第41話「領都学校長」
高官の方に案内され、クリストフ教育長官と一緒に領都学校に入る。教室や学校施設を見学させてもらった。教室では先ほどの騒ぎ(魔王復活?)に学生たちが授業に集中できないようだ。悪いことをしてしまった。
外には運動場があるようで、そこでも授業が行われていた。アスレチックのような設備を身体強化しつつ、何度も駆け上がっている。匍匐前進→高い壁昇り降り→不安定な足場→急激な上り坂→疲れ果てたところで教官が水魔法を打って来るのですべて避けてゴールのようだ。
「さてラクス、身体強化を見せてほしい。今度は手加減してね」
「はい、私は目立ちたくありません」
「もう十分目立ってんだけどね」
数人いる教官に話しが通され、ラクスの番が回って来る。授業を受けていた生徒たちは「なんだなんだ?」「なんであんな小さい子が?」と集まって来る。
(目立ちたくないって言ってるのに!なるべく目立たないよう、すぐ終わらせてしまおう)
ラクスは魔王拳は使わず、足のみ身体強化する。教官が話しかけてきた。
「期待の新人らしいな!ゴール直前で水魔法が飛んでくるが、当たっても怪我しないから安心して大丈夫。まぁそこまで行けるか分からんがな。頑張れよ」
(行けない訳ないじゃん。楽勝ですよ。)
「では行くぞ、スタート!!」
ビュン…タッ…タッ…タッ…スタっ。
おおよそ3秒程度だろうか、ゴールした。匍匐前進せず、全てをジャンプしてゴール。お辞儀をして終了。
「は?」
水魔法を打てなかった教官は頭の中が「?」になる。スタートと言った教官も一瞬で遠くなる背中に「?」状態だった。全体を見ていた生徒たちは「なんだありゃ、バケモノだ」「匍匐前進してなくない?ずるじゃない?」「先生も水魔法を打ってないし」「カリスより速くなかった?」「あぁカリスより速い、てことはあいつが入学したら学校最速?」「いや、あの速さは世界最速だろ」「またハロルド出身者じゃ?」
ザワザワが止まらない。
「いや、お見事。しかし匍匐前進無視はルール違反では?」
「ご準備いただいた服が汚れてしまうのは申し訳ないと思いまして」
朝食前に「お召替えを」と言われた服を汚したくないと言い訳しといた。
「それは運動用の服なんだがな、フフッ、まぁいいよ。では学校長に挨拶に行こう」
校庭を抜け校長室のある棟へ向かう。職員室の奥に部屋があるようだ。クリストフ様がコンコンとノックをする。「どうぞ」としゃがれた低い声が聞こえてきた。クリストフ様が「失礼します」と入るのでラクスも一緒に入っていった。
中にいるのは長い髭を蓄えたおじいさんだった。
(これが領都学校の校長か)と思いマジマジと見つめていると、校長が話しかけてきた。
「おい、クリス。そろそろ校長を変わってくれ。それかどっかの木偶の坊でも良いからここに座らせておけ!ワシゃーもう腰が痛くてたまらん」
(のっけから随分とクセのあるじいさんだ。いや、クリストフ様に対しての言葉遣い……偉い人か?)
「父上、その話はもう先日したじゃないですか。そんなことより紹介したい者がおります」
「そんなことよりとは何じゃ。ワシの腰痛は大事な話しじゃぞ!」
「はいはい。腰痛はお辛いでしょうが、兄上から通達が来ているでしょう?領全体の教育改革についての重要人物です」
「聞いておる。ラクスというのはお主じゃな。こんな子どもに何が出来るんじゃ。マルクはどうかしとるんじゃないのか」
「それが、父上。この目でラクスの魔法と身体強化を見ましたが、とんでもないです。ハロルドタウン出身者の2人をも凌ぐ、いや……比べ物にならないほどの実力者です」
「にわかには信じられんな、あの2人は特別じゃ。100年に1人の才能が一度に来た感じじゃ」
「父上、この者は建国以来の才能と思われます」(知らんけど)
「そんなに!?」
「そんなにです」
しばらく沈黙が続く。校長はこちらを見つつ怪訝な表情だ。
「あー、ラクスよ。私は領都学校の校長をしている、ウェイン・フォン・バルクロイドじゃ。マルクとクリスは私の息子じゃ。以前はバルクロイド領の領主をしておった。今は引退した身じゃが、マルクがどうしてもと言うので校長をしている。教育こそが領の未来を作るとか、その礎となってほしいなんて言われての。ま、あやつの言うことは間違ってはおらん」
「はい、ラクスと申します。ハロルドタウンから来ました。9歳です。私も領主様の考えに賛同してこちらに参りました」
「そうか、なかなか見込みがあるようだ。それで教育改革について、マルクからは概要は聞いておるが………」
この日は夕方までじっくり領の教育方針について話し合った。各町での学校と言っても小屋があれば十分であり、建てれなければ青空教室でも問題ない。とにかく生活魔法を使いまくって気絶するまで魔力を使い切ることで回復し、魔力総量を増やすことを目指す。15歳までに行うことが重要だ。
魔力が増えたところで魔法適性と、身体強化適性を見極め、更に身体強化については部位特性を見極める。ここが重要だと伝えた。見極めるために目の身体強化の2段階目までを開眼しなければならず、これについては別途検討が必要とのこと。
また、魔法・身体強化どちらもそれほど適性がないとしても、生産者として優秀であることを伝えた。生活魔法も工夫すれば地球の機械よりも素晴らしい成果が出せる。農業・漁業・林業など、全てにおいて改革が可能だと思われる。
これらの打ち合わせは各高官に即座に伝えられ、情報が流されていく。後々分かったことだが、この話しに乗ってきたのがミラー教だった。各町には教会があるため、教会も賛同してくれるそうで、お祈りしてくれるなら教会での教室を開いても良いそうだ。
それならと、ミラー教の全面バックアップ体制で教会学校という形で法整備を行っていく。まぁある意味、領からの寄付も期待してのことだろう。教会のない村は青空教室となり、近くの教会から修道士が派遣されるそうだ。
3か月ほどみっちりバルクロイド領の教育改革について打ち合わせをしてきた。もうゲッソリになるほどに。疲れ果てたラクスは「もう家に帰りたい」と愚痴をこぼし始めていた、そんなある日。
クリストフ様からの呼び出しに(もううんざり…)と重い足取りで部屋に向かう。
「ラクス、来月から入学だよ。一月前くらいに聞いたが、ラクスは魔法科入学でいいだろう?」
「いえ、入学というよりも研究員として在籍できませんか?」
「は?」
なんだそれ?という顔をされた。




