4.違う世界?
「こっちのグラフィック差し替え?」
「そこはまだ、色チェック終わってませーん」
「週末イベント、変更点確認お願いします」
1台のPCにいくつもモニターがついた机がずらっと並び、忙しそうに話し合う人や、モニターを凝視してぶつぶつ言っている人がいる。
何、ここ。
あ?
モニターに、ロゼッタの絵が三枚……でも、髪の毛の色が違う。橙色っぽいのと、水色っぽいの、ピンク……
「やっぱりクラリッサが寒色系で、ロゼッタは暖色系でしょう」
「ピンクかなあ、ヒロインの定番だけど。もうちょっと、グラデーションで変化つけてみて」
これ、オル学の開発現場?
「あとは……も、最初はわかりにくくても、人気が出るように……」
話し声が、よく聞こえない。
モニターが、ぼやけてく……
見えなく、なる――
◆ ◆ ◆
なんだか、変な夢を見た。気が、する。
よく覚えてないんだけど……えーと……
コンコン、とドアがノックされた。
「お嬢様、そろそろお仕度を」
ジェイクじゃなくて、侍女の声だ。
……あー。
そっか、今日は日曜日。お茶会の日か。
学園に通い始めた先週、結局オーウェンにはあれきり会えなかった。
で、今日は以前から招待されてたお茶会に行く。
ドレス、アクセサリー、メイク。
うーん、今日も悪役令嬢っぽい美人のできあがり。とほ。
侍女はあたしに似合うように、仕上げてくれてるけどねえ。
乙女ゲーだからか、コルセットみたいな下着がないのが救いだわ。
小説や漫画でもよく出てくるけど、相当苦しいらしいしなあ。
例によってジェイクをお供に、馬車に乗って出発。
今日の行き先は、リーズリース伯爵家。
オル学では、NPCなんだよね。令嬢のラエルがお茶会で、聖女になるために必要な隠しステータスや評判の現状と、どこを重点的に育成すればいいのかを教えてくれる。
ロゼッタは平民だから、最初からお茶会には出られない。まずは校内で会って、ラエルとの好感度が上がると、聖女候補ってことでお茶会にも出席できる。
ラエルには弟のラブルがいて、彼は校内で週に一回会えて、攻略相手の大体の好感度を教えてくれる。
学年が上がった二週目から会えるから、明日以降出現場所に行ってみよう。昼休みのうちに、前庭の花壇近くに立ってるはず。
ま、聞かなくても、誰の好感度もあまり上がってないだろうけど。
オーウェンの好感度が、最低じゃないといいんだけどなー。
レオニード同様にいつも笑顔の人だから、好感度の上下がわかりくいんだよね。ロゼッタの会話パターンなら覚えてるけど、シルヴィアと同じ会話はしないだろうしなあ。
って、あたしじゃ、NPCに教えてもらえるかも怪しいか……
考えてるうちに、伯爵家に着いた。
ジェイクの手を借りて、馬車を乗り降りするのもすっかり慣れたな。
それにしても、護衛騎士って大変。休みなのに、ずーっとあたしに貼りついてなきゃいけない。
いつ休むんだろ。
あたしが出歩かなければいいんだろうけど、公爵令嬢として社交は無視できないんだよねえ。
この世界のことも、まだわからないことが多いしね。
さて、ホストにご挨拶。
「お招きありがとう、ラエル様」
「ようこそおいでくださいました、シルヴィアーナ様。
お待ちしておりましたわ」
特に目立った容姿じゃないけど、笑顔がほっとする子だな。ただしNPCは態度が変わらないから、まったく好感度が不明。
下がることもないから、そこは安心なんだけどね。上がると、便利なアイテムくれたりするけど……それも、ロゼッタじゃないとなさそう。
整った庭園に、お茶会のテーブルが用意されている。当然のごとく、上座はあたしの席。ジェイクは少し離れて、立っている。
グラハムの家も公爵家だけど娘がいないから、この国ではあたしが唯一の公爵令嬢。つまり、王族の次に高貴な身分の女性になるわけで。
だから悪評流されても、こうしてお茶会には招待されて、表面上は仲のいいフリをされると。
虚しいなあ。
……あ! クラリッサ、いるじゃん!
