13.この世界の真実
白い、霧の中。
……あっ、あの夢だ!
周りを見回すと――
いたーっ、オルディニア!
「オルディニア様! 今日こそは……」
『とうとう受け入れる気になったのね、シルヴィアーナ』
は?
何、笑ってるの?
『あなたは、この世界を受け入れる準備ができた。
だからやっと、私もあなたに話すことができる』
「な、なんだかわからないけど!
あたしがなんで、こんなキャラに……オル学にいない、悪役令嬢キャラになったのか、教えてくれるってことね!?」
『ふふ。少し、違うわね』
違うって……うわっ、いきなり霧が晴れた!
え、何これ?
宇宙みたいな星空に、白いドアがたくさん浮かんでる?
きゃーっ、足元なんにもない!
あたしも、浮かんでる!
『ここは、すべての世界の外側。あのドアの向こう側に、一つひとつ、別世界が広がっているの』
「いきなり、スケール大きすぎない!?」
『だって、あなたは実際に別世界に転生したでしょう?
世界があなたの前世と今の世界、二つだけだと思っていたの?』
そう言われると……
『世界は無数に存在していて、魂はいろんな世界を転生して回っている。
その中には、ある世界の中でフィクションとして作られた世界もあるわ。どこかで新しい世界が作られるたびに、実際の世界も増えていく』
「それって、ものすごく巨大なパラレルワールドが無限に続く、ってこと?」
『そんなところね』
へええええ。
つまり、転生系のストーリーも全部、その世界は実在してるってことか。
「で、オルディニア様は神様……なんですか?」
『そんな立派なものではないけれど、たまにあなたのように混乱して迷ってしまう魂があるのよ。
そういう魂を、私やほかの世界の重要な存在が導くようになっているわ』
オルディニア様、オル学世界の管理者なのね。
世界が無数にあるなら、それぞれの管理者がいる。世界全部を束ねてる神様がいるとしたら、その人が本物の神様かな。
まあ、そんなとんでもない存在はどうでもいい。
「あたしは、なんでオル学で、いないキャラになったのか知りたいの!」
『いないキャラ、などではないのよ。シルヴィアーナ・アシュフォード』
「いやいやいや、あたし、オル学はやり尽くしたんだからね!
シルヴィアーナ・アシュフォード公爵令嬢なんて、隠しキャラでもいなかった!」
『あなたにとっては、そうなのでしょうね』
何よ、それ。持って回った言い方するなあ……あ。
足の下に、ぼんやりと光る空間が見える。
その中にいるのは、――オル学の、開発チームだ!
『あなたの前世で、私が管理する世界が生まれた。
でも、その世界は一つだけではなかったの』
へっ? どういうこと?
『彼らの夢も、見たでしょう?』
オルディニア様が、開発チームを指差した。
「……ちょっとだけ。間に合わないって、頑張ってオル学を作ってた」
『そう、彼らはギリギリまで作ろうとしていたのよ。ロゼッタ、クラリッサ、シルヴィアーナが競い合う世界を』
「はっ!? 競い合うって、聖女候補三人で?」
『あなたの前世の世界で言うと、プレイヤーキャラクターは三人ね。
イージーモードがロゼッタ、ノーマルモードがクラリッサ、そしてハードモードがシルヴィアーナよ』
突然、メタ説明しだした!
