第42話「研究員」
「研究員だって?」
「そうです」
「なぜ?ラクスほどの実力なら魔法科に入学して学ぶ方が良いと思うけど……」
(まぁあの魔法見たらそう思うだろうな。だが断る)
「魔法については小さい頃から研究に研究を重ねてきました。正直なところ、これ以上魔法を勉強しても使いどころがありません」
(いや正直、学校の……というか魔法のレベルが低すぎる。ちょっと見て回ったが魔法一発打つのに時間かかりすぎ。詠唱なんて不要だ。威力も弱い。あれだったら弓使ったほうがよっぽどマシだ)
「あれだけの魔法が使えるんだから分からなくもないが……」
「まぁ分かったよ。でもなんで研究員?」
「身体強化についてはまだ私の研究が完全に進んでいません。領都へ来て、領都立図書館へ何度か足を運んだんですが、一部区画に準禁書区を見つけまして、領主様へお願いして準禁書区の立ち入り許可をいただきました。そこで古代文字で書かれた本を見つけたんです」
「あぁ、それは聞いている。真偽は確かじゃないが2000年も前の本らしい。誰も解読できないのでラクスにも無理だろうが、試す価値はあると兄が言っていたな」
この本が準禁書扱いなのは、そもそもだれも読めないし特段危険だとは考えられておらず、歴史的に古い、おそらく価値のある本だとして、破損しないよう準禁書扱いになっていたらしい。丁寧に取り扱うこと・持ち出さないことを約束して閲覧可能となった。なお、本当の禁書区へは立ち入り禁止だ。
「はい、それで一部ではありますが、文字を解読できました」
「なんだと!?」
(いや、実は破損している部分を除いてほぼ読める。これ書いたの日本人だ。現代日本人。転生者。日記にそう書いてある。本の背表紙が日本語だったから準禁書区にも興味が持てたんだし)
「それでそこを読み解くと、身体強化についての研究成果が書いてあると思われます」
「あれはそういう内容だったのか……全部読み解けそう?」
「いえ、あまりにも言語の種類が多く、まだほんの一部しかできておりません」
(漢字・ひらがな・カタカナ・英語が混ざってて、日本人にしか分からない表現も多様されてる。これは日本人じゃなきゃ分からんわ。)
「うん、うん、そうか。それで?」
「私の知らない身体強化を発見できました。私はこの禁書からもっと身体強化を極めたいと考えています。そして学校で普及できるものがあればしたい、と。ですので、可能であれば研究員として学校に在籍できないかと考えております」
「……んん……うーん…まぁ良いんじゃないかな?兄や私としては同じ年齢くらいの生徒と一緒に友達作ったり学生らしく過ごしてもらったら良いと考えていたんだけど、禁書解読の利は比較にならないほど大きな功績だよ」
(正直しがらみを作らせた方が取り扱いが楽だったが……禁書解読となると話しは別だな)
「分かった。この話は兄と一度すり合わせるけど、おそらく研究員という立場で問題ないだろう。学内に専用の部屋も用意するよ。準禁書一式もそこへ移動する。ただし、月に一度領主・私・学校長に対して解読状況報告を行ってもらうことが条件かな」
「はい、分かりました」
(よし、これで心置きなく研究ができるぞ)
後日、領主様から呼び出しがあった。
「ラクス、決定事項だ。本日からお前を領都学校の研究員として雇い入れる。研究所として学校の一室を与える。準禁書も移動済みだ。クリストフから聞いただろうが月に一度の解読内容報告義務がある。また、給金をだす。月に金貨10枚。別途研究費に金貨5枚だ。とりあえず学校寮に住むと良い。寮費はこちらが負担する。既に部屋は手配済みだ。後で荷物の整理を行え。寮が嫌なら領内の物件を借り上げるなり自由だ。だがその場合は自己負担になるが」
(え?金貨10枚?えーっと……ハロルドでお金なんてほぼ使ってないから良く分からん。円とあまり変わらなかったような……鉄貨100枚で1銅貨、100銅貨で1銀貨、100銀貨で1金貨。ということは……金貨10枚ということは1,000万円!あ、いや1,000万ルク!!プラス研究費500万ルク!!!毎月~(*‘ω‘ *))
「なんということでしょう」
「どうした?不服か?」
「めっそうもございません」
「たまにお前は変な言葉を使うな……それから私の時間が取れた際に身体強化の指導もだ。魔力を転がすという意味がやっと分かってきた。魔力感知はまだできん。あれから毎日魔力を使い切っているが総量が若干増えている気がする。この年にもなって成長するのが楽しいとは思いもしなかった。」
「閣下は強くなってどうしたいですか?」
「なんだ急に?……そうだな。理想でしかないかもしれないが、戦争で誰も死なせないこと。被害を最小限に抑え、最大限の成果をあげることだな」
「協力します」
「当然だ」
すぐに配下の人がやってきて、研究室へ案内してくれた。校内ではあるが結構端っこ。裏出入り口とトイレが近い。人通りも少なく、静かな環境だ。大変良い。結構広い。鍵付きの本棚には準禁書が並んでいる。禁書区を見返したところ、同様の言語と思われる本が10冊あったようだ。ワクワクが止まらない。
大きめの机とゆったり座れる背もたれ付きの椅子。奥に炊事場があり、来客対応の応接ソファ&テーブルもある。全体的にシックな感じで落ち着いて研究が出来そうだ。来客対応ソファがデカいので、最悪ここで仮眠もとれそうだ。
一度今まで住んでた部屋へ帰ると、既にセバスチャンにより荷物がまとめられ、馬車に積み込まれるところだった。セバスチャン、何てできる執事だ。名前がセバスチャンなだけはある。
「間もなく寮へ出発予定です。ラクス様も同乗されますか?」
「はい、よろしくお願いします」
寮はすぐだった。10分ほどだ。荷物を降ろしていると恰幅の良いおばちゃんが近づいてくる。
「あらら、今日からくる子はこんな小さい子だったんだね。1人部屋を準備しろってことだったけど相部屋の方が良かったんじゃないかい?」
「アニー様、この方はラクス様と申されます。入学されるのではなく研究員として正式に学校から雇われた方です」
「ほぇ~、こんな小さいのに研究員だなんて、あんた凄いねぇ……うちの息子と全然違うわぁ。いったいどうやったらそんな風に育つのかねぇ……」
「ラクスと言います。9歳です。よろしくお願いします」
「はいよ。9歳か、いや~小さいのに凄いねぇ。部屋に案内しようかね。こっちだよ」
荷物を持って後ろをついていく。セバスチャンさんと一緒に来たメイドさんが残りの荷物を運んでくれている。アニーさんは自身について自己紹介しながら部屋へと案内してくれた。よく話す人だ。
「ここだね」
部屋がガチャリと開いた。やっと新しい生活が始まる、そんな気持ちになった。