そうだよね、聖女候補の伯爵令嬢は招待されるに決まってる。
話したいなー。
「ごきげんよう、クラリッサ様。
素敵なドレスね」
髪の色に合わせた、薄いブルーに銀の刺繍が施されたドレス。襟が高めで、派手すぎないかっちりした感じが、クラリッサの雰囲気に似合ってる。
「恐れ入ります、シルヴィアーナ様ほどではございません」
見えない壁に、パーンと跳ね返された感じ。
聖女候補同士で、仲良くなるのは無理なの?
ロゼッタとは親友になるエンドもあったのに。あたし、そんなに印象悪いのか……
「シルヴィアーナ様、今日も華やかでいらっしゃいますわ。
そちらは、ヴァレリーのデザインですわよね」
ラエルに話しかけられた。ヴァレリー?
「専属デザイナーがいらっしゃる方は、お似合いのものを仕立てられるのが羨ましいですわ」
専属……あ。
そうだった。アシュフォード家が出資してるブティックのデザイナーが、あたしの服を全部手掛けてるんだ。
王族御用達で、高位貴族にも贔屓にされてる。
ロゼッタがドレスを贈られる店も、ヴァレリーの支店なんだよね。あの店で実際に縫っているのは、別のお針子だけど。
王家のものと、あたしの家の注文は、ヴァレリーが手ずから縫製しているらしい。
職人としても一流なんだろう。
「きっと聖女になられた暁には、神殿での装いは神々しくも華麗になられるのでしょうね」
「まあ、素敵ですわー。聖女は白い衣装ですけれど、総レースになさったり?」
ちょ、待って待って。何みんなで勝手に言い合ってるの。
「聖女候補でいらっしゃるのですから、王太子妃候補の筆頭にもなっておいででしょう」
ぎゃー。話が飛びすぎ!
「わたくしはまだまだ、聖女候補としては未熟ですわ。
まして王太子妃だなんて、まったくそのようなお話もございません」
「あら……そうでございますか」
なんなの、揃いも揃って、その探るような視線は!
クラリッサ、ひとりで黙ってお茶飲んでないで。あなたも聖女候補でしょ!?
「そうですわね……聖女候補になられて、まだ一年でございますし。
クラリッサ様、平民のロゼッタさんも、素晴らしい神聖力をお持ちですわ」
お!
ラエル、情報くれるの?
「ロゼッタ……あの方、神聖力はかなりのものだそうですけど」
「でも所詮、平民でしょう」
「平民から聖女が選ばれたことなんて、百年以上もなかったそうですしね」
ああああ、話がずれるー。
ラエル、なんとか言って!
「先のことはわかりませんわね。
そういえばラエル様、ご婚約が決まられたとお聞きしましたわ」
えっ。
「まあ、どこでお聞きになったのです?」
ラエルが、頬を赤らめてる。
え、え、そんなイベントNPCにないよ?
っていうか在学中に婚約?
「父のお知り合いの方からのお話なのですけれど。でもわたくし、一人娘ですから……
わたくしの夫となる方に家を継いでいただくため、早めに決めるように言われてしまって」
……は?
一人娘?
えっ、弟のラブルは――
✦ ✦ ✦
お茶会が終わって、馬車の中であたしは考え続けていた。
オル学にいないシルヴィアがいて、いるはずのラブルがいない。
ここは、オル学とは無関係の世界?
そうじゃない、あまりにもオル学に似すぎてる。
オル学に似て、非なる世界……
そうなんだ。
この世界で、あたしだけがバグみたいに入り込んだだけじゃない。
ここは、オル学とまったく同じじゃない。
そうか……
それにしても、ラブルがいないとは思わなかったなあ。
好感度はわからないか。オーウェンの好感度、知りたかったな。
いやいや、そうじゃなくて。
この世界のことを、もっと確認しなきゃね。
週末の休日は、ゲームなら休息を取ってスタミナ回復するか、街に出て攻略相手との遭遇イベントを発生させる。
でも、スタミナはゲームのパラメータじゃないから、普通に食べて寝てればいいだけ。
てことで、攻略相手がいるのか、シルヴィアのあたしでイベントが起きるのかを確認したい。
今のところ、出てこない四人目は三年生のマティアス、五人目は一年生のヒューゴ。ゲームのイベントをこなしていれば、ロゼッタが街でヒューゴに会っているはずだけど、シルヴィアの記憶にはない。
聖女候補の恋愛は何かと噂になるから、聞いたことがないってことは、ロゼッタとフラグが立ってなくてほとんど交流なさそうね。
ほかに隠し攻略キャラもいるけど……まあ、いいわ。
あたしは推しの、オーウェンのいるところに行ってみよう。
平日の学園内では、高確率で裏庭にいるはず!
