11 輪ゴムが
この話を読んで下さる皆様方に、感謝いたします。
そして、ブックマーク&評価をしてくださった方々にも、心からの感謝を。
ありがとうございます。
街を抜け、周りが木と草ばかりになった頃、フルアは思案していた輪ゴムについて、尋ねることにした。
「コモヘルンデス国には無かった物なんですが、スビリジーナ国には輪ゴムって言うものはありますか?」
「ん?輪ゴムってなんだ?聞いた事の無い物だな。もしかして、前世の人の世界の物か?」
「そうなんです。細くて、輪になった物なんですが、引っ張ると伸びて、輪の中に留めたい物を入れて、手を離すと、ピタッと動かなくなるんです。でも、輪の中の物にくっついてる訳じゃなくて、手で触れば動いて、また外す事ができる物なんです。何度も使えます。それを、さっき頂いた入れ物の紐の代わりに使えば、便利だと思って…」
「確かに便利だな。しかし…何で出来てるんだろう。」
「弾力があって、伸びても戻るもの…ですね…そういうもの、ありますか?
ウールスは、ずっと考えている様だが、すぐには思い付かない様だった。
フルアも、輪ゴムの存在は、ふと思い出したものの、作り方などは全く頭から湧いて出る気がしない。あれは、手作り品なのでは、ないのだろう。
2人で、悶々としながら、歩いているうちに漸く、家にたどり着いた。
荷物を片付け、一休みした後、2人で夕飯作りをする事にした。
考えても、すぐに思い付かない時は、違う作業をするに限る。
2人は、協力してテキパキ作り始めた。
今日の夕飯は、鳥の蒸し焼きと裏の畑で取れた野菜サラダとニョッキだ。
フルアは、この家に来てから料理を始めたのだが、料理をすると前世の知識が出る事が多く、美味しい料理のレシピが増えたと、ウールスも喜んでいる。
鳥料理も、以前なら塩をすり込んで焼くだけだったのだが、フルアの前世の知識で臭みを取る薬草を、途中まで剥いだ皮の間に挟み、塩を擦り込む前に、少しの蜂蜜を揉み込んでから塩をまぶして蒸し焼きにすると、良い香りが、肉に移り、美味しいし、蜂蜜のせいか肉も、よりジューシーになっている様だ。
ニョッキも、フルアの前世の知識だ。ジャガイモと小麦があんなに美味しくなるなんて思いもよらず、掛けるソースを変えながら、3日に一度は食べる程、ウールスの好物になっている。
ウールスは、フルアの前世の世界は、ここよりも進んだ世界なのだ、と思っている。フルアも、作り方はわからないが、たくさんの料理が頭の中に出てくる、と言っていた。料理だけでも、こことは違う豊かな世界。これから、どんな食べ物が出てくるのか、楽しみだった。
ウールスは、夕飯も終わり、片付けながら弾力のある素材の事を考えていると、ふと、何年か前の夏に、海沿いの街で流行った、サンダルの事を思い出した。あれは、その年の夏だけ急に流行って、あっという間に廃れてしまったサンダルだった。確か素材が、魔性蔓の茎を切り、そこから滴り落ちるエキスに、熱風の魔法で固めて作っていると、聞いた。依頼を受けて、素材を採取したものの、流行りのはずのサンダルが、急速に廃れたせいで、依頼主の店が潰れ、店主は、逃げてしまった。依頼が反故になってしまったから、あのエキスは納戸に置いてあるはずだ。フルアが、熱風の魔法を使えるかどうかは、わからないが…
「これで輪ゴムが出来るかどうかは、わからないが…これは魔性蔓のエキスなんだが、このエキスに熱風の魔法を当てると、固まる性質がある。熱風の温度を工夫すれば、弾力と伸び縮みする素材になる様にも思えるが…やってみないとわからないな…」
フルアは目を輝かせ、喜んだ。
「挑戦してみたいです。熱風の魔法、と言う事は、このエキスに、熱い風を吹き付けると固まるんですね」
