表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/30

第二十七話 留学生がやってくる

「あなたの才覚もそこまでですか?」


 ジーモン宰相の言葉に、アイラ様は「ぐぬぬ」と悔しそうな顔をしました。


 農地改革は足踏み状態で、アイラ様は何度も政策を変更しなければなりませんでした。貴族たちは裏の手を使ってでも農地を死守しようとし、アイラ様はその土地を平等に分配したい。この対決は長引きそうでしたが、アイラ様が疲れてため息をつき、諦めそうになると、


「あなたの才覚もそこまでですか?」


 と、ジーモン宰相がニヤリと笑って挑発するのです。


「私は民衆のために戦う」という信念を高く掲げるアイラ女王は、その言葉を燃料に貴族たちとの交渉を続け、農地には学校を建設して、農民教育を推し進めました。


 そんな忙しい折、外交にも動きがありました。西の国、オルドリン国の第三王子が留学に来られることになったのです。


「ハーゲン議員の推薦によって、いつの間にか留学が許可されていたわ。まったく、こちらは他所の王子を相手にする暇はないのに」


 お茶の時間、しかめっ面でアイラ女王がプチケーキを口に放り込みます。


「我が国の先進的な政治を学びたい、と手紙から熱心な意気込みが感じられたよ。教授なら、お父さんと僕がやるよ」


 一方、ライモ様はわくわくしています。


「オルドリン国の第三王子、ユーグリット。歳は二十三歳で、かなりの美丈夫だそうよ。気になるのは、三回も婚約破棄をしているということ。調べてみると、一度目は相手側の浮気、二度目は価値観の違い、三度目は…………」


 ノラさんが少し口ごもりました。


「なんと、三度目も相手の浮気。お可哀想に、よっぽど結婚と縁がない人なのかしら。性格は陽気で社交的、舞踏会がお好きということらしいけれど」


 三回も破談とは、結婚する気がなくなりそうですね。


「その留学ってのも本当なのかしら。他に目的がないか、調査する必要があるわ。もちろん、安全だとわかるまで、我らが女王には近づけないこと。それとライモ、あなたも警戒しなさい。一応は英雄なんだから」


 リディア様がおっしゃいました。


「言われなくても警戒はしているよ。でも、僕はいい人なんじゃないかなーって思う」


 ライモ様が微笑みます。


「二回も浮気される奴が、有能とは思えないな。ただの見かけ倒しなんじゃないか」


「エルサ…………酷評ね」


 リディア様の言葉の意味がわからない、というふうにエルサ様は首を傾げました。確かに、縁談が三回も失敗したのは運が悪かったのか、本人に原因があるのかは謎です。


 本当に「留学」だけが目的なのか、裏があるのか。


 ユーグリット王子の噂は、お越しになる前からあちこちで語られていました。


 たいそう品が良くて美しく、第三王子で後継ぎではないが、王に愛されて第二王子から嫉妬されているということ。社交の場では常に周りに人がいて、話術に長け、ダンスもお上手だとか。


 一方、普通は王子という身分なら、三回も結婚の機会を失ったことを本人が大っぴらにして、なんなら笑い話にしていることから、「ふざけているところがあるのではないかしら」と悪く見る意見もありました。


「どっちにしろ、メイドの仕事が増えるということだ。王子様のお世話という仕事が増えた。まったく、会議を何度したことか」


 ダニエル様がぼやきました。おっしゃる通りなのです…………急遽、各チームから人員を集めて「ユーグリット王子チーム」が作られ、お部屋の準備やお世話の仕方についてなど、やることだらけでした。


「なんとか間に合ったから、よかったではないか。俺は来る者は拒まず、誰でもおもてなしするぞ」


 オー様は笑っています。この人はどんな時も頼もしい。


「そうだよ。アステールはいつも開かれた国だからね。さて、そろそろ王子様が来る頃だ」


 ライモ様が言いました。


 私たちは扉の前に立って、王子を待っています。ライモ様はフリルを身にまとっています。襟に袖、裾まで柔らかなフリルがついたブラウスにコルセット、ぴっちりとしたズボンと編み上げのロングブーツ。全身、純白です。


 外からラッパの音がしました。ライモ様が白い杖を一振りすると、扉が開きました。


 ――僕が王子を出迎える――


 ライモ様は、アイラ女王に隠していることがあります。


 それは、嫉妬です。


 若くて美しい王子が城にやってくることが「癪だ」と、ライモ様はお茶会の後で吐き捨てるように言ったのです。


 新婚で、まだ結婚式も挙げていない夫婦のところに、いけしゃあしゃあと「留学」などと言ってやってくる。そんな無神経さが破談の原因だと、ライモ様は言いました。美しい顔を歪め、「落ち着け」とダニエル様にたしなめられるほどでした。


 滅多につけない銀の王冠で形の良い頭を輝かせたライモ様は、扉の中央に堂々と立ち、馬車から降りてくる王子を見つめていました。


 騎士たちが敬礼して、王子を出迎えます。身長はオー様ほど高く、その髪は蜜色でゆるやかに波打ち、腰でたゆたいます。その腰から伸びる足はすらりと長く、顔は精悍で、緑の瞳が煌めいていました。


「お出迎え、ありがとうございます! 私はユーグリット。ここでは、ただの一人の孤独な男でございます。皆様方、どうぞこのユーグリットと仲良くしてください!」


 堂々とした大声でユーグリット王子は言い、あちこちに手を振りました。ぐるりと一回りして周囲を見渡し、こちらに気づくと走ってきました。美丈夫王子、走ると爽快な風が吹くようです。


「ようこそ、ユーグリット王子。僕は宮廷道化師のライモです」


 ライモ様が覇気のある声で言いました。


 ユーグリット王子は、ライモ様の前で跪きました。


 ずいぶんとへりくだった礼儀を示されたのか…………。


 いえ、様子がおかしい。ユーグリット王子の顔は真っ赤です。


「な、なんと美しい! まるで白い薔薇(ばら)のようではないかっ。君はまるで白い薔薇…………白薔薇の君!」


 ユーグリット王子が叫びました。


 うん、わかりました。


 ユーグリット王子、変人ですっ!


 ライモ様は手を握られて、ダニエル様に目で助けを求め、口をぱくぱく動かしています。ダニエル様は額に手を当てました。困っているのかと思いきや、肩を震わせて笑っていました。


「ああ、白薔薇の君よ。我が国から持ってきた土産を、すべてあなたにあげます」


「い、いりません。手を離してください」


 ライモ様が小さな声で答え、ドン引きしていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