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第二十六話 危険な美しさ

 謁見室の天井画の下に舞台が設置されます。円形のステージはオー様と騎士たちが組み立て、黒い布で覆っていきます。私たちは観客席の用意をしました。魔術師が杖を振って、天井からランタンをたくさん吊るしていきます。

 白い灯りが舞台を照らします。

 昼は猫ちゃん、夜はどんなライモ様が見られるのでしょう。


「案内通りにお進みください」

「お年寄りはこちらへ」

「車椅子の人はこちらです」


 メイドたちの案内で、謁見室は人でいっぱいになりました。

 私はアレサとフィアナさんと一緒に、壁際に立って舞台を見つめました。アレサは壁にもたれて、うとうとしています。

 フィアナさんは両手を握りしめて、祈るように舞台を見ています。


 天井から、白い人が降り立ちました。

 空気が、張り詰めます。

 アレサが目を開きました。


 ヴァイオリンとピアノの旋律が重なります。

 白いシフォンのブラウス、タイトなズボンのライモ様は、手に白い布を持っています。音楽に合わせてライモ様が回転すると、舞台に白い薔薇が咲きました。


 拍手が起きます。私も夢中で手を叩きました。

 白い布を揺らしながら、ライモ様はバレエジャンプのように、指先と足の先も揺らぐことなくピンと張り詰めて、ジャンプしました。薔薇の花びらが観客席に向かって飛び散ります。


 ゆっくりと両手を広げて、つま先立ちで立ち、左から右へと手を動かすと、白い布が動いた軌跡が光り輝きました。


 穏やかだった曲が激しく、切なく胸をかきむしるような曲になると、ライモ様は膝立ちになって白い布で目隠しをしました。激しいスピンに、舞台をぐるりと走り回ったり、激しい動きに変わりました。

 ランタンの光が、汗で濡れたライモ様の頬に反射します。


 おお、とどよめきが起きます。

 すべての薔薇が散って、ライモ様は舞台に倒れました。

 ランタンが消えます。


 次に明かりがついたとき、ライモ様は舞台にいませんでした。


「本日はご入場、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」


 オー様が舞台に立ち、エプロンをつまんでお辞儀をしました。


「…………まさか、目隠しでくるとはっ」


 フィアナさんが噛み締めるように言います。


「うんうん、なんて高度なダンスなのでしょう!」


 私も頷きます。


 そして、思い出した。

 ダンス室で過呼吸になるほど、練習していたライモ様を。

 人々を驚かせたくて、感動させたくて、今日のために血の滲むような努力をしたライモ様。


 計り知れない。

 私は感動とともにゾッとするのです。

 ライモ様はただ美しい人ではない。

 何かすごい力を持っている。


「まぁな、なかなかすごかったな。よし、帰るぞ。あー、眠い」


 アレサが歩き出します。


「ちょっと、後片付けしないと」


「眠い、人数は足りてるだろ」


 アレサはあくびをして、さっさと帰ってしまいました。


「もぅ、アレサは不真面目なの」


 私がフィアナさんに言うと、彼女は少し悲しそうな顔をしました。


「いえ、アレサは…………ライモ様の舞台を見て泣いていたわ」


「え!?」


「アレサは、少し泣いていたわ。ライモ様が目隠しをした時に、少し泣いていたの」


「意外だわ…………アレサって、こういう芸術では泣かないのに」


「アレサは、不思議な子ね。なんでもよく知ってるし、どこか達観しているところがある気がする」


 フィアナの言葉が私は意外です。そんなこと、考えたことなかったな。

 私たちは片付けを終えて、メイド寮に帰りました。


 アレサは先にぐっすりと眠りました。正式にメイドに雇用された私たちは、一部屋を与えられるはずですが、まだ部屋割りが決まっていません。


 アレサは一人部屋になって、ちゃんと朝起きられるか心配です。


「ああ、帰ったか」


 アレサが起き上がって言いました。


「ごめん、起こした?」


「いや、浅く眠っていただけだ。ミーナ、今日の舞台、危険だと記録しておけ。目隠しをする演出は危険だとな」


「危険? 確かに目隠しで舞台から落ちるかもだけど、ライモ様ほど踊れる人なら…………」


「違う。観客を見てないのは危険だ。知ってるだろう、ライモは命を狙われている。暗殺者は観客に紛れ込んでいるだろう。周囲が警護しているとはいえ、ライモ本人が気づくのが遅れたら命取りだ」


 アレサの言うこと、もっともです。


「私は忠告したからな。じゃ、おやすみ」


 アレサは横になると、すぐに寝息を立て始めました。


 翌日、私はダニエルさんにアレサの言ったことを相談しました。休憩中の中庭、ダニエルさんは煙草を吸いながら苦い顔をしました。


「アレサは鋭いな。確かに危険だ。そろそろわかってきただろう。ライモは自分の身の危険を知ろうとしないところがある。危なっかしい、女王がよく言っている」


「そう、ですね…………でも、そこもライモ様の魅力というか。守ってあげなきゃいけない、みたいな気持ちになります」


「それも危険だ。守りたい、という気持ちは時に傲慢になる。守ってやったから代償を求める、守ってやるのだからと相手の自由を奪う。ライモ、あいつは…………よくわからない時がある」


 ダニエルさんが灰皿に煙草を強く押しつけ、眉を寄せて言いました。


「アレサには礼を言っといてくれ」


「はい、伝えます」


 私は頷きました。


 守ることの代償。そんなこと、私はライモ様に思ってほしくないです。

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