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流れ星の夜

 二日目も特に変わった様子はなく、日暮れを迎えた。


「流星群は日の入りから三時間後だっけ?」

「はい! 師匠がそのくらいから観測できるって言ってました!」


 毎年流星群の現れる日時を導き出しているのは魔塔の魔法使い。リブリーチェはその魔法使いの弟子。共に流れ星を観測する仲間として頼もしい。


「どこで観測する? 高台は人でいっぱいになるし、今年はお店の予約を取ってないし……」


 去年まではアーレリウスがレストランやカフェのテラス席を予約してくれていた。今年は騎士団の職務もあり、テラス席での観測は考えていなかった。


「周りが暗くて空が見える場所ならどこでも観測できますよ! もし良い場所が無かったら、魔塔で見ますか?」

「それはとても良い案だけど、私もオロルックも王都を離れられないの。星祭り中は見回りをしないといけないから」


 魔塔で流れ星を観測できたらどれだけ良かっただろう。もしかしたら、アルデバランと一緒に見れたかもしれない。


「やっぱ高台が良いんじゃないスか? 人多いなら、それだけ警戒しなきゃっスから」

「たしかに、オロルックの言う通りかも」


 人が集まる所にラウニャドールが襲来すれば、被害は計り知れない。ラウニャドール以外の問題が起こる可能性も考えられる。となると、オロルックの言う通り高台で流星群を観測し、不測の事態に備えるのが最善だ。

 人の流れに沿って三人も移動する。より綺麗に流星群を見るためか、高台に近づくに連れ星祭りの飾りは明るさが控えめになっていた。


「オロルックはフィオラを誘わなかったの?」


 ロゼアリアが問えば、オロルックはう、と顔を顰めた。


「そりゃ誘おうと思ったっスけど、仮にも騎士団の職務中に流れ星の観測に誘うとか、不真面目な奴って思われんのもイヤじゃないスか」

「つまり、誘う勇気が出なかったってことね。言ってくれれば私が誘ったのに」

「いやいやいや。お嬢がカーネリア卿と流れ星見れないのに、俺ばっかフィオラと見るのもねー」

「ちょっと! そんなんじゃないって言ってるでしょ!」

「何がっスか」


 道中言い合いをする二人を会話の意味はよく分かっていないリブリーチェがにこにこ眺める。

 伯爵家の令嬢と子爵家の次男がこんな言い合いをするのは、本来ならばあり得ないこと。しかし血筋や身分を忘れるくらいにはお互いに心を許し合っていた。越えてきた数々の逆境を思えば、当然とも言える。