よし、決めた。
明日は、放課後に裏庭へ行こう。
✦ ✦ ✦
そして月曜日、無事に放課後になった。
行くわよ、推しに会いに!
「お嬢様、どちらへ?」
「裏庭よ」
ジェイクが変な顔をした。
なんでそんなところに、って聞きたいんでしょうね。
でも立場上、何も言えない、と。
シルヴィアの記憶では……行ったことはない、か。
公爵令嬢が、用もなく裏庭なんかに行かないよね。
「クラスメイトに聞いたのよ。
木陰が涼しくて、休めるところだそうよ」
休むならとっとと帰ればいいのに、と思われそう。ていうか、間違いなく思ってるだろうな。
聖女候補は疲れるのよ。家でもお父様に発破かけられるし、帰りたくない日もあるの。
……と、いうことにしておこう。言わないけど。
✦ ✦ ✦
裏庭に来ると……いたーっ!
オーウェーン! 会いたかったー!
木剣で手合わせしてる。かっこい……い?
あれ? レオニードが相手をしてる。
ゲームでは、レオニードがいることは稀。基本はマティアスが、オーウェンの相手をしてる。
これは、ロゼッタとレオニードの好感度が、マティアスより上ってことね。やっぱり、マティアスとヒューゴの出番はないかな。
グラハムの好感度もそれなりにありそうだったけど、オーウェンとはどうなんだろう?
あ?
オーウェンが手を挙げて、打ち合うのをやめた。
って、こっち見てるじゃん! 建物の陰からこっそり見てたのに、バレた。
気配を感じたのかな。さすがオーウェン、すでに一流の剣士ね。
なんて、喜んでる場合じゃない。
見つかった以上仕方なく、あたしは進み出ていった。
「やあ、アシュフォード公爵令嬢」
「王太子殿下には、ごきげん麗しく。
ランカスター卿、失礼いたしましたわ」
カーテシーをして、笑顔を作る。
「公爵令嬢が、こんなところにどういったご用で?」
オーウェンの言い方が冷たい……
やっぱり好感度低い?
「帰る前に少し、散策していただけですわ」
あ。そうだ、ダメもとでやってみよう。
ハンカチを二枚、ポケットから取り出す。どっちも使ってなくて、綺麗ね。よし。
「汗を掻いておいでですわ。
お使いになって」
レオニードと、オーウェンに差し出してみる。
ハンカチを攻略相手に渡すのは、ゲーム内でも起こるイベントだ。
一定の好感度がある相手に使えるアイテムで、当然複数所持可能。この世界では、汚れたときのために貴族は複数枚持つもの。
あたしはオーウェンだけに渡したいけど、王太子を無視するわけにはいかない。
「ありがとう。でも、自分のがあるから大丈夫だよ」
「公爵令嬢のハンカチとは、恐れ多い。お心遣いのみ、いただいておきましょう」
がーん。どっちにも断られた……
「そう、ですか。
お邪魔いたしましたわ」
ロゼッタなら、そもそも好感度が高くないと、ハンカチを渡すかどうかの選択肢自体が出ないんだけど。
ほんと、攻略情報が役に立たない……
「ジェイク、帰りましょう」
とぼとぼと、あたしは歩いた。ジェイクがオーウェンたちのほうを見て、丁寧にお辞儀をしてからついてくる。
ラブルがいないから、好感度がどれだけ低いかもわからない。
最低ラインなのかな。
うう、切ない。
あたし、悪役令嬢じゃないのにいいいい。
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次回一行予告:侯爵令息が思うこと。
※今週は明日以降毎日1話ずつ更新いたします。
※第5話は明日18:50頃更新予定です。




