37話【まさかこの魔法を使う事になるとは…】
「潮時かもしれんな。側妃の洗脳を許可する。」
王の決断に、アビスは驚きを隠せませんでした。心の中で、彼は王が非人道的な方法を選ぶとは予想していなかったのです。アビスは自分が提案したこの方法が選ばれることに戸惑いを感じました。
しかし、アビスは王の決断を尊重し、理解する必要がありました。彼は王の思考を理解するために、恐れずに王に尋ねることを決意しました。
「陛下、私の提案が採用されたことに驚いています。どうしてそのような選択をされたのですか?」とアビスが尋ねました。
王は深い溜息をつきながら、重々しい表情でアビスを見つめました。「アビスよ、私はな。王妃を愛している。側妃をとる事も嫌だった。だが、コレットは…実は家出してしまってのう。ルティーの暴れん坊ぶりに国の未来を憂いた家臣たちにどうしてもと言われて、仕方なかったんだ。」
アビスは王の言葉に静かに耳を傾けました。王の決断の背後にある複雑な考えに興味を抱きながら、王の言葉を重く受け止めました。
王は深い溜息をつきながら、アビスを重々しい表情で見つめました。部屋の中には沈黙が広がり、王の言葉が重みを持って響き渡りました。
「アビスよ、私は…」王は口を開いて言葉を紡ぎ始めました。「私は王妃を愛している。側妃をとることなど、考えただけでも耐え難いものだった。しかし、コレットは…実は行方不明なのだ。私兵が内密に彼女の行方を追っている。さらに、ルティーの暴れん坊ぶりに国の未来を憂いた家臣たちにどうしてもと言われて、仕方なかったんだ。」
その言葉には王の心の葛藤が滲み出ていました。愛する王妃の行方不明、家臣たちの憂慮、そして側妃という苦渋の選択。それら全てが王の心を重く圧し掛かっていることが伝わってきました。
「王妃コレットが行方不明だと!?」アビスの声が部屋に響き渡ります。その驚きは言葉にも込められた感情にも滲み出ていました。
王は深い悲しみを胸に抱きながら、声を震わせながら語ります。「流石の師匠でもこの事は探れなかったようですね。もう少し早く…来てほしかった。」
その言葉には、王の深い後悔と絶望が込められていました。
アビスは王の告白を聞いて、なぜ彼が側妃を洗脳することを選んだのかを理解した。自らが置かれた状況を考えれば、その選択はやむを得ないものだった。
もし自分が王であったならば、同じ道を辿ったかもしれない。敵対勢力に対する国外追放も選択肢の一つだが、それは安全とは限らない。恨みを抱いた敵によって、再び国に危機が訪れる可能性もある。ティグルス王には、この苦渋の選択以外の手段はなかったのだ。
アビスは心の中で少し反省し、王への理解と同情を感じた。
「もし差し支えなければ、コレット様との結婚に至った経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか?」彼の声には、王の心情を尊重し、過去の出来事に興味を示す深い敬意が込められていました。
王は少し躊躇した後、深い溜息をつきながら語りました。「そうだな、こうなってしまっては話すほかない。私は美しすぎるコレットに惚れてしまい、求婚した。しかし、彼女は夫と子供もいるというのだ。だから私は、その事を忘れて妻になってくれと言った。でないと夫と、その子供の命はないと脅してな。私の愚かな部分だ。逃げられても仕方がない。別れを告げる置手紙もあった。」王の声には、深い後悔と悲しみが込められていました。
アビスは王の言葉に耐え切れず、憤りを露わにして叫びました。「おい、ちょっと待て。最低すぎるぞお前」と、深い軽蔑の眼差しを王に向けました。その言葉は、彼の口から吐き出される前に、心の底から湧き上がっていた。
王は深く頭を下げながら、「本当にすみません、師匠」と謝罪しました。その言葉には、彼の内から湧き上がる真摯な反省が感じられました。
