7.誤解しないで!
なんだろう、ここ。
霧のせいで、なんにも見えない。
あたし、なんでこんなところにいるの?
ジェイクもいない。
あ、人影発見!
――長い、ストレートの金髪。色がないように見える、薄いグレーの瞳。白いマントにくるまれたような、不思議な雰囲気の女性。
まるで女神様みたいな、この人は……
あ。
初代聖女、オルディニア!
だよね、この容姿。ゲームのエンディングで出てくる、一枚絵の人だ。
「ねえ、オルディニア……オルディニア様!」
声が聞こえないのか、すぐそこにいるのに、こっちを見てくれない。
初代聖女は、神の御許でこの国を見守っている――そういう設定だったよね。
つまり、神同然って考えていいんでしょ?
だったら、聞きたいことがあるの!
「ちょっと待ってよ。教えてってば!
なんであたし、オル学に似たこの世界に……」
あ、霧の中に、消えてっちゃう!
「待ってよー!」
◇ ◇ ◇
はっ。
……なんか、変な夢を見た?
そうだ、オルディニアの夢!
って、夢じゃどうしようもないか……
いや、そうとも限らない。異世界転生のお約束として、創造神だの女神だのと会ったりするじゃん。
また、夢に出てくるかなあ。
この世界について、聞きたいのに。
っと。
そろそろ、起きて支度する時間だ。
ふう。今日も学校!
✦ ✦ ✦
あれ以来、あたしは細心の注意を払って、放課後の裏庭に行っている。ほぼ毎日、オーウェンとレオニードがいるから。
見つからないように、話しかけずに見るだけ。
やっぱり、オーウェンかっこいいいいいい。ゲームだと動かないのに、こうして木剣を振るってるところを見られるなんて。
推しの姿は健康にいい……見ていられるだけでも十分!
……なんとなく、後ろから視線を感じるような。
あっ、ジェイクがいるんだった。
毎日こうやって覗いてるの、不審がられてるよね。護衛騎士だから、なんにも言わずについてきてくれてるけど。
でも推しなんだから、会いたいのは普通じゃない。
「お慕いする方を見守りたいと思うのは、自然ではなくて?」
声に出た上に、あまりにもストレートな物言いに変換された!?
「――王太子殿下を、ですか? それとも、ランカスター卿を……」
しかもきっちり聞かれてるし!
どっちにしても接点ほとんどないし、いきなりストーカー行為するほどいつ好きになった、って思われそう。
前世からの推しなの!
気にしないで、放っておいて。
「お前には関係ないことよ」
うわー、やな言い方になった!
「……失礼致しました」
好感度下がりそう。って、護衛騎士にそんなパラメータはないか。
でも、わざわざ嫌われる言い方しなくてもいいのにな。
シルヴィアにとって、ジェイクは……記憶をたどった感じ、どうでもいい「側にいる置物」程度の認識だもんなー。
いやいや、よくないよくない。
あたしは悪役令嬢じゃない!
ごめん、今の説明は悪かったと思う。
「あまりいい言葉づかいではなかったわね。
聞き流してよくってよ」
だからなんで上から目線ー!
「お気になさらず」
頭を下げられた。
よかった……のかな?
それとも、さらに好感度下がった?
ジェイクと目が合った。
怒っては、ない……?
「そろそろ、帰りましょうか」
「はい」
思ったこと、そのまんま言えないことがあるのがなー。
しかも、ジェイク相手だとどうしても偉そうな言葉になっちゃう。シルヴィアになっちゃってるからかな。
あたしは別に、ジェイクを下に見てるつもりはないんだよ?
✦ ✦ ✦
「オーウェン、どうした?」
「いえ……」
剣を降ろし、オーウェンは二人が去っていったほうをじっと見つめていた。
✦ ✦ ✦
はあ、いろいろと上手くいかないなあ。
この世界のこと、わからないことだらけだし。オーウェンを見ていられるのは嬉しいけど、仲良くなれそうにないし。
オーウェン、侯爵家を継ぎたくないからってやる気なくて、二年まではBクラスなんだよね。ロゼッタの好感度が上がると、三年からはAクラスに変わるんだけど……
最前列の端っこのほうに座ると、髭の先生が入ってきた。
「では、本日はBクラスの成績優秀者も合同で授業を行います」
へっ?
そんなイベント、オル学にはなかった。
あたしの隣に人影が近づいてきて、横を見ると……
オッ、オオオオオオオオーウェン!?
