30 フロアラパッシム (後)
この話を読んでくださる全ての皆様に感謝いたします。
ありがとうございます。
ウールスの背後に忍び寄るフロアラパッシムの蔓は、音もなくそっとウールスの足元を狙って伸びている。
その時、微かに枯れた葉が、蔓の動きに合わせたかの様に、動いた。
カサリ、と音がしたが、殆どの人ならば気付く事はないだろう。それほど、微かな音だ。
しかし、ウールスは身体強化をしていたお陰で、聴力も上がっている。その、微かな音も拾い上げた。
振り向いた途端、蔓は動きを早め、ウールスの足に巻きつこうとしたが、一足遅い。
ウールスは、咄嗟に蔓を薙ぎ払ったが、次々と蔓が襲ってくる。
右の蔓を薙ぎ払うと、次の瞬間は左の蔓が襲いかかる。
身体強化をかけたウールスが手間取る程の蔓だ。通常の蔓よりも、太く長い。
とうとう、剣を持つ右手に巻き付かれてしまった。咄嗟に、剣を左手で持ち替えようとしたが、間に合わず蔓は、左手、腰、足首に巻きついている。巻きついた途端に、チクチクと針で刺した様な痛みが襲いかかる。
ウールスは力を込めて、少しでも蔓の元から離れようを一歩を踏み出した。だが、次の一歩が出ない。巻き付かれた身体の力を抜いてしまえば、後はフロアラパッシムの養分となってしまうだけだ。
フルアの笑顔が浮かんだ。
あの子を一人ぼっちにさせる訳にはいかない。生きて戻らねば。
そう思っているが、容赦なく止めを刺そうとばかりに、口元にも蔓が伸びてきた。
『もうだめか…』動けなくなったウールスが諦めそうになった時、ズボンのポケットが熱くなった。
フルアのお守りが入っているポケットが、熱を持っている。
まるで、諦めるなと、言わんばかりに。
『諦めたら、終わりだ!』そう思い直し、剣を持つ右手に力を込め、顔に襲いかかる蔓に剣で、対峙した。そのお陰で、蔓は口を覆う事はせず、顎を掠めただけだ。
ウールスの決死の反撃は、フロアラパッシムにはダメージが無い。巻き付く蔓の力も増している様にも思える。この間にも、ウールスの身体の養分は、吸い取られているのだろう。
『負ける訳にはいかない!』そう思いながら、気力だけで対峙していた時に、フルアのお守りから光が溢れてきた。
金と白のマーブリングされた光は、ウールスとフロアラパッシムの蔓を包み込んだ。蔓はシュルシュルと音を立て、元の脇芽に戻って行く。ウールスは、巻き付かれた箇所は赤く腫れているものの、身体が再生しているように感じた。先程まで力も入らなかったはずなのに、今は剣を握れば、力が籠る。
この時を逃してはならないとばかりに、ウールスはフロアラパッシムを採取する為に、足を進めた。
蔓も太くて長い規格外のものだったが、本体も今までに見た事の無い高さと、茎の太さだ。
通常で40センチ程、大きくても1メートルあるか無いかの筈なのだが、目の前にあるフロアラパッシムは、1メートル50センチを優に超える高さだ。茎の太さも、その高さに比例している。
ウールスは、葉と脇芽を一つ残し、躊躇なく剣で切り倒した。
葉の根元を剣で切り、茎のみにしてからマジックバッグに入れた。
「最後に大物が採れたな」
そう独り言ちてから、そんな事を言えるのも、フルアのお守りのお陰だと感謝した。
『遅くなった。急いで帰ろう』
ウールスの足は、自然に早くなった。
危険な魔物系薬草だと話をしてしまったから、顔を見せるまで心配しているだろう。
「戻ったぞ」
ドアを開け、声を掛けると奥からフルアは出てきた。
「お帰りな…し、師匠〜!!怪我がひどいです。薬塗らなきゃ!」
ウールスの姿を見た途端に、フルアが慌てた。
フルアのお守りの力で、身体に力が戻ったとはいえ、ウールスの姿は、服は破れ、身体の所々は赤く腫れ上がっている。
「フルア、風呂に入ってから、自分で薬を塗るから大丈夫だ。見た目ほど、調子は悪くない。フルアのお守りのお陰で、助かったんだ。ありがとう、感謝してる。あれが無かったら、危なかったな」
ウールスは、そう言って笑った。
フルアは、お風呂に入る元気があるなら、と少し安心した。
メディカ謹製の傷薬は、治癒の効果があり、よく効く。それを手渡して「お風呂から出たら、すぐにご飯を用意します。食欲は、ありますか?」と、尋ねた。
「あぁ、もの凄く腹が減ってる。急いで風呂に入ってしまうから、待っててくれ。今日の夕飯は…あ、いや、見てからの楽しみする」
そう言って、いそいそと風呂場に向かった。
フルアは、見た目よりも元気そうなウールスに、ホッとした。
危険な薬草採取と聞いて、生きた心地がしなかったのは、確かだ。無心に作業するために、夕飯は色々作り過ぎてしまった。だが、今日のウールスならあっという間に、食べてしまうかもしれない。
キッチンに戻り、ダイニングに料理を運び始めた。
コッケイの串焼きに、細かく切ったバイソルンをキャベツで包んた焼き煮。ジャガイモのフライも用意した。今日は、マッシュしたジャガイモの中にタマネギとピギの燻製を入れたサラダも作った。上に、茹で卵を細かく切って、散らしてある。最後に、チリチリーリ入りのスープ。これは、ウールスが出てきてから出そう。
「ご馳走だな。待たせたな。食べよう」
薬がすでに効いているのか、赤く腫れた顎や腕は、腫れが引いてきているようだ。
余程お腹が空いていたのか、凄い勢いで食べ始めたウールスを見て、フルアは漸く大丈夫なんだと、思えた。
「明日は、夜明けと共に、ギルドに収めに行くから。フルアは、寝ておけよ」
急ぐだろうから、付いて行かない方が良いだろう、と判断したフルアはウールスの言葉にしっかりと頷いた。
翌朝、冒険者ギルドの受付はザハールが、1人いるだけだった。
「採ってきたぞ。今回は、危なかった」
そう言いながら、フロアラパッシムを台に乗せたウールスを見たザハールは「いやぁ、姿を見ただけで、わかりますよ。その顎と両腕、蔓でやられたんですよね。そこまでヤられて、生還してるってもう奇跡ですよ」
ウールスを労いながら、大物のフロアラパッシムを見て驚きながらも、手早く鑑定し、マジックボックスに入れる。
運ぶのも時間との勝負だから、ザハールの手際は良い。
待機していた運び屋を呼ぶと、荷は東の街にすぐに運ばれていった。
これで、病に苦しむ人達も助かるだろう。
薬草採取は自分の仕事であるし、生活の為ではあるのだが、自分の採った薬草が、役に立つのを感じる事ができる瞬間は、この仕事をして良かったと、満足感を覚えていた。
バイソルン・・・牛肉
野菜はカタカナで統一したのに、なぜ肉を謎肉っぽくしてしまったのか…自分でもわかりません。時々料理の出来上がりは思い浮かんでも、肉の名前がなんだったかわからなくなってる自分。ヤバい。でも、このまま行くつもりです。ご了承ください。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。
感謝いたします。




