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外伝1・最終話 レアアイテムともっと大切なもの

「ドラゴンの、水晶……ああっ、『ドラゴン水晶のかけら』!」


ジェイクから送られてきた手紙を読んで、わたくしは突然思い出した。


オル学に出てくる、魔力と神聖力を大幅に増幅させるチートアイテムだわ。

ドラゴンが死んだあとにその鱗が水晶化してできるもので、ゲーム内で数少ない戦闘が起こったときに極々稀に手に入るレアアイテム!


入手すると育成がかなり楽になるけれど、あまりにもドロップ率が低いものだから、情報が出回った当初はデマだと思われたのよね。なくても育成に慣れれば必要ないし、あくまでもコレクターズアイテムのようなもので、運営が遊び半分で入れたと言われていたわ。

わたくしも、手に入れるまで何周したかしら……


あれは、設定上サーヴェルト王国内でも相当な貴重品のはずだわ。領地で見つかった以上、領主であるジェイクの物だけれど――かけらだけでも希少なのに。ドラゴン一体分のドラゴン水晶だなんて、一体どれほどの価値になるのかしら。


王家と二大公爵家の全財産を合わせた数倍……もしかしたら、数十倍……?

……さすがのわたくしも、眩暈がしそうよ。


『 水晶の件が片づきますまで、戻れそうにありません。

  お待たせして申し訳ございませんが、ご了承ください。 』


それはそうよ。


「待っていてよ。

ただ、あなた、……どうするつもり?」


✦ ✦ ✦


「ドラゴン一体分のドラゴン水晶を……王家に、献上する……だと!?」


国王は玉座で、眼前に跪くジェイクの言葉に仰天した。

その傍らには、ジェイクから渡された盆に乗せられた水晶のかけらが、侍従の手によってうやうやしく掲げられていた。

ジェイクは静かに語る。


「わたくしの領地内にあったものとはいえど、たかが伯爵には手に余る代物にございます。

わたくしが扱うよりも国王陛下にお納めし、王国のために広くご利用いただくべきかと存じます。ドラゴン水晶がそれだけあれば、今後の王家にも王国にもあまねく渡る、富と栄えの礎となりましょう」


「なんと……」


国王はその欲のなさ、王家と王国民への献身に、深く感じ入った。



その後国王は、ジェイク・コルト伯爵に対し、侯爵への陞爵を決めた。

貴族会議でも満場一致で承認された。もとはバークロフト内領地にあったものだが、バークレイ宰相も満面の笑みで称えたという。


封印されていた洞窟からドラゴン水晶が秘密裏に運び出され、王宮へすべて納められた。

国王は侯爵位だけではなく、報奨金とダイヤモンド鉱山ひとつをジェイクに下賜し、領地の課税も向こう十年免除すると言い渡した。


ジェイクはまず、魔物の被害に遭った村に畑の修復と医療を充実させるための人員と補助金を手配し、領地内それぞれに過不足なく助成金を施してから、ようやくアシュフォード公爵邸に戻ってきた。