推しが! 推しが、あたしの、すぐ隣にいいいいいい!!
なんで、隣……って、あたしが話しかけてもいいんだよね?
公爵家の方が格上なんだから。
ちょ、ちょっと待ってね、深呼吸。……よよよ、よし。
「ごきげんよう、ランカスター卿。
いかがなさいましたの、王太子殿下のお隣に座られては?」
「公爵令嬢には、ごきげん麗しく。
何、気まぐれというものですよ」
笑ってくれた……けど、この表情は、気を許してくれてるものじゃない。
ゲームで序盤に見た、どこか皮肉めいた笑い方。
「レオニード殿下とお近づきになりたければ、令嬢こそ自由にお座りになっては?」
は?
……まさか……
「裏庭まで、殿下の鍛錬をご覧になりにいらっしゃるのですから」
ばっ、バレてる!
それより、レオニード狙いだと思われてる!?
いやーっ、違う違う違う違います!
「わたくし、王太子殿下と親しくなろうなどとは……」
「授業を始めます」
あーっ、始業の鐘鳴っちゃったー!
✦ ✦ ✦
授業が終わったら、さっさとオーウェンは教室を出ていってしまった。
要するに、レオニードに悪評ある令嬢が近づかないよう、牽制されたのか。
だよね。
お茶会でも、あたしが王太子妃候補だなんて噂になってたし。
「どうかしたのかい? ため息などついて」
レオニードが話しかけてくる。
なんで、レオニードなのよ。あたしが話したいのはオーウェンなの!
「王太子殿下、失礼致しました。
お気になさらないでくださいませ。取るに足らぬことですので」
とりあえず、お辞儀。
「それなら、いいのだが」
「申し訳ございません、急いでおりますので失礼致します」
逃げるように、その場を離れる。周囲の視線を感じるんだもの。
ひそひそ話されてる。
あーもーっ、王太子妃なんてなりたくないってば!
聖女と同様にどうでもいいわ!
オーウェーン!
あたしの話を聞いてーっ!
廊下に出て走ろうとすると、前を歩いていた人にぶつかった。
って、ロゼッタじゃん!
「あっ、も、申し訳ございません!
道を、塞いでしまいまして」
ロゼッタが謝ってくる。
違うでしょ、ぶつかったのあたしのほうなんだよ?
「こちらこそ、不注意でしたわ。
怪我はなくって?」
「は、はい。大丈夫です」
「それならよかったわ。……あの、ロゼッタさん?」
この際、ロゼッタにあたしの本音を知っておいてもらおう。
「あまり、このようなことを言うべきではないと、承知してはいるのだけれど。
わたくし、聖女候補にはあなたのほうが相応しいと思っていてよ」
「え、ええっ!? 私なんて、全然です!」
神聖力トップで、謙遜しなくていいのに。
「もちろん、わたくしも努力は続けるけれど。わたくしでは、神聖力が足らないのだもの。
聖女候補も王太子妃候補も、わたくしには身に余る話でしてよ」
ロゼッタに貴族の噂がどれだけ知られてるかわからないけど、できるだけ誤解はされたくない!
あたし、悪役令嬢じゃないからね。
あなたの邪魔はしないから!
「……シルヴィアーナ様が、そんな」
「わたくしは、学力しか取り柄がないわ。
聖女には、神聖力が最も大切。家柄は関係なくてよ」
ここ大事! テストに出るからね!
最も大事なステータスは、神聖力!
「それでは、失礼するわね」
「あ……はい。あの、ありがとう、ございます」
また、深々と頭を下げた。
ほんっと、いい子だなー。
✦ ✦ ✦
結局オーウェンに会えないまま、放課後になっちゃった。
裏庭に行ったら会えるだろうけど……
今行っても、誤解を深めるだけのような気がする。レオニードのいないところで、話したい。
「今日は、まっすぐご帰宅されるのですか?」
ジェイク。
うん。だって、今日はしょうがないの。
「ええ」
「……失礼致しました。出過ぎたことを申しました」
「構わなくてよ。心配してくれたのなら、ありがとう」
あ、結構素直な言葉が出た。
いつもこれなら、誤解されることも少ないんだろうなあ。
ジェイクが驚いてる。
そうでしょうね、あたしは王太子を狙ってるって、あなたも思ってるよね……
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次回一行予告:聖女は無理かな。
※第8話は明日18:50頃更新予定です。




