私の過去 ⑦
放課後、私は松木の指示通りに屋上へ向かった。
空は既に、夕焼けで赤く染まっていた。
今日は、期末テスト前のため部活は無い。
その為、いつもと違う静かな校舎が少し怖かった。
屋上には、既に松木が居た。
「こんな所でごめんな。
どうしても美術室では言えへんくて。」
「それで、何が分かったんですか?」
「あの視線はな、担任やで。」
え?私の担任のハゲが?
何で?
「どうしてですか?
どうして私を見ていたんですか?」
「担任な、言いにくいねんけど酒井の事が好きらしい。
だから、酒井の事を見ていたり、私物を盗んだりしていたらしいで。」
「私物を盗んだ?
私、松木先生に盗んだ事って言いましたっけ?」
私は、まず疑問点を口にした。
「いや、言うてたよ。
体操服が盗まれたけど、新品になって返ってくるって。」
体操服が盗まれた事はもしかしたら言っていたのかもしれない。
しかし、新品になって返ってくるとまでは言っていない。
それは、確証が無かったからだ。
新品だと思うくらいだった為、私は誰にも言わ無かった。
「あの体操服新品だったんですね。
知らなかったです。」
「え?」
「私には確証が無かったんです。
だから、誰にも言わなかった。
なのに、先生はどうして知っているんですか?」
「それは、、、。」
「それは、貴方が盗んだからですよね。
松木先生。」
そうだ。
よく考えてみれば、あの居残り授業前後から私の日常がおかしくなった。
変な視線を感じると、松木が居た。
いつもニコニコとしていて、爽やかでノリツッコミもしてくれる。
そんな先生が私は嫌いじゃ無かった。
むしろ、、、。
「あちゃー。
バレてしまったかぁ。」
松木はいつもと同じように、返答する。
「そうですね。
何故そんな事をしたんですか?」
「勿論、好きやからやで。」
いつものにこやかな笑顔のままそう告げる。
それが、逆に怖かった。
コイツは異常だ。
私は、松木から逃げようとした。
「おい!!!!
何処に行くねん!!!」
突然、怒鳴り声をあげる。
その目は怒り狂っている。
怖い。助けて。どうしたらいいん?
どうやったらコイツから逃げられる?
「ごめんなさい。」
私の声は震えた。
声だけじゃない、全身が震えている。
気づくのが遅すぎた。
今の時間帯はもう先生しかいない。
ただ、その大半は職員室に居るだろう。
「ごめんなさいは要らんねん。
何で逃げるんやって聞いてるねん。」
松木は私の腕を強引に掴んだ。
揺さぶるように、何度も何度も繰り返す。
「逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな、、、、」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
私はずっと謝っていた。
しかし、どんだけ謝っても松木には届かなかった。
松木は、突然冷めた目で私を見る。
「もういいや。」
松木はそう一言呟くと、落ちるギリギリの所まで私の腕を引いた。
松木が手を離せば、私は落ちてしまう。
もう何を言っても話は通じない。
私は気づくのが遅かったのだ。
もっと早くに松木の狂気さに気づいていれば、もっと早くに誰かに相談していれば。
こんな事にはならなかった。
もう私は、生きていられないだろう。
最後に、家族、友達、ユキ。
ユキはきっと、アキトの支えになってくれるだろう。
「ごめんね。ありがとう。」
私は、松木から手を離された。
最後に見たのは、松木の笑顔だった。




