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七人の方針

「ら、ラウニャドールが魔法を使うなんてバカなこと言うなよ。アイツらが僕らの言語を理解できるわけないだろ!」


 ガタン、と音を立ててトリフィアが立ち上がる。それをソミンは冷たく見返した。


「魔法を使うラウニャドールはカーネリアも見てる。私だってわざわざ嘘なんか()かないわよ」

「でも!」


 トリフィアは反論しようとしたが、言葉が続かず口をはくはくと動かすだけだった。


「魔法、魔法なんてアイツらが使い始めたら、それこそラウニャドールとの戦争になるだけじゃないか……」

「トリフィアの言う通りです。ラウニャドールが魔法を使うというのは確かなのですか? そのラウニャドールが存在するのはザジャだけですか? 他の国では? 真実なら早急に対策を考えなければなりません。確証が欲しい」


 シュディの真っ黒な瞳がソミンとアルデバランを捉えた。ソミンから視線で促され、今度はアルデバランが口を開く。


「ラウニャドールは蓄えたエリューで魔法を使うから、汚染されたエリューを消せば抑えることはできる。今のところ、俺が確認したのはザジャだけでグレナディーヌにはいなかった。ただ……」


 グレナディーヌで聞いた幼女の声を話すべきか。そもそも本当に聞いたのか確信が持てない今、話すのは得策ではないように思えた。


「……ラウニャドールの蝕脈が地下で繋がっていれば、他で出現する可能性は十分ある」

「地下、となるとザジャ以外も考えられると?」

「ああ」

「ラウニャドールがそんな大規模な侵蝕をしているなど、現実的な考えとは思えません」

「あら、そうでございますか?」


 シュディを冷たく笑うマリリアン。どういう意味だ、と顔を顰めた彼に、マリリアンは紫の瞳を細めた。


「ラウニャドールがこの世界に侵入してから既に三百年が経過していますもの。星の中心まで侵蝕していても不思議ではなくってよ?」


 大男が挙手をする。


「俺も、アメシスト嬢と同意見だ。常に最悪を想定して動く。そうだろう?」

「しかしクラーテス殿、その話だと我々は長らく表面上のラウニャドールだけ対処していたことになりますよ」

「そうだよ! ラウニャドールの侵蝕を許してたなんて、そんなの管理者(エリュプーパ)としての威厳が無いじゃないか!」

「こらこら落ち着きなさい二人共。そしてトリフィアは座る。行儀が悪いぞ?」


 クラーテスに(たしな)められ、不満そうにトリフィアは座り、シュディは眼鏡をクイッと押し上げた。


「で、だ。ラウニャドールをどうにかするために俺達はこうしてここに集まってる。なあ、エウルカさん」

「もちろんです。しかし私も懸念することがありまして……我らが祖は、既にこの世を離れているのではないか、と。皆様はどうお考えですか?」


 ザジャから戻る飛行船の中でロゼアリアも同じことを聞いてきた。その時はすぐ否定したが、それはロゼアリアがアルデバランの秘密を知っていたから話せたことだ。

 生まれ直しのことを隠したまま、太陽が昇らなかった「らしい」時代のことを根拠に二柱の女神がこの世界にいるとは断言できない。


「啓示も無いし、とっくに世を離れてらっしゃるんじゃないかしら」

「これに関しては、わたくしもエメラルダと一緒ですわ」

「うん。二人のお嬢さんが言ったことは想定しておかないとな」


 エウルカ、ソミン、マリリアン、クラーテスの四人は女神は世を離れている派だった。悩む表情から、おそらくシュディも同じ。

 トリフィアだけがそれを拒むように首を振る。


「僕は信じない。それなら、僕達は、管理者(エリュプーパ)は何のために今も存在してるんだ。カーネリアは? 君はどう考えてるんだい?」


 アルデバランを見るトリフィアは、肯定を求めていた。彼女が望む答えは持っている。しかし、返すことはできない。


「……女神が世を離れていたら、管理者(エリュプーパ)はこの星を放棄するのか? 俺はカーネリアの罪を清算すると決めた。女神が世を離れていようがいまいが、それは関係ない」

