たちは重厚な扉を潜った。





【――特務防衛局、灰原小隊・専用訓練室】


俺は蛍からこのの魔術やデバイスについて叩き込まれた。


防衛局が支給する武器――デバイスは、単なる魔力触媒ではない。その素材自体が、地下で眠る神の死骸『アダムカドモン』の肉体を忠実に再現した複製品で構成されている。


つまり、隊員たちが手にしているのは、神の肉体を工業的に再構築した動く臓器のようなものだ。デバイスそのものが神の一部として機能し、アダムカドモンの脳と共鳴することで、デバイスに刻み込まれた魔術刻印を読み込むことができる。


その構造は、神のどの部位を模した素材かによって影響が大きく変わる。

それは大きく三つの系統に分けられる。

【骨格系】は、骨を模した素材だ。物理的な強固さと事象の固定に優れ、燃費もいい。

【血管系】は、神のエネルギー循環系を模したパーツ。膨大な魔力を変換・放出するが、その分消耗も激しい。

【神経系】は、神の知覚や伝達系を模した極めて精密な配線だ。索敵や術式の高度な制御を可能にする。


これら神の肉体の素材を組み合わせて作られたデバイスに、術者自身の魔力を流し込む。それが、この世界の魔術、その根幹だ。


……だが、俺の体内にある力は、その常識を根底から覆す。


俺は、防衛局がわざわざ工業的に生産しているデバイスの素体を、自身の銀の血を変化させることで、一瞬にして自分自身で創り出せてしまうのだ。


だからこそ、俺は蛍によって中身を砕かれたただの剣の柄を起点にして武装を創り出し、はたから見れば極めて出力の高い正規デバイスを使っているように偽装しなければならないのだ。


そうして、物質の変換に苦戦していると蛍から声がかかった。


「あなたは私の狗。防衛局のシステムから隠し通し、一番効果的な盤面で、私の最高火力を叩き込むための隠し武器として使い潰してあげる。……分かったら、今日はもう休みなさい」


蛍はそういうと、一枚のカードキーを俺に向けて投げ渡した。


「休む?」

「ええ。あなたの魔力タンクも底をつきかけているはずよ。教えた通り、魔力は睡眠による自然回復しか手段がない。手駒に過労死されたら困るから、きちんと回復させておきなさい」

「……ああ、分かったよ。マスター」


俺が皮肉を込めてそう返した瞬間――蛍の纏う空気が、ぞっとするほど冷たく鋭くなった。


「言葉遣い」


ピシャリと、氷をぶつけるような声が訓練室に響く。


「……は?」

「『分かったよ』じゃないわ。今のあなたは特務防衛局の特待生であり、私の直属の部下。いつまでもスラムの野良犬気分でいられては、すぐにボロが出るわ」


蛍はコツコツとヒールを鳴らして一歩距離を詰め、俺を射抜くように睨みつけた。だが、その氷のような瞳の奥には、単なる支配欲ではない、切実な焦りのような色が滲んでいた。


「いい? あなた自身が防衛局の規律に染まり普通の隊員を演じ切ってくれないと、私ひとりの権限では到底庇いきれなくなるわ。そうなれば、」

「っ……!!」


圧倒的な力関係。俺はギリッと奥歯が鳴るほど噛み締め、拳を震わせながら、喉まで出かかった反抗の言葉を無理やり飲み込んだ。

親父の命を握られている以上、俺に牙を剥く権利はない。


「……分かり、ました。マスター」

「よろしい。いい子ね」


蛍はふっと笑みを浮かべると、一枚のカードキーを俺に向けて投げ渡した。


案内されたのは、灰原小隊に割り当てられた防衛局の隊員寮の一室だった。

スラムの隙間風が吹くあばら屋とは比べ物にならない、無機質だが隅々まで清潔な部屋。ホコリひとつない柔らかいベッドに倒れ込むと、今日一日の異常な疲労と緊張がどっと押し寄せてきた。


「……親父」


真っ白な天井を見上げ、深く、長く息を吐く。

まだ信じられないような一日だったが、親父は確かに生きている。それだけで、俺がこの見知らぬ天井の下で眠る理由は十分だった。

俺は蛍から渡された空っぽの剣の柄を枕元に置き、意識を手放すように、泥のような深い眠りについた。


――それから、数日が経った。

俺は、灰原小隊の専用訓練室にほとんど軟禁状態となっていた。


「そこ、魔力のパスがズレているわ。これじゃただの銀の棒よ」

「……分かって、います。頭では理解してるんです」


敬語を強制されているせいで、ただでさえイラつく訓練のストレスが倍増している。

床には、蛍が用意した何十種類ものデバイスの構造図が散乱していた。


スラムで親父のガラクタを弄り回していた俺にとって、構造図を読み解くのは造作もないことだった。【骨格系】の硬度計算、【血管系】のエネルギー伝導率、【神経系】の配線レイアウト。それらを目視して完璧に理解し、自身の銀の血をあのダミーの柄から溢れさせて、緻密なデバイスの素体を瞬時に組み上げる。

