10.魔物退治イベント!?
……ん。霧の中。
あたし、なんでこんなところを歩いて……あっ!
オルディニア?
そっか、前にも夢で見た初代聖女!
するすると、滑るように歩いてる。
「待って、オルディニア! じゃない、オルディニア……様?」
こっち向いた!
目が、合った――
「オルディニア様、あたし、なんでいないはずの聖女候補になんてなってるの!?」
目を細めた。
『シルヴィアーナ。この世界は……』
あたしを、シルヴィアを知ってるのね!?
「この世界は、何?
シルヴィアーナって、誰なのよ! 彼女の魂って、どうなったの!?」
『シルヴィアはね……』
何か言ってるけど、聞こえないー!
「聞こえないってば! ねえ、教えてよー!」
◇ ◇ ◇
……目が覚めた。
あー、やっぱり、オルディニアがこの世界に関係あるんだ!
ってことは、きっとまた夢に見る。
よし、次に会った時こそ、話を聞こう!
ドアをノックする音。
ちょうど、起きる時間ね。
今日の予定は……
✦ ✦ ✦
「本日の課外授業は、AクラスとBクラス合同で、こちらで行います」
馬車で学園から連れてこられた、王都南の森の中。
「ここには、弱い魔物が住みついています。危険な魔物はいませんから、数名で組んで魔物退治を行ってください。
数ではなく、倒し方が効率よくできていたかの評価をします」
先生に説明されて、ちょっと不安になる。
この課外授業、ランダムでイベント発生するんだよね。
何もなければ普段より魔力が上がるおいしい授業なんだけど、ロゼッタのステータスが上がってると、強い魔物が現れて特殊な戦闘が発生することがある。
オル学は育成シミュレーションだし、戦闘シーンは操作しない。
ステータスと好感度によって、どれだけ早く倒せるかが変わるだけ。
ロゼッタのステータス、授業中に見たところでは、神聖力はぐんぐん伸びてる感じなんだよねー。でも、攻略対象のメインが誰なのかも、相手の好感度もわからない。
神聖力と魔力は高いけど、学力が苦戦中っぽいから、魔術行使もどの程度上手くいくだろう。誰かの好感度が上がってれば、大きな戦力になるんだけどな。
ロゼッタの評判はよくなりつつあるものの、貴族の中ではクラリッサが人気っぽいからなあ。あたしには、ロゼッタの街中や学校全体の人望がわからない。
ま、イベントが起こらなければいいの。
あっと、そうだ。
「ジェイク、実習なのでお前は見ているだけでよくてよ。
手は出さないで」
「承知致しました。お嬢様に危険が及ばぬ限りは、静観致します」
危険はない、はず。……だよね?
いやいや、そんなフラグ立てるようなこと考えてちゃいけない。
Bクラスも合同だから、オーウェンがいるけど……はあ、剣を持ってる姿もかっこいい。木剣とは全然雰囲気違うわあ。
じゃなくってね!
ロゼッタ、オーウェンと接点あったかな?
……わっ、こっち向いた!
慌てて、目を逸らした。
本当は凝視したいけど、オーウェンに冷たい目で見られるのは嫌!
って、逸らした先でレオニードと目が合った。
ぱっと、また横を向く。あーもう、どこ見たらいいの!
そ、そうだ。
「ロゼッタさん、一緒に行きませんこと?」
「えっ、わ、私とシルヴィアーナ様が、ですか!?」
「ええ。ご迷惑でなければ、だけれど」
「そんな、迷惑だなんて! あの、お願いします!」
思いっきりお辞儀された。ロゼッタの仕草って、ゲームじゃこんなに動かなくてわからなかったけど、めちゃくちゃ可愛い。
……ロゼッタ、あたしを嫌ってはいない、よね?
はたと、クラリッサとも目が合った。
よし。
「クラリッサ様も、ご一緒しましょう?」
「――シルヴィアーナ様が、ご希望でしたら」
聖女候補三人で、仲良く行動しよう。このメンバーなら、下手に絡まれることもないでしょ。
「女性だけで先行するのは、危ないな。僕も一緒に行こう」
げっ、レオニード!?
「そうですね、私も行きましょう」
グラハム、レオニードへの対抗心なの、それ!?
「……私も行きます」
えっ……
オーウェンまで、ついてきてくれた。
な、なんなの、この状態。
はっ。
ロゼッタ、この三人と好感度上がってるの?
✦ ✦ ✦
『貫け!』
『爆ぜろ!』
「……はっ!」
レオニードとグラハムが魔術で、オーウェンが剣でどんどん魔物を倒していっちゃうな。女子生徒は喜んでるけど、こっちの出る幕がちょっとない。
「シルバーウルフばかり出るね」
レオニード、余裕ねえ。
「毛皮が美しいと言う者もいますが、魔物の体で着飾るなど、悪趣味なことです」
グラハム、珍しくも同意するわ。
「ま、授業で狩った魔物は、学園で売りさばいて経営資金の一部になるそうですから。それもいいかと」
オーウェンったら、またそんな皮肉っぽいこと言って。
倒した魔物は、魔道具で先生のもとへ送る。先生はこちらを水晶玉で観察して、魔物の状態と合わせて点数をつける、と。
でもこのままだと、こっちのステータスを上げられないな。少しは倒させてもらわないと。
……ん?
シルバーウルフ?
まさか――これ。
「おや、倒す前に逃げ出すようになってしまった」
「これでは、授業になりませんね」
ま、待った待った。シルバーウルフは、ゲーム内の課外授業ではそんなにたくさん出てこなかったはず。
出てくるのは……
――まずい!
『結界展開!』
あたしは前方に向かって、両手を挙げてみんなの前にシールドを作った。
黒い霧が、辺りを包み始める。
ひーっ、やっぱり! ランダムイベント発生の合図だ!
