31 家宝の塗り薬
この話を読んでくださる全ての方に感謝いたします。
ありがとうございます。
「昨日のフロアラパッシムの酒漬けは、東の領主様のところに持って行ったんですよ。奥方様と御嫡男がお倒れになったって聞いてたんで。そしたら、採取で怪我をした者の為に使ってって、家宝の塗り薬を分けてもらえたんですよ。ギルド長が、フロアラパッシムで怪我をした者に付けて貰ったら良いって、言ってくれたし。どうぞ!申し訳ないけど、その隅でつけてもらって良いですか?」
そんな言葉と共に、小さな容器を渡された。
これが、東の領主の家宝の塗り薬。蓋を開けてみると、中には白の中に一滴赤い色を落とし込んだような不思議な色合いの、半透明の軟膏が入っていた。微かに、花の様でいて、苦い草のような、少し甘くも感じる複雑な香りがした。
これは、かなり手間を掛け、色々な薬草を練り込み、魔法を存分に使った軟膏なのだと思う。ここまでだと、何の薬草を使ったかは、想像も付かない。そして、この色、透明度、この香り……薬草採取をする者は、治癒魔法が使えなくとも、それなりに分析ができる。しかし、これは全くお手上げだ。
ウールスは、考える事を諦め、恩恵に預かる事にした。
この傷薬は、これから先も出会える代物では無い。東の領主の寛大さに、素直に感謝した。
『この奇跡の様な薬は、ここにあるだけで全てだろう。それなら尚更だ。この恩恵を独り占めするわけにはいかないな。この後、幾人もがフロアラパッシムを持ってくるだろうしな。この薬草は、無傷での採取は極めて難しい。』ウールスは、そう考えた。
この奇跡の軟膏は、最後のアレにやられた顎と両腕にだけ塗る事にした。
まず、顎に塗ると、ヒンヤリとした感じの後、すぐに温かくなった。まるで、傷口に、手を当てている様な気がした。その後に、あの複雑な香りが鼻腔をくすぐる。すると何も怪我などしていなかったかのように、痛みが消えた。腕も、巻き付かれた跡が痛々しい程に、赤くなっていたのに、こちらもあっという間に痛みと赤み、腫れが引き、つるんと、綺麗な皮膚が出来上がっている。この軟膏を作った者は、驚きの治癒の力を持っているに違いない。
目立つ所だけ、治療させてもらっただけでも、ありがたかった。
「とんでもない薬を使わせてもらった。会う事があるなら、東の領主様にお礼を伝えてくれ」
ザハールにお礼を言いながら、薬を返し、家に戻ることにした。
家に戻ると、フルアは朝食の準備をしていた。
「師匠は、昨日はお疲れでしたから、今日は一日お休みして、ゆっくり過ごしてくださいね」
テーブルの上には、好物ばかりが並んでいる。
暑くなる時間にはまだ早かったが、風の付与をした石を置いて、部屋が心地良かった。
フルアの心遣いが嬉しかった。
「師匠の顎と両腕の怪我が治ってますね。メディカさんのお店に寄ったんですか?」
「いや、ギルドで直してもらった。東の領主様のご好意で、家宝の軟膏を使わせてもらえたんだ」
「家宝の軟膏…そうですか。そんなにすぐに治るなら、家宝にもなりますね」
そう言って笑った。
ウールスは、昨日から身体を酷使していたし、今朝も早かったせいで、お腹がいっぱいになると、眠くなってきたようだ。フルアに薦められるまま、眠ることにした。
目が覚めて、起き出したのは、もう夕方近くなっていた。
それだけ、疲れていたのだろう。
フルアは、作業台で小石に付与をしていた。
ウールスが起きた事に、気づいていない様で、何かを呟いていた。
「あの日安全に採取が出来る様にって言うのと怪我をしない様にって欲張って2つの付与をしちゃったから、怪我をしてしまったのかな…どんな付与にしたら、師匠が怪我をしないで安全に仕事ができるんだろ…」
どうやら、お守りが効かなかった事で、付与の付け方に悩んでいた様だ。
今までなら、どんよりと落ち込んでばかりいただろうと思うが、フルアは少し前向きになってきたようだ。
ウールスは、フルアの成長が嬉しくなった。
「フロアラパッシムを採取に行く者は、怪我をしない者はほとんどいない。大抵、蔓に絡まれ養分を吸い取られているな。俺が怪我をしながら採取したフロアラパッシムは、通常の倍の背の高さだったぞ。あれと対峙して、あの程度の怪我で良かった。俺は、あのお守りがなかったら、死んでたな。アレのおかげで、負けるものかと思えたし、白と金の混ざった色合いの光が出てきて、蔓を引かせ、俺の体に魔力と体力を漲らせてくれた。奇跡のお守りだった」
ウールスは、フルアの後ろから答えた。
独り言を聞かれてると思わなかったフルアは、びっくりした。
「聞かれてるなんて思いませんでした」
フルアは、決まりが悪そうだった。
「あのお守りは本当に、助かったから、また作ってくれるとありがたいな」
ウールスの言葉に、頬を染め「師匠がそう言ってくれるなら、私も嬉しいです。また作ります」
フルアは、ウールスが望むなら、幾つでも作り続けたいと思った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
感謝いたします。




