21 松の香りで
この話を読んでくださる皆様方に感謝いたします。
ありがとうございます。
今日は、久しぶりにノアの森にやってきた。
定期的に、輪ゴムを出荷しているせいで、マルトファイのエキスが足りなくなってきたのだ。
「こんなに売れ続けると思いませんでした」
歩きながら、フルアはしみじみと言う。
「今、この街で輪ゴムを作ってるのは、フルアだけじゃないだろう。使用許可の為にお金を払っても、作りたい奴が沢山いるって聞いてるぞ。便利だからな」
最近では、色々な大きさや太さの輪ゴムが沢山街に溢れている。よその街に出荷されるようにもなってきている様だ。フルアは年齢の割に、落ち着いているようにも思えるが、まだ8歳だから誘拐される事もあり得る。身を守るのは、魔物に対してだけではなく、良からぬ人からも守らなくては!と、ウールスは思っていた。
「俺と一緒の時は大丈夫だろうけどな、これだけ輪ゴムが売れると、フルアを誘拐しようとする奴も出るかもしれないからな。そんな時は、そのナイフでビリッとやってやれよ。自分で身を守れる術があると言うのは、強いからな。俺がいない時に襲われたら、殺さない程度にビリッとやって、大声出して、警ら団の奴に引っ捕らえてもらえよ」
そんな時が来ない方がいいけどな、と言いながらウールスは心配そうだ。
フルアは、人が善人ばかりでは無い事を知っている。
せっかく付与したナイフを、そんな風に使う事が無い事を願った。
*******
次の日、2人は生産ギルドにいた。
フルアは輪ゴム、ウールスは薬草とそれぞれ作った物を出しにきたのだ。
今日のギルドの中は、どこかで嗅いだ事のある木の香りがしていた。
草の青い匂いに甘い匂いを足したような、落ち着く気持ちになるような香りだ。
ふと、受付を見ると、棚の上に緩く紐で縛られた松の葉と陶器の入れ物を2つ置いている男がいた。
「松…」フルアは、小さな声を出していた。
「ん?フルア、どうした?あ、あれか?あれはパインツリーの葉だ。細くて尖ってるよな。あれを、風呂に入れると、疲れが取れるらしいぞ」
ウールスは、見慣れない葉を不思議に思ったのだと思い、説明をした。
前の男の買取は済んだようだ。振り返った男は、ウールスに声を掛けた。
「ウールス君、久しぶりだな。噂は聞いてるぞ。子どもが出来たんだってな」
ーーーー若干勘違いをしていた。
「ピンズさん、お久しぶりです。子どもじゃなくて、弟子を取ったんです。この子です」
「初めまして、フルアです」
フルアは、ドキドキしながら挨拶をした。
「おぉー、こんな小さくて可愛い子を弟子にしたのか?俺は、ピンズだ。パインツリーを、育ててるんだ〜」そう言いながら、フルアの脇に手を入れて、フルアの体を持ち上げた。小さい子にする、“たかいたかい”をした。
フルアは、驚いた。今まで記憶にある限り、そんな事をされたことは無い。それに、ピンズはウールスよりも、身体が縦にも横にも大きい。
「ひゃ〜〜」フルアが叫び、ウールスは驚いていた。
「ピンズさん、フルアが怖がってます!!」
ウールスが、ピンズを止めた。
「お、すまん。子どもを見ると、つい抱き上げちまってな」悪びれなく、ピンズが謝った。
「こういうのは初めてで…」フルアは、衝撃でドキドキが止まらなかった。
「父ちゃんは、“たかいたかい”はしてくれなかったのか?」
ピンズのその質問に答えるのは、フルアには難しかった。自分の生い立ちを語る訳には、いかない。
フルアは、苦笑いをするのみに留めた。
その様子を見て、何を思ったのか、「そうか…悪かったな…」そう言いながら、ピンズはフルアの頭を撫でた。
「パインツリーの香り、久しぶりに嗅ぎました。いい香りですね」
ウールスが、話を変える様にパインツリーを褒めた。
「そうだろ。あれの樹液の粉末を付けると、剣の柄が滑らないって事が分かって、騎士団に出荷できる様になったから、助かってるんだ。昔から、風呂に入れると疲れが取れるので有名だから、それで育ててるがそれだけだと、なかなか儲からなくてなぁ。今は全部出しちまったから、無いんだが近くに来たら、寄ってくれよ。フルアちゃんに怖い思いさせたから、お詫びに松の葉をやるよ」
お詫びの品をもらいに行くというのも、行きずらい話だが、ピンズは深く考えないタイプの様だ。
ウールスも、笑いながら「ありがとうございます。また伺います」と、返事をしていた。
フルア達も買取を終え、フルアは初めてお金を引き出した。
今日の受付はマールだ。
「フルアちゃん、頑張ってるわね〜〜」そう言ってにっこり笑っている。
「この後、手芸店に連れて行ってもらえるんです」
フルアは、よほど楽しみなのか、ウキウキしているようだ。
初めて来た時よりも、明るい笑顔を見せるフルアを見て、マールはこの師弟は上手くいっているのだと思い、安心した。
ギルドを出る後ろ姿は、初めて来た時と同じで、2人で手を繋いでいた。
マールは、知らないうちに営業用の笑顔ではなく、本物の笑顔になっていた。
最後まで読んで下さってありがとうございます。