 気が置けない仲。そんな関係にいる二人が、リブリーチェには眩しい。


「うふふ。ロゼ姉さんとオロルックはとても仲良しですね!」

「オロルックがドジっ子だった時から知ってるもの」

「ま、お嬢の無茶には散々付き合わされてきたっスからねー」


 まだ軽口を叩き合うロゼアリアとオロルック。本当に仲が良い。


「ボクはそういうお友達がいないので、羨ましいです」

「何言ってるの。リブもオロルックの同じくらい、私の大事な友達でしょ」

「そうっスよ。リブも俺達の仲間っスから」

「ほんとうに?」


 孤児院を追い出されて以降、友達と呼べる存在はいなかった。魔塔の魔法使い達は同族だが、尊敬するゆえに友達にはなり得なかった。

 初めてできた人間の友達。それでも、二人の関係に比べて自分はまだ距離があると思っていたのに。


「友達……ふふふ、友達」


 仲間に入れてもらえた。それが嬉しくて、リブリーチェがくすくすと笑う。


「今さら何言ってるの。もうずっと前から友達でしょ!」

「はい! あ、じゃあアルデバラン様は?」

「友達」


 間髪入れずにロゼアリアが答える。


「アルデバラン()友達」


 それは、自分自身に、オロルックに、リブリーチェに言い聞かせる答えで。アルデバランと友達以上を望まない、というロゼアリアの宣言だった。


「お嬢」

「あ、もうこんなに人がいる。空いてる場所を探さないと」


 オロルックを遮り、ロゼアリアが高台で場所を探す。前方は窮屈そうだ。快適に天体観測をするなら、端に寄るしかない。


「リブ、端っこでもよく見える?」

「空が隠れてないので端っこでも大丈夫ですよ!」


 グレナディーヌ人にずば抜けて背の高い人間がいないのは、こういう場では良いことだ。懸命に背伸びをせずとも観測できる。


「どこに見えるかな……」

「南西の方ですよ! あの辺!」


 夜空にきょろきょろと視線を彷徨わせるロゼアリアに、リブリーチェが方角を指して教える。その指先を追った先で、きらりと白い光の筋が流れた。


「あ!! 見えた!!」


 今の一筋を皮切りにどんどん星が流れていく。おお、と歓声が上がり、途端に人々は天体ショーに釘付けになった。

 満天の星空を翔ける星屑。夜闇を縦断する天の河が星の雨を降らせているようだ。その美しさに、思わず呼吸をするのも忘れてしまいそう。


「綺麗……」


 ため息と共に言葉が零れた。

 この流星群が亡き人からの贈り物とは、なんと素敵な考え方なんだろう。


 三百年。毎年人々はこうして夜空を見上げてきた。三百年前にこの地で生きてきた人と、今も変わらずに自分が星を眺めていることに感慨深さを感じる。

 同時に、三百年前からずっと星を眺めてきたであろう彼のことを思わずにはいれなかった。


「ロゼ姉さんは彗星は見たことありますか?」


 リブリーチェの声が静かに耳に届く。


「彗星?」

「流星群のお母さんです。光の尾を持ったほうき星で、とっても綺麗なんですよ」

「光の尾? 流れ星みたいな?」

「流れ星は一瞬で消えちゃいますが、彗星は近づいてる間は観測できるんです。一定の周期でこの星に近づいてきて、また離れてく。今分かってるもので一番長い周期の彗星は、千二百年」

「千二百年? 千二百年おきにやってくるってこと?」

「そうです」


 途方もない年数だ。見上げた星空が、ただ綺麗なものから神秘を抱えた空間へと変わる。


「もしかしたら、何万年の周期で回ってるものもあるかもしれません。もっとかも」

「はあ……」

「だからボクは、星を眺めるのが好きです。だって、見逃したら二度と会えないかもしれないから」


 それもそうだと思った。千二百年など、今見れなければ一生見れない。


「ボクが一人で見てたら、それはボクしか分からないけど……こうやって、ロゼ姉さんやオロルックと同じものを見られたことが、とっても嬉しい」

「私も。来年もまた一緒に見よう」

「はい!」


 ロゼアリアも、リブリーチェに倣って普段から星を眺めてみようと思った。

 流星群はまだ降り続けている。幾万もの青白い光の尾が夜空に(ほとばし)っては溶けていった。






──魔塔上階、展望台。集まった魔法使い達が流星群を観測している。


「今年の予測も正確でしたね。しっかり記録を残さなければ」

「ええ。天候にも恵まれて何よりです。雲に覆われてしまうと、我々が雲を動かさなければなりませんから」


 ある者は望遠鏡を覗き込み、ある者はテキパキと記録を取っていく。ただのんびりと流れ星を眺める者はここにはいなかった。


「新月だったのも幸いです。月明かりがあると、どうにも星は見えないので。──おや、主様。貴方が観測に立ち寄られるとは珍しい」


 魔法使いの一人がアルデバランに気づいた。いつもなら展望台を通り過ぎ、最上階の部屋へと姿を消す魔塔の主が珍しく展望台で足を止めている。


「たまにはな」


 腕を組み、柱に寄りかかるアルデバラン。他の魔法使いのように記録を取るつもりはないらしい。


 数多の星の欠片が刹那の輝きを放ち、消えていく。

 何万、何億光年先の恒星とまさにこの瞬間燃え盛る星屑を同時に目にするというのは、なんとも妙な感覚だ。


「主様、今お戻りになられたところで?」

「ああ」

「いよいよ明日ですね。本当に私が同行者で良いのでしょうか」


 アルデバランが話しかけてきた若い魔法使いへ視線を向ける。不安を顔に滲ませる彼は、成人したての瑞々しさを残していた。

 年齢だけならばアルデバランとそう変わらない。しかし、彼のような瑞々しさはアルデバランは持っていない。


「各国の管理者(エリュプーパ)が揃うだけだ。何も緊張することないだろ」


 しかし、と青年が口ごもる。

 魔法使いの最高峰とされる管理者(エリュプーパ)が集うのだ。そんな場に自身も居合わせるなど、想像しただけで肩に力が入る。


「気負うな。お前はその場に立ち会うだけで良い」

「はい……」


 アルデバランが青年から視線を外し、他の魔法使いに声をかける。以前、リブリーチェやロゼアリアが訪ねたヴィタという魔法使いだ。


「ヴィタ、明日は頼むぞ」

「はい主様。防衛結界の魔法陣は全てグレナディーヌ全土に敷いてあります。各地の仮防衛結界も現状問題ありません」

「昨日と今日は俺が異物共に牽制できたが、明日はグレナディーヌを離れるからな。まあ騎士団の奴らもいるし、問題無いだろうが」


 管理者(エリュプーパ)会議は星祭り三日目と被る。会議が終わるまではグレナディーヌに戻ることができない。


(魔法使いは多く配置してるしロゼもいる。まあ、俺がいなくても十分持ち堪えられるだろ)


 騎士団や人間は信用していないが、ロゼアリアは信用できる。彼女の腕なら何も心配はない。あるとすれば、躊躇いなく戦闘に突っ込んでいくロゼアリア自身だ。


(……なるべく早く戻るか)


 仔犬のように動き回るおてんば娘を脳裏に浮かべながら、アルデバランは再び流れ星を見上げた。

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