しかし、アビスは、もしアメリアに夫と子がいたら、自分も同じような行動に出ることになるだろうと感じました。その思いにより、怒りを持続することが難しくなりました。ティグルス王の言葉に、彼の心の奥底で共感する部分があったのです。
アビスは深いため息をつき、王に向かって言いました。「最低過ぎると言い過ぎたかもしれない。すまない。俺ももし同じ立場だったら、同じような選択をしたかもしれない。なんせ、王というのはまともな人間になれないからな。特に、王位を継ぐ者は生まれながらにして、人生の8割くらいの自由を奪われ、国民のためにずっと働かされる。いつ他国から脅威が襲ってくるかもわからない。そんな世界なんだ。だから、最善を尽くしてやるとしよう。」
王は軽く咳払いをしてから、「グローリア師匠、そろそろ素に戻っておりますぞ」と謙虚な口調でアビスに注意しました。
アビスは困った表情を浮かべ、周囲の家臣たちの睨みを感じていました。その様子を見て、王は静かに頷きながら、「大丈夫だ。アビスは…今は息子だからな。親子の会話だと思ってくれ。でなければ…控えめに言って、命はないぞ」と家臣達を脅しました。
アビスは重々しく王に言いました。「早速、側妃をここへ呼んでください、陛下。」彼の声は断固としていました。そして、アビスは周囲の者たちに驚きを与えるべく、メーベルを一気に5段階解放しました。
その一瞬、空間が強いエネルギーで満たされ、メーベルは明るい光に包まれました。周囲の者たちはその驚くべき光景に目を見張り、驚きのあまり尻餅をついてしまいました。彼らの顔には驚嘆と恐れが入り混じり、アビスの行動に対する理解を求めるような視線が投げかけられました。
アビスは王の権威ある赤い玉座にゆったりと座り、静かに側妃の到着を待ちました。
その間、玉座の周りには重厚な雰囲気が漂い、彼の姿はまるで影の支配者のように映りました。彼の表情は深く沈んでおり、深遠な考えに耽っているかのようでした。
アビスは自らがキルエルがアメリアにかけた魔法を使うことになるなど、予想だにしていなかった。しかしその魔法を使わずには側妃の問題は解決しない。アビスはアメリアにかかっている魔法の解析をしておいて良かったと、ひとり心の中でつぶやいた。
待ちながら、アビスは王の困難な政策や家臣たちの悩みを静かに聞いていた。それぞれの問題に対して、アビスは思索深く頷きながら、慎重かつ冷静なアドバイスを提供した。彼の存在は、ただ側妃を洗脳することだけではなく、国を率いる王の右腕としても不可欠なものと感じさせた。
そんな中、時は流れ、3時間が経過した頃、側妃は魔法の鎖に繋がれ、拘束されたまま王の前に姿を現した。
「ええい!離せ!!離さんか!!」
側妃は鎖に拘束されたまま、激しく抵抗し、放せと叫んでいた。その美しい髪が乱れ、優雅な装いも汚れ、激情に満ちた目が炎を宿していた。周囲の重臣たちは驚きと恐れの表情を浮かべながら、その様子を見守っていた。
側妃はティグルス王を睨みつけながら、「許さない!」と声を荒げました。その声には憎しみと絶望が入り交じり、王の心に深い衝撃を与えました。
アビスは椅子に座ったまま、エマージュに向かって謝罪の意を表しました。「私のメーベルはこのようになっておりますので、椅子に座ったまま失礼します」と言いながら、アビスは手に七色の小さな炎を宿し、その炎を指先に灯して、エマージュの顔に向けて魔法をかけ始めました。その煌めく炎の中で、古代の魔法がエマージュの身体に浸透していきます。
エマージュは最初は激怒していましたが、次第に力が抜け、人形のようになっていきました。アビスは静かにいくつかの命令を下します。
「アビスが命じる、生きること。」
「アビスが命じる、ティグルス・メロウトの命令を聞くこと。」
「アビスが命じる、立派な側妃として生活すること。」
エマージュは優雅な笑みを浮かべながら、「畏まりましたわ。」と静かに答えました。