「ハードモードって、どういうこと!?」
『あなた、苦労したでしょう? 神聖力はギリギリで、社交界の評判は悪くて好感度は低い。
マイナススタートを乗り越えてクリアする、それがシルヴィアーナをプレイヤーにしたハードモードだったの』
「はああああああ!? え、ノーマルモードってさっき言った……クラリッサも、プレイヤーキャラなの?」
『そう。でもスケジュールが苦しかったのね、結局没にされたのよ。
ロゼッタだけが、プレイヤーキャラになってしまったわ。クラリッサは、操作できないライバルキャラになって残ったけれど』
メタ説明どころじゃないな、オルディニア様。
ため息ついて、何その、リアルで嫌な話。
『企画者はどうしてもシルヴィアを入れたかったのに、間に合わなくて。
その執念のようなものが、没になったキャラクターがいる世界を生み出したの。
もちろん、あなたが知っている「シルヴィアのいない、ゲームとまったく同じ世界」も存在するわ。その世界ではラブルがいるけれど、ラブルは開発終盤に追加されたキャラクターだから、あなたの世界には存在しないの。
恋愛攻略の難易度が高かったから、お助けキャラのNPCを入れようという判断があったのね』
「何それーっ!?」
衝撃的すぎる。シルヴィアは、開発中に消えた没キャラで、しかもハードモードのプレイヤーキャラ。
ラブルは開発終盤に、ねじ込まれたNPC。
開発者の無念で、あたしが今いる世界ができたなんて。
でも、なんで。
「なんであたしが、そんな没世界に転生しちゃったの?」
『それは偶然。ほとんどは、知らない世界に転生するのよ。
あなたは前世で死ぬ間際までプレイしていたから、開発者の想いとリンクして、転生してしまったのかもしれないわね』
「かもしれないって……偶然かなんだか、わからないってこと?」
『言ったでしょう? ほとんどの魂は、知らない別世界に転生する。
普通は前世の記憶も、残らないものなのよ』
「あたし、覚えてたけど……
乙女ゲーに転生して前世を思い出すフィクションなんて、小説や漫画に山ほどあるし!」
『山ほどというのは、あなたの感覚。世界と魂の数に比べれば、ほんの一部でしかないわ』
上を見上げる。下を見下ろす。右、左、と見回してみる。
確かに、白いドアがずーっと見えなくなる遠くまで、数えきれないほど浮かんでる。
この一部に、異世界転生した人たちがいるわけか。
『前世を思い出す人は稀にいるけれど、あなたはそのせいで、少し混乱してしまったようね』
「混乱って?」
『ずっと、シルヴィアーナは誰だって考えていたでしょう。魂はどうしたのかって』
「そりゃあ、だって、異世界転生には元の魂が出てくるものも多いし」
オルディニア様は、ふっと笑った。
『それが、混乱なのよ。あなたは、誰かを乗っ取った存在じゃない。
生まれた時からシルヴィアーナ・アシュフォードで、本物なの。
あなたが、シルヴィアよ』
「えっ……!?」
『覚えているでしょう、シルヴィア。ずっと、育ってきた日々のこと』
頭の中に、ざーっとスチルのような思い出が浮かんでは消えていく。
赤ちゃんのアルシオンに、指先を握られたこと。
お父様に抱き上げられて、笑っていたこと。
お母様の膝の上で、絵本を読んでもらったこと。
使用人たち。家庭教師。
知り合った、貴族の人々。
デビュタント。
それから……初めて会った日の、ジェイク。
全部、覚えてる……
「あたしが……本物の、シルヴィア?」
『そうよ。わかったでしょ? シルヴィア』
オルディニア様が、優しく微笑む。
『あなたが生きている世界は、今のあなたの現実。
ゲームクリアも何もない、生まれてから死ぬまで生きる、あなたの世界よ』
――ゲームクリアも、何もない。
あたしの、世界。
『あなたが受け入れたのなら、前世の記憶は消えていって当然。
今は「王立オルディニア学園」の記憶に囚われているけれど、それもいずれ忘れていくでしょう』
「えっ、オル学のことも忘れちゃうの!?」
『あなたが学園を卒業して、あなたの道を歩き始めたらね』
そうか。
オル学は、卒業してエンディングを迎えて終わる。
あたしにとってはまだ、オル学の世界だけど……学園を卒業した「エンディング後」も、あたしの人生は続く。
そういうこと、なんだ。
『納得できたかしら?』
「……はい。オルディニア様?」
『なあに?』
「あたしの世界だから、あたしの思うように生きていいってことですよね?」
オルディニア様はちょっとだけ目を見開いて、おかしそうに笑った。
『それでこそあなたよ。シルヴィアーナ・アシュフォード』
ああ。
前世の家族の名前も、あたし自身の名前も、もう思い出せない。
思い出す必要もない。
あの世界で、あたしはせいいっぱい、生きた。
だから今度は、今の世界で。
『もう、ここに用はないでしょう。お行きなさい』
「はい! ありがとう、オルディニア様!」
あたしは振り向いて、目の前にあったドアを開けた。光があふれて、向こう側は見えない。
でも、わかる。
この先が、あたしの世界!
✦ ✦ ✦
ドアの中に飛び込んだ――と思ったら、はっと目が覚めた。
体を起こす。
公爵家の、シルヴィアの寝室。
……そう、ずっと住んでいた部屋だわ。
「この世界が、現実だっていうなら……」
遠慮なんか、いらない。
シルヴィアーナとして。
あたしの好きにやらせてもらう……いえ、わたくしの好きにさせていただくわ!
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次回一行予告:結界はメンテが必要です。
※第14話は明日18:50頃更新予定です。