「お嬢様? 何を……」
ジェイクに説明するより先に、霧の中から毛を逆立てた巨大なシルバーウルフが……
違う、マッドウルフと化した成体がゆらりと現れた。
『グオオオオオオ!』
ほらーっ! シルバーウルフが多いってことは繁殖したあとってことで、母体が子供を攻撃されると狂暴なマッドウルフに変化しちゃうんだよー!
それが、このランダムイベント!
ピシッ、と結界が音を立てた。ダメだ、あたしの神聖力じゃ持たない。
「ロゼッタさん、クラリッサ様!
防御結界を、早く!」
「えっ!? はっ、はい!」
「マッドウルフですわね、展開しますわ!」
二人が結界を合わせてくれて、近づいていたマッドウルフが動きを止める。って、わらわら出てきたー!
一匹じゃないじゃん!?
「マッドウルフ……! 皆、下がれ!」
「本気で行くしかありませんね」
魔術を詠唱し始めたレオニードとグラハムを追い越して、人影が飛び出した……あっ!
「ジェイク!」
「緊急事態と判断致します!」
マッドウルフに真っ向から斬りかかって――わっ、前足簡単に斬り落とした!
「授業で済んでないな!」
オーウェン! キャーッ、こっちもすごい!
次々に、四人がマッドウルフを倒して……討ち漏らしたり、まだ動く個体をほかの生徒で後始末してる。
こっちは、戦う人たちを守らなきゃ!
――あっ、レオニード危ない!
「駄目ですっ!」
ロゼッタの手から、大きな光が広がる。
……バフ効果!
すごい、あたしやクラリッサの結界まで強まって、レオニードだけじゃなく、戦う人の体を守ってる。
ロゼッタの神聖力、二年生時のものじゃないよこれ。
「バークレイ様!」
クラリッサの力が、グラハムを守ってる?
ロゼッタはレオニードを中心に……
えっと、あたしは……
えーいもう、なんでもいいから、みんなを守れーっ!!
✦ ✦ ✦
課外授業は、マッドウルフを全部討伐して終わった。
……ゲームはイベント発生したら、キャラの配置だけすれば、自動的に戦闘になって見るだけだったけどさあ。
リアルで戦うと、こんな……こ、怖かった……
腰が抜けそうになったあたしを、ジェイクの腕が支えた。
「お嬢様、お怪我はございませんか」
「え、ええ、大丈夫」
怖かったけど、死ぬはずないって思ってたから。
――ん、なんか、周囲から見られてるような。
「ご自分も聖女候補なのに、ロゼッタさんとクラリッサ様に……」
「ええ、結界を張らせて……」
あー……最初にあたしが結界張ったの、みんなはわかってないんだ。
うっすい結界だったもんなあ。実際、ロゼッタとクラリッサの力がなかったら、マッドウルフを防げるようなものじゃなかったし。
ロゼッタのバフ効果が広がったあとは、それなりに効果があったはずだけど。
また、評判落ちるのかー。あたしなりに、頑張ったのに。
とほほだよ。
「お嬢様のおかげです」
ジェイク。……ああ、ジェイクは気づいてくれたのね。
「わたくしの力では、止められなかったけれど」
「……助かりました、アシュフォード嬢」
オーウェン?
「結界を張られたのが見えましたので、いち早くマッドウルフに気づきました。
感謝致します」
――オーウェンに、感謝、された……
「……お嬢様? お嬢様!」
ごめん、戦闘とオーウェンの笑顔でちょっと……
キャパオーバー……
✦ ✦ ✦
気を失ったシルヴィアーナを、ジェイクは無言で抱き上げた。
「アシュフォード嬢!」
「気絶されただけのようです」
ジェイクがオーウェンに淡々と答え、オーウェンは安堵してシルヴィアーナを見つめる。
神聖力がほかの聖女候補に及ばないのは、本人が痛感していただろう。
なのに、まっさきに結界を張った。その上で、二人に協力を呼びかけていた。
……公爵令嬢のプライドなど、見せもせずに。皆を守ろうと。
オーウェンは、唇を噛みしめた。
公爵令嬢という身分とそのふるまいで、この高貴な女性の本質を見誤っていた自分が、情けなかった。
「ランカスター卿、失礼致します」
ジェイクはシルヴィアーナを抱いたまま頭を下げ、背を向けた。
オーウェンは去っていく背中を見ながら、ジェイクが誰より早くマッドウルフに斬りかかったのを思い出していた。
彼女が結界を張ったことを、あの護衛騎士も理解していたのだ。
✦ ✦ ✦
ジェイクは教師に許可を得て、公爵家の馬車でひと足先に帰宅することにした。
公爵家には学園から連絡を入れてもらったから、公爵夫人が心配して待っていることだろう。
馬車の中でもシルヴィアーナを抱きかかえ、その顔を見つめる。
目を閉じている時は、冷たさも厳しさも感じられない。
十六歳の、ただ美しい少女に見える。
――助けを、呼ばれればよいものを。
まず、ご自分で結界を張られるとは。
あの弱い結界展開に気づいたのは、ランカスター卿だけだ。ほかの者は、別の聖女候補に命じたのみと誤解しているだろう。
不器用な方だ。
人に頼ることも、泣き言を言うこともしない。
孤児に渡された花冠を、枯れないよう魔道具の箱に入れて、自室の机に置いていた。
そんな、心優しい方なのだ。
「何があっても、わたくしがお守り致します」
ジェイクは我知らず、シルヴィアーナを抱く手に力を込めた。
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次回一行予告:推しとの会話、だけど。
※第11話は明日18:50頃更新予定です。