「カーネリア……! なんだ、君って結構頼もしいじゃないか!」

「私も、アルデバランが協力に応じてくれて良かったと思います」


 トリフィアとエウルカが笑顔を見せる反面、他の|管理者は難しい表情のままだった。


「ふうむ、つまりカーネリアは女神が捨てた世界にまだ価値があると?」

「なら言葉を返すが、女神が捨てた世界なら無価値だと思うのか? ……違うだろ」


 クラーテスがアルデバランを見る。夕日と炎がぶつかり合った。


「では、カーネリアには策があると? アメシスト嬢が言ったように仮に世界の大半が侵蝕されていたとしても、まだ取り返せると?」

「蝕脈を辿ってラウニャドールを生み出す本体を破壊する。本体さえ消えれば、ラウニャドールの脅威も落ち着くはずだ」

「ほう? ラウニャドールに本体がある確信は?」


 確信と呼べるものは無かった。それこそ、あの子供の声が聞き間違いじゃない前提で立てた仮説だ。アルデバランの仮説では、あの声の主こそがラウニャドールを生み出す本体ではないかと考えている。


 だが、声の主が存在しなかったとしたら。増殖し続けるラウニャドールを虱潰しに一匹残らず駆逐するしかなくなる。


「確信は無い。仮説の上に立てた仮説だ。俺の聞き間違いじゃなければ、グレナディーヌの魔窟で俺は子供に似たラウニャドールの声を聞いた。こちらの言葉をはっきりと話す声だった。その声の主が本体なんじゃないかと睨んでる」


 聞き間違いでないと分かってから明かしたい内容だったが、致し方ない。信じてもらえずとも構わなかった。


「はっきりと言葉を話すラウニャドールですか? ラウニャドールが言語を扱うことは周知の話ですが、こちらの言葉を扱うなど……いや、魔法を習得できるなら有り得なくはない」


 シュディが何やら考え込んでいる。その横でトリフィアが顔を青ざめさせていた。


「アイツらがまだ魔法を使うって決まったわけじゃないだろ!」

「だから、使ってたって言ってるじゃない」


 未だに信じてもらえないことにソミンがムッと顔を顰める。


「これ以上ラウニャドールの情報が無いのが現状だ。ここは、カーネリアの仮説に乗って本体とやらを探してみるのが一番じゃないか?」


 顎を撫でながら提案したクラーテス。見込んだ通り話の通じる男だ。こちらを詰めてくるのも、憎悪ではなく確実にラウニャドールを排除するため。たとえ女神が世を離れていようとも、クラーテスは世界を諦めないだろう。


「地下を這い回る蟻の巣から女王蟻を探せばいい、ということですわね。各国間で情報共有すべきと思いますけれど、残り五名はどうなさいますの?」


 今後の方針自体は決まったが、もし本体がここにいない五ヶ国にあればどうにもできない。どうするのか、と聞いたマリリアンは、しかし進んで五人の管理者(エリュプーパ)に声をかけるつもりは無かった。


 不参加の管理者(エリュプーパ)を連れ出すにはまず、東の大国シュヴダニアの管理者(エリュプーパ)を説得すべきだろう。シュヴダニアが参加を示せば、その属国も自ずと参加してくるはずだ。


「わたくしは嫌よ。腹黒のカイヤナイトとは気が合いませんもの」

「ザジャも無理ね。来週にも皇位継承戦が始まるし、そんな暇ないわ。それに元々、ザジャとシュヴダニアは犬猿の仲だし」

「実は俺も、カイヤナイトとは折り合いが悪くてなあ。いや、力になれず申し訳ない」

「クラーテスですら仲良くないんだから、僕とシュディも無理だね。僕も、あの胡散臭い男は好きになれないし」

「お恥ずかしながら、私はカイヤナイトとは面識が無く……」


 全員の視線がアルデバランに集まる。


「……言っておくが、俺も今のカイヤナイトとは面識無いぞ」


 カイヤナイトどころかソミンを除くこの場の全員が初めましてだ。


「あなたの発案なのだから、あなたが行けばよろしいのではなくて?」


 絶対に行きたくない様を隠さないマリリアンが、説得役をもうアルデバランで決定しようとしてくる。とはいえアルデバランも断るつもりもなかった。

 全ての責任を負うというのは、こういうことだと思うからだ。

 それに、カイヤナイトには三百年前の罪悪感がある。


「……分かった──」

「会議中申し訳ございません。主様、至急お耳に入れたいことが」


 付き添いの魔法使いが慌てた様子でアルデバランに耳打ちをする。しかしアルデバランは顔色を変えず、「そうか」とだけ返した。


「どうしたカーネリア。急ぎの用事かな?」


 興味深げに視線を投げてくるクラーテスを見返す。


「いや、問題ない。想定内の事が起きただけだ。既に手は打ってある」


 向こうもアルデバラン不在を狙っていたのだろうか。今し方伝えられた内容は、王都グレナディアにラウニャドールが出現した、というものだった。


(手は打ってあるが──いや、不安になるな。任せると決めただろ)

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