✦ ✦ ✦


ジェイクを迎えたシルヴィアーナは、挨拶もそこそこに自分の部屋まで彼を引っ張っていった。


「お、お嬢様、お部屋に二人では」


「いいから、入りなさい! 閉めるわよ!」


「いけません、扉は片方開けて……お嬢様!」


シルヴィアーナは、ジェイクに思いきり抱きついてきた。ジェイクは慌てたが、


「抵抗をやめなさい!」


そう言われて、大人しくなった。


「……泣いておいで、ですか?」


「当たり前でしょう! こんなに長い間……寂しかったのだから……」


涙声で言われ、ジェイクはそっとシルヴィアーナを抱きしめる。


「申し訳ありませんでした。大ごとになってしまい、途中で放り出すわけにも」


「わかっていてよ! 文句を言っているのではないの。寂しかっただけなのだから、ただこうしていて」


「――はい」


ジェイク自身、一刻も早くシルヴィアーナのところに戻りたかったのだ。

愛しい人が震えて泣いているのに、邪心が起こるわけもない。彼女が泣きやむまで、腕に抱いて待った。


「本当に……あなたって人は、欲がないのね」


涙が止まったらしいシルヴィアーナが呟いたが、ジェイクはそうは思わない。


……この人を手に入れるためならなんでもすると、そう決めてここまで来たのだ。

名ばかりの子爵家に生まれ、その爵位を売り払い、傭兵に身を落とし、公爵令嬢など雲の上のお方だったというのに。

その方を妻にしたいと願うなど、身の程知らずの強欲ものだ。


「そんなことはありませんが……シルヴィア様、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「なあに?」


「わたくしにくださった、ペンダントです。防御結界が騎士を全員、守ってくれました。

あれほどの結界を、どうなさったのですか?」


「ああ、あれはね……」


シルヴィアーナはジェイクに体を預けたまま、説明した。


神聖力そのものは低いシルヴィアーナだが、魔術行使には長けていた。長々と詠唱して威力を高める結界展開の呪文を編み出し、ペンダントに刻み込んだのだと。


「神聖力を使った魔道具が存在しないのは不思議にも思ったけれど、無理はないのかもしれないわ」


聖女が圧倒的に神聖力が高いだけで、ほとんどの人間の神聖力はないも同然だ。

もちろん、聖女なら作れるだろう。だが聖女は国を守る結界維持と神殿のシンボルとしての役割が大きく、神殿への来訪者に祝福を与えることぐらいしかしない。


「そのような貴重品を、わたくしに」


「当然でしょう? わたくしのいないところで、怪我なんてさせなくてよ。

……でもね」


魔道具で手軽に結界展開ができてしまえば、聖女の神秘性が揺らぐ恐れがある。

量産はできないが、作れるとわかったら聖女や聖女候補を利用するものが現れる懸念もある。


「だから、一緒にいた騎士以外には内緒よ」


そこまで言ってやっと、シルヴィアーナは笑顔を見せた。


「心得ました」


ジェイクも微笑み、シルヴィアーナを抱きしめた。


✦ ✦ ✦


わたくしとジェイクは、お父様のお部屋に呼ばれた。

お父様はいかめしい顔をしておいでだけど、わざとそんな表情を作ってらっしゃるのはわかっているわ。


「ジェイク・コルト。生涯、シルヴィアを守りたいと申したな。

……シルヴィア、お前はどうなのだ」


「わたくしは、ジェイクとともに生きていきたいと思っております。

聖女になどなれませんし、公爵位を継いだ上にジェイクとアルスランに支えてもらえれば、これ以上のことはありません」


わたくしは笑顔で言って、ジェイクに目を向ける。

ジェイクはわたくしからお父様に顔を向け、深く頭を下げた。


「何があろうと一生お守りし、お幸せに致します。

この誓いを(たが)えましたら、わたくしの首を公爵様に差し出しましょう」


まあ、怖いこと。

お父様が、苦虫を噛みつぶしたようなお顔になったわ。


「……ジェイクは侯爵にもなり、何よりも国王陛下の覚えがめでたい。認めざるをえまいな……」


「お父様!」


「公爵様……」


「ただし、シルヴィアーナが学園を卒業してからだ!