作業台に、熱に強い材質の板を置き、小分けにしたエキスを、匙で掬ってみた。それは、透明で粘度がある水のような液体だ。板の上に匙で垂らすと、それはとろっと板の上に落ち、小さな丸い形で止まっている。フルアは、薬缶でお湯が沸騰する温度をイメージして、熱い風を吹きつけた。
すると、一瞬で白濁し固まった。冷めてから、触ると固い感触だ。
2回目は、もっと低い温度にする事にした。お風呂に入る時の、お湯のイメージで魔法を使った。
今度は、じわりと白濁していき、触ると少し粘つき、押すと戻る事なく形状が変わらない。今まで触った事の無い、不思議な感触だ。だが、輪ゴムのイメージの手触りでは無かった。
2回目の素材を、1度目の素材の上に重ねて隅に置き、3度目のチャレンジをする事にした。
お湯が沸くよりも低い温度で、お風呂より熱い温度…お湯でイメージをするとなんとなくだけれど、熱風に、水分がある様な気がしてきたので、今度は火に手を近づけて、熱いと感じる位の風をイメージして、吹きつけてみた。ゆっくりと白濁した。触ってみると、弾力がある。今度は、ギュッと引っ張ってみた。伸びる。
「成功した!」
フルアは、自分のイメージ通りに魔法を使って、素材を成形出来た事に、喜びを感じた。
「良かったな。フルア、すごいじゃないか!!」
ウールスも、嬉しそうだ。
「次は、輪の形を描いて、固めてみます」
そう言って、板の上に、そっと輪を描いたが、頭に浮かんだ輪ゴムとは、似ても似つかない。けれども、実験だから、と自分を納得させ、先ほどと同じイメージで魔法を掛けた。
先程と同じように、ゆっくり白濁していった。手触りも弾力がある。引っ張ってみると、伸びて、力を抜くと戻る。
成功した。
「輪ゴムが、出来たんだな。良かったな。フルア」
「でも…頭に浮かんでる輪ゴムは、全部同じ形なんです。」
「さっき、切ったニンジンの輪切りの様にか?ニンジンをこの液に漬けてから、魔法を掛けるか?」
「食べ物を使うのは…あ、この小さい箒の柄を使っても良いですか?後で、ちゃんと拭きます」
「あぁ、大丈夫だ。それを使おう」
フルアは、早速箒の柄に、液を塗りつける事にした。
ウールスは、塗りやすい様に、フルアの後ろから箒が垂直になる様に、支えた。
「この形だと、さっきみたいな魔法の掛け方だと、全体に掛からないから、工夫した方がいいぞ」
ウールスが、助言を与えてくれたので、フルアは魔法の風が箒の柄の周りを回る様に、魔法を掛けた。
冷めた様なので、出そうと思ったら、今度は滑らなくて、柄から外れないハプニングもあったが、どうにか外して、ニンジンを切るように、ナイフで切ってみた。
どれも、同じ大きさの輪ゴムが出来上がった。
フルアは、自分の頭の中だけにあった品を、師匠であるウールスに助言されながらも、どうにか作る事ができて、満足だった。自分の目で見て、触り、使える事の喜びも感じた。
前世の料理を再現できるのも、嬉しくてたまらないが、今回はまた違う喜びがあった。
「師匠、ありがとうございます。師匠のおかげで、輪ゴムができました」
「いや、これはフルアが頑張ったからできたんじゃないか。凄いよ」
「師匠に、材料を探してもらって、色々教えてもらったから、出来たんです。私だけの、力じゃ無いです。ありがとうございます」
「フルアにお礼を言われてしまうのは、困ってしまうが…とにかく良かったなぁ」
2人は、成功した満足感でいっぱいだった。
《すぐに廃れたサンダルの話》
砂浜の海岸で、歩くのにぴったりだと人気になったサンダル(専売)ですが、どの街も、舗装されていない道が殆どなので、歩いているうちに、石を踏んで、サンダルが裂けていく現象が多発し、返金騒ぎが起きました。そして、そのサンダルを作って販売していた店が潰れ、店主が借金を踏み倒し逃亡しましたが、すぐに捕まり、借金返済まで強制労働の刑に就いています。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。
感謝しています。




