表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/27

3.あたしの推し!

そうか。

読み書き会話もできるけど、日本語じゃないから、こっちの言語になるんだ。


で、公爵令嬢っぽい言い回しに、自然となるんだろうな。前世でも、「上流階級のフランス語は上品さが違う」なんて話もあった。

それなら、「この世界にない言葉」を言うとどうなるんだろ?


スマホが欲しい。


「%★¥?があればよろしいのに」


ん?

自分でなんて言ったか、わからなかった。


スマホ、スマートホンだよ。


「%★#&¥?ですわ」


なるほどねー。存在しない言葉は、単語にならないんだ。

ジェイクが、少し引いてる。しまった、一人じゃなかった。


「気にしないで。少し魔術の呪文について、考えていただけ」


「……はい」


何か言いたげだけど、護衛騎士が公爵令嬢におかしなことは言えないよね。

さっき、ロゼッタを褒めたら驚いてたみたいだけど。

護衛騎士にも悪役令嬢扱いか。ふう。


✦ ✦ ✦


まずは、教室で授業ね。一日のスケジュールはゲームと同じ?

この円形の講義室、大学と同じだなあ。記憶が戻った今は、懐かしいな。


自由席ではあるけど、高位貴族ほど前のほうに座る習慣がある。

あたしと、レオニードとグラハムは最前列ね。

せっかくなら、ロゼッタやクラリッサの近くに座りたかったなー。


ジェイクは、教室の後ろに立っている。高位貴族には、護衛騎士の校内同伴が認められているから、ほかにも数人いる。

当然レオニードの護衛もいるけど、必要ないほど本人が強いのよね。


それを言ったら、聖女候補は神聖力で保護魔術や結界が張れるから、護衛騎士なんてあまりいらない気はするけどね。

公爵令嬢の身分上、一人にはできないんだろうな。


「では、授業を始めます。教科書を開いて――」


この髭を生やした中年の先生、名前のない背景みたいな扱いでいたなあ。

モブもある程度、ゲームと一緒、と。


教科書の字は読めるし、内容は……中学程度の数学か。これは楽勝だわ。

公式も、前世と変わらない。ゲームで独自設定してないからかも。

シルヴィアの記憶と前世の記憶で、勉強は問題なさそう。


先生が説明をする前にさらさらとノートに書いていると、隣のグラハムがちらっとこちらを窺ってきた。

ごめんなさいねえ、これも一種の転生チートよ。



古語の授業まで軽くこなして、昼休みは食堂で食事。ジェイクも同席した。

本来は相席できる身分じゃないけど、護衛だものね。


それにしても、ジェイクって所作が綺麗。食べ方が上品で……騎士爵って言っても、もと平民とは思えない。

もしかして、貴族の血を引いてたりするのかな。

ま、どうでもいいか。公爵家に雇われてるのは、低位貴族や伯爵家の次男以下で家を継げない人もいるし。

ジェイクも、そんなところなんでしょ。



午後は魔術の授業になった。うん、昼休み以外、ゲームと同じ。

このスケジュールが基本的に五日続いて、週末は休み。ロゼッタは寮住まいで、スタミナ回復のために実家に帰って過ごすこともしていた。

でも、メインは街に出て、攻略対象や、ステータスアップのイベントをこなす。


スタミナって……普通に食事して寝てれば、回復するよね。

なら、イベント発生場所を回っていくべきかな。


「アシュフォード嬢、先ほどの実践を」


「はい、先生」


魔法の先生は、眼鏡をかけた女性。これまた、背景になってたキャラだけど。


えーと、さっきの……


『大気に溶ける潤いよ、巡り集い――貫け!』


あたしの目の前に集まってきた水滴が水流となり、少し離れた的の真ん中に当たって突き抜けた。よし。


「見事ですね」


「恐れ入ります」


魔術行使って、古語の読解と数式の組み合わせなんだもの。

頭の中で暗算しながら、覚えた古文を言うだけ。

この世界の古語なんて、日本語の古文より簡単に読める。魔力が低くても、これなら魔術はしっかりできるわ。


……ちょっと、いちいちざわつかないでくれないかな。

あたしの実力よ、実力。

多少の転生チートはあるけどね!