俺の血が形作った銀の剣は、防衛局の特級デバイスすら凌駕するほどの完璧なフォルムと構造を保っていた。


「……起動、【身体強化】ダウンロード」


俺は不可視のプログラムである『魔術刻印』を、手元の銀の剣に刻み込もうとする。

ガチッ、と見えない歯車が噛み合う感覚。よし、いける。

そう思った瞬間、剣に走っていた魔力の光がバチバチと不規則に瞬き……。


プツンッ。


虚しい音を立てて、銀の剣がボロボロと崩れ落ち、ただの冷たい流体に戻って床に散らばった。


「……また不発。これで今日だけで四十二回目よ」


蛍が呆れたように溜め息をつき、手元のタブレットに冷酷な評価を打ち込む。

いくら俺の銀の血で最高精度のデバイス素体を創り出せても、実際に魔術を発動させるための『魔術刻印』をそこに正確に刻み込む工程が、俺は致命的に苦手だったのだ。


「物理的なギアや回路なら繋ぎ目が分かるけど、この刻印ってやつの抽象的なロジックがどうにも性に合わないんですよ」

「言い訳は聞かないわ。ハードウェアの構造は完璧なのに、刻印を流し込む工程になると途端に魔力制御が破綻する。いくら立派な大砲を作れても、火薬の詰め方を知らなければただの鉄くずよ」


蛍の容赦ない言葉に、俺は舌打ちを堪えながら散らばった銀の血を体内へ戻す。

俺の異常性がバレないよう、この数日間、蛍は俺の魔術刻印の成功率を実戦レベルまで引き上げるために、地獄のような反復練習を強いてきた。


ダミーデバイスの柄を握り直し、俺は額の汗を拭う。


「もう一回だ。次は……次は必ず刻んでみせます」

「ええ。最低限の起動くらいはしてもらわないと困るわ。……やり直しなさい」


俺が再び体内の銀の血を柄の先に集中させようとした、その時だった。


「隊長ォ!! なんですか、特待生ってのは! 俺は何も聞いてねえぞ!!」


バンッ! と乱暴な音を立てて訓練室の重厚な扉が蹴り開けられ、一人の男がズカズカと踏み込んできた。

防衛局の制服を着崩し、背に身の丈ほどもある無骨なデバイスを背負った男――黒鉄くろがね 獅狼しろうだ。

その鋭い三白眼は、俺の姿を視界に捉えるなり、あからさまな敵意と不快感を剥き出しにして細められた。


「おい、そこの野良犬。お前みたいなスラム上がりのガキが、ウチの隊長のコネで入隊だと? ふざけんな、俺は絶対に認めねえし、背中も預けねえからな!」

「……キャンキャンうるさい番犬だな。俺も、お前みたいに暑苦しい奴は苦手だ」

「あぁん!? やんのかコラ!!」


一触即発。俺と獅狼が互いの胸ぐらを掴み合いそうになった、その時だった。


「あはは。獅狼くん、ダメだよ。新しい子をいきなり怖がらせちゃ」


殺伐とした空気を切り裂くように、ひときわ場違いな、おっとりとした柔らかい声が響いた。

いつの間にか訓練室の隅に、防衛局の制服の上にゆるいカーディガンを羽織った女性――穏田 のどかが立っていた。

彼女は四人分の温かいお茶が乗ったお盆を掲げ、ふんわりとした笑みを浮かべている。


「ほらほら、黎くんも獅狼くんも。お茶を淹れたから一息つこう? 隊長も、あんまりしごきすぎると嫌われちゃいますよ」

「の、のどかさん……! す、すんません! 別に喧嘩とか、そういうんじゃなくて……ッ!」


先ほどまで猛犬のように吠えていた獅狼が、のどかの姿を見た途端、耳まで真っ赤にして直立不動になった。

その極端すぎる態度に、俺は思わず毒気を抜かれ、小さく溜め息をつくしかなかった。


「……なんだ、この部隊」

「言ったはずよ。私の手駒だと」


呆れる俺の隣で、蛍は冷たくお茶のカップを受け取りながら、ふいっと視線を逸らした。


――こうして、親父の命を握る冷徹な主人、血気盛んな番犬、そして全てを包み込むような微笑みを湛えたお姉さん。

愛を知らずに生きてきた俺の、奇妙で騒がしい日々が幕を開けたのだ。

デバイスは特務防衛局の隊員たちが使用する、魔力を行使・増幅するための武装や触媒です。骨格系や血管系、神経系といった、素材を組み合わせて素体に魔術刻印を刻むことでデバイスを作ることができます。


特務防衛局はC級・B級・A級といったランクに分かれていて、C級には訓練用の出力が低いもの、B級には使い勝手のいいデバイス、A級には特注のデバイスが支給されています。


今回出てきた獅狼とのどか、蛍のランクはA級になります。

あと、主人公はデバイスの素体は生成できるのですが、魔術刻印を刻むことは苦手としています。


神については今後説明いたします。

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