それまでは、護衛騎士として仕えるのみを許す!」


「……喜んで、お仕え致します」


お父様ったら。

ふふ、とわたくしは笑い声をこぼし、ジェイクも頬を緩ませていた。


✦ ✦ ✦


時は流れ、シルヴィアーナは王立オルディニア学園を卒業した。


聖女はロゼッタに決まった。

クラリッサは、グラハムと婚約する。


そして、シルヴィアーナとジェイクの結婚式の招待状が、王族・貴族のもとへと届いた。



オーウェンは招待状を見ながら、呟いた。


「ご結婚と同時に、女公爵になられる、か……あの方には相応しい」


隣に立つのに相応しいのも、あの男なのだろう、と思う。

見上げた空同様に、眩しい思い出が胸を駆け抜けていった。



結婚式の準備と同時に、侯爵になったジェイクと、公爵となるシルヴィアーナの先行きも話し合われた。

侯爵領は公爵領と合わせ、二人で領地と、学校経営をしていくことを目指す。

ドラゴン水晶の報奨金やダイヤモンド鉱山の収益も莫大なため、資金には困らない。


「お役に立てましたか」


「わたくしこそ、あなたの役に立てて?」


二人で、笑い合う。

ジェイクの少し伸びた髪が、笑うと揺れる。


「ねえ、ジェイク。あなた、髪を伸ばす気はなくて?」


「髪を、ですか?」


「このところ忙しくて、切る暇もなかったのでしょう。とても綺麗な黒髪なのだもの、そのまま伸ばして結んでも似合うと思うの」


結んだ長髪と言われるとバークレイ公爵令息が頭に浮かぶが、彼とシルヴィアーナはさして仲が良くはない。

単に、見てみたいだけなのだろう。


「シルヴィア様がお望みなら、そう致します」


昔は長かったことも、金を工面するために売ったことも言わなくていいことだ。

自分の過去を愛する人に話して、その顔を曇らせたくはない。


「伸びたら、わたくしがリボンを結んであげるわね」


嬉しそうなシルヴィアーナに、ジェイクは「お願い致します」と応じた。


✦ ✦ ✦


結界が助けとなり、ジェイクは無事に魔物を根絶できた。

そしてドラゴン水晶を手に入れた。


資金が豊富になった学校経営の計画は大幅に前倒し・拡大し、王都の学校は結婚式前に開校した。

平民の通い出す学校を、シルヴィアーナは遠くから眺めていた。




教師になりたいと思っていた、あれは……

この日のための、夢だったのかしら。


わたくしは、学園を卒業した。ロゼッタが聖女になり、ゲームのオル学はエンディングを迎える。


だからいつか、あの夢を忘れてしまうだろう。

オルディニア様に、言われたように。


けれど。


この世界でのわたくしの夢は、始まったばかりよ。




結婚式当日。


親族に貴族諸侯、貴賓席に王太子レオニードと聖女ロゼッタも列席した華やかな式は、王族も使う王都内で最も大きな会場で行われた。

レオニードとロゼッタも近く、婚約を発表する予定だ。

ひと足先に結婚していたグラハムとクラリッサ、そしてオーウェンが見守る中で、シルヴィアーナとジェイクは神官の前に立つ。


「聖女オルディニアの名において、ここにジェイク・コルト侯爵と、シルヴィアーナ・アシュフォード公爵の婚姻を宣言致します」


神官の言葉を受けて、二人は向かい合う。


真っ白なウエディングドレス姿にブロンドが輝くシルヴィアーナは、女神のごとく美しい。

白い高位貴族の礼装をしたジェイクも、細いリボンでまとめた黒髪が映え、似合っている。



「……愛していてよ、ジェイク」


「生涯、愛します。――シルヴィア」



そっと口づけ合った時、まるでゲームのスチルのようね……

シルヴィアーナは、そう思った。



◆ ◆ ◆



隠しスチル追加――「シルヴィアーナとジェイクの結婚式」。


※入手難易度高。


※条件

・ジェイクルートでクリアする(ルート分岐:結界修復時にジェイクとの同行を選択する)。

・ジェイクの好感度を最高にする(最高になれば誘拐イベント発生時にジェイクに救出される)。

・ジェイクに防御結界アイテムを作成して渡す(アイテム作成難易度高・学力ステータスを入学直後から作成時まで一位に保つこと)。

・アイテム作成後も卒業まで学力ステータス一位に保たなければ失敗。

・ジェイクとの会話イベントで「髪を伸ばす気はない?」を選択する。

・隠しステータスのロゼッタ・クラリッサとの友情度を「親友」まで上げる。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

評価やご感想などいただけると嬉しいです。


※今回で外伝1は完結・次の外伝は「オーウェン編」です。

※外伝2・第1話は明日18:50頃更新予定です!

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