✦ ✦ ✦


一日過ごして、スケジュールと現在のステータスがなんとなくわかった。


今は神聖力だと、ロゼッタ>クラリッサ>>>あたし。

魔力は、ロゼッタ=クラリッサ>>あたし。

学力が、あたし>>>クラリッサ>ロゼッタ。


あたしは差が極端だけど、トータルでほぼ同じみたい。

でも、二年生夏のイベントで神聖力が大事な場面があるから、そこでロゼッタがリードしそう。


いいんだけどね。

あたしは聖女になりたいわけじゃない。真面目にやるべきことをやってるだけで、ダメなら仕方ない。というか、普通に考えてロゼッタを邪魔しなければ、あたしが聖女になるわけがない。


悪役令嬢みたいなポジションでも、婚約者も断罪もゲームにはないんだから。

公爵令嬢なら、不自由なく暮らしていける……と、思う。


……ただ、政略結婚は嫌だけどなあ。

マルチエンディングだから、ロゼッタもクラリッサもどうなるかわからないし。

まして、いないキャラのシルヴィアなんてどんな結末になるやら……


あーもう、全員攻略して聖女になって王太子妃になったトゥルーエンドも見たのに、ゲームの知識がいまいち役に立たない!


ため息を堪えて校門へ歩いていくと――


あ。


あ、あ、あ。


オ、オーウェン!! 推しキターーー!


オーウェン・ランカスター侯爵令息! あたしの、前世の推し!!


「ランカスター……卿。ごきげんよう」


「おや、アシュフォード公爵令嬢。お帰りですか」


は、話しちゃったー!

声も同じー! 赤毛が夕陽で、燃えるように見える。アンバーの瞳も夕陽で照り返って、すっごく綺麗。


――オーウェンは騎士団長の息子で、軍系名門侯爵家の跡取り。

剣術は騎士団長に迫るほど、っていう立場で自分自身は家を継ぐのになんの障害もないのに、双子の父親が後継者争いをしていたせいで、トラウマ抱えてるの。母親も早くに病死してるし、優しいお姉さんも守ろうとしつつ、自由に憧れてる。


ちょっときつめの美形だけど、一見気さく。なのに、ちょいちょい皮肉言って孤立しがち。

でも、それも本人が「自分は結局定められた生き方しかできない」っていう諦観から来てるんだ。モテるし女性にも紳士的なようでいて、一線引いてる。


攻略途中で「聖女なんかやめて、一緒に逃げないか?」って冗談めかして言うんだけど、その時の表情がね!

あ、これ本音なんだ、ってわかるけど、「ははっ、冗談だって。お嬢さんはすぐ人を信じるんだな」って誤魔化すの。


切ないよね! よくない!?


……はっ、ついつい、オタクの早口推し語りを、脳内で展開してしまった。


「では、ごきげんよう」


ああっ、手を振って行っちゃったー!

もーあたしのバカ! もうちょっと、話せばよかったのにー!


……でも、過去一テンション上がった。推しがそのまま存在してるって、破壊力すごい。

はあああああ。幸せ……


あ。

ジェイクが、じーっとあたしを見てる。


「帰りましょう」


「はい」


澄まして言ってみたけど、脳内はさっきのオーウェンの顔でいっぱいだった。

ヤバい。今夜、眠れないかも……


あたしは内心ふらつきそうになりながらも、優雅に歩いて馬車へ向かった。


✦ ✦ ✦


帰宅したら、部屋に戻って、着替えて、食事。

そういえば、前世を思い出してから家族が揃ったの、今夜が初めて?

父親が仕事で、留守だったし。


うーん、今夜もこんな豪華な……

毎晩コース料理なんて食べてたら、太らない? と思うけど、魔術使うのにスタミナをかなり使うらしいんだよね。

ゲーム内でのスタミナの扱いは、こういう設定になってるわけか。

それなら、平民に魔力が高い人間が少ないのも、魔力が高ければ養子や特待生にして学園に通えるのも、筋は通る。


でもこの状況だと、貴族階級との格差がなかなか埋まらないよね。

こういうの、ゲームだとさらっと流しちゃうけど……ロゼッタが「聖女になれたら、家族が楽になる」って頑張るの、実感としてわかって辛い。やっぱり、ロゼッタが聖女になるべきだと思う。


前世のあたしはまあまあ恵まれてたけど、特別裕福じゃなくても大学まで行けてたわけだし。

この世界も、遠い未来には革命で変わっていったりするのかな。

魔法があるから、そう簡単にはいかないか……


「学力一位だったそうだな、シルヴィア」


突然、上座の父親に話しかけられた。


「はい、お父様」


金髪というより白髪頭で、短めのオールバック。口髭が今日学園で会った先生にちょっと似てるけど、ずっといかめしい。

イケメン……ではないな。太ってはいないし、立派な紳士には見えるけども。

よかった、シルヴィアが母親似で。


「Aクラスは当然だが、よくやった。聖女になるのは、お前であるべきだ」


おおう。公爵は、こういう父親なのね。高位貴族にありがち。

中央貴族議会の議会長も務めてる人だし、娘が聖女になったら権力集中しすぎたりしない?

今はグラハムのバークレイ公爵家と、バランス取れてるみたいだけど。


「あなた、またそんな……シルヴィアが幸せになるなら、なんでもいいでしょう」


母親が窘めてくれた。

シルヴィアと同じ金髪をアップにしてまとめてて、紫の瞳も一緒だ。顔つきは、シルヴィアよりは優しい感じ。


「う、うむ。シルヴィアの幸せが第一だが」


あら。奥さんには弱いんだ。

妻子に有無を言わせない、昭和的な「旦那様」タイプかと思ったら。



記憶がふっと浮かぶ。


お母様は、昔から優しかった。後継者のアルスラン……あたしの弟、ね。アルスランとあたしを、変わりなく大切にしてくれる。

お父様は……ん、嫌な人ではないな? 厳しいけど、聖女になるのが最高の名誉で、幸せだと思ってるわけだ。

二歳年下のアルスランは、シルヴィアが「次期公爵に相応しくありなさい」と厳しいので、ちょっと距離あり。

でも、小さいころは可愛がってたし、アルスランもシルヴィアが嫌いではないみたい。


ふーん。悪役令嬢っぽくても、甘やかされても虐げられてもいない。

テンプレの悪役とは違うんだ。


いい家族じゃない。使用人はちょっとシルヴィアにビビってるけど……あたしの記憶では、理不尽なことはしてないんだよな。

ただまあ、言動はきつい。そりゃあ、身分が身分だからそれらしくふるまえと教育された結果。

それって、あたしのせいじゃなくない?



そのあとは無難に話して、食事は終わった。


部屋の隅に、ジェイクが立ったまま。そういえば、食事中ずっといたわよね。

着替えの時、部屋の外で待ってたけど、いつ休む気?


「お前、食事に行かないの?」


「お嬢様が、お部屋に戻られましたら」


いつもそうだったっけ?

どうもシルヴィアが護衛騎士ってものを空気扱いしてて、ジェイクに関する記憶があまりないんだよねえ。


「家の中でまで、ずっとついてなくてもいいわよ。お前も部屋に戻って、休みなさい。

おやすみ」


そう言って、あたしは自室に向かう。

返事がなかったからちらっと見ると、ジェイクはポカーンとしていた。


あ、おやすみなんて言ったことなかったか。

それぐらい言ってもいい気がするけど。令嬢らしくない?

そんなことないでしょ、世話になってるんだから、挨拶やねぎらいはすべき。


うん、これはあたしの考えでやっていこう。


はー、今日はいろいろあって疲れたなあ。

でも、オーウェンに会えた。かっっっっっこよかったー!


明日も会えるかな。……ふふふ。

いい夢見られそー。

お読みくださり、ありがとうございます。

続きが気になったら、評価やブクマをしていただけると嬉しいです。

次回一行予告:ゲーム知識が通用しない!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