第34話 頭が痒い時はどうするのか
毎日21:10より投稿します。
もし読んで頂き、少しでも面白いと思って頂けたなら評価やブックマークして貰えると嬉しいです。
よろしくお願いします。
目の前には真っ黒なドラゴンが降り立ち、こちらを見ている。
ドラゴンは西洋に出てくる様な姿形で、気になるのはその色だった。
真っ黒と表現したが、その色は見れば見るほど吸い込まれてしまいそうな、深淵深い暗黒の色だった。
はっきり言ってこれはピンチだ。
目の前に立って居るドラゴンを見ているが、存在の格が違い過ぎる。
この場から直ぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるが、逃げ出せる自信が無い。
それ程の存在を目にして、私は呆然と立ち尽くすしか無かった。
「お前がさっき音出してたやつなんだな?僕はその音を聞きつけて来たんだな。」
見た目がすごい怖そうだったので、ドラゴンが喋った事よりも、喋り方がお坊ちゃんぽくて、そのせいで一気に緊張の糸が途切れてしまった。
これが油断させる為だったなら、私はここで生が終わるだろう。
「えぇ確かに私が先程まで笛で音楽を奏でていました。どこか気に触るような事があったのでしょうか?」
私は相手の気を伺いながら、下手に出て話しかけた。
言葉を喋れるならまだ、交渉次第では生きて帰れるかもしれない。
「ん?全然気にしなくても大丈夫なんだな、居心地の良い音だったから、ついつい音の元に来てしまったんだな。」
「そうでしたか、それならもう目的も終わったのでは無いでしょうか?この場所にまだ何か用がありますか?」
「うーん、そこの木に吊るされてる肉が美味しそうなんだな、僕はそれを食べたいんだな。」
「はい、どうぞ、食べやすい様に皮も剥ぎましょう、お口に合うか分かりませんがお食べ下さい。」
「おぉ、至れり尽くせりなんだな、それならお前がさっき奏でていた様な音も、僕は聞きたいんだな。」
「はい、分かりました。直ぐに演奏させていただきます。」
私が下手に出ていたら、どんどん要求がエスカレートしてしまった。
だが今は言う事を聞くしか無い、せっかく手に入れた肉だったが、それも台無しにされてしまった。
あれ?顔に怒りマークが出来てしまったが、気のせいだろう。
「お前の演奏気に入ったんだな、中々見どころがあるし、僕の側仕えにしても良いんだな。」
要求に答えて逃げ出すチャンスを伺って居たのだが、まさかの側仕えを要求されて来た。
私は回避する為にも、言葉で逃げ出すチャンスを作ろうとする。
「すいません、私にも家族が居ます。今日はその家族の為にお肉を持ち帰ろうと思って居たので…。」
「ん?家族?そんなもんより僕に仕えた方が良いんだな、さぁ早く次の肉を寄越すんだな。」
同情を買おうとしたが無駄だった。
それよりもこのままだと今日手に入れた肉が全て、こいつに食べれれてしまいそうな勢いだ。
この巨体だ、あそこに置いてある肉ぐらい簡単に平らげてしまうだろう。
「ん?その剣はなんだな?」
「この剣ですか?」
「違うんだな、そっちの皮を剥いでる剣の事なんだな。」
ドラゴンの大きさなら、私からしたらナイフもブロードソードも同じ様な大きさに感じてしまうのかもしれない。
「こちらは解体用で使っている、ミスリルのナイフです。」
「僕はそれが気に入ったんだな、僕がそのナイフを貰うんだな、僕は武器を集めるのが趣味なんだな、それで丁度千本目になるんだな。」
私はそれを聞いて、あまりにも傍若無人の態度にいい加減怒りを覚え始めた。
「いえ、こちらは私が苦労をして手に入れた物なので、お譲りするつもりはありません。」
「そんな事関係ないんだな、僕が欲しいって言ったら貰うんだな。」
そう言い放つとドラゴンはこちらを睨み、殺意を向けてくる。
だが、このまま良いなりになって、どんどんエスカレートする要求にも我慢の限界だった。
それに、いい加減ドラゴンにも慣れて来た。
最初は格の違いを感じたが、この喋り方で恐れも減っていき、この態度で完全に怒りが上回ってしまった。
殺意を向けられようとも、怒りの方がその殺意を抑えつけ、私はそれ以上の殺意をドラゴンに向かって放った。
この世界に来て初めての、本気の殺意である。
演技により上乗せされたその殺意は、ドラゴンも無視する事が出来なかった様だ。
「ん?なんだな?こんな事は初めてなんだな、手が震え出したんだな。」
ドラゴンは今まで恐怖など感じた事など無かったのだろう。
自分に何が起きたか分かっていない様だった。
そして、ドラゴンにも私の演技は通用する、それなら私にもやりようがある。
「あなたが、これ以上私の物を奪おうと言うなら、私ももう容赦はしません、今あなたが感じている恐怖が嘘ではない事を味わせましょう。」
「恐怖?ドラゴンである僕が、お前みたいな人間如きに恐怖なんて感じるわけ無いんだな!訂正させてやるんだな!」
「自分の身体の反応には正直になるべきですよ!」
「五月蝿いんだな!」
さぁバトルの開幕だ、ドラゴンはいきなり、私に向かってブレスを吹き放った。
吹き放ったブレスは、目の前の森を一直線に突き進んで行き、その方向にある物全てを破壊尽くした。
「ハハハハハ!偉そうな事言って簡単に死んだんだな!人間なんてやっぱ弱っちい存在なんだな!」
私諸共ブレスにより跡形も無くなった目の前の光景に、ドラゴンは声高に笑っていた。
だが、私はもうとっくの昔に喋っていた私とは、違う場所に居たので、ドラゴンのブレスを特等席で観戦していた。
「何とも理不尽な攻撃ですね、あんなもの喰らって生きていられる存在は居るのでしょうか?」
「なっ!?いつの間にそんな所に居るんだな!僕の頭から降りるんだな!!」
「あら?ようやく気付いたのですか?さて、あなたは頭の上の私を攻撃出来るのでしょうか?」
ドラゴンの身体構造上、頭の上の私を攻撃するのは難しいと思った。
手の短いドラゴンでは頭の上に届かないし、足も頭の上に届くほどの長さは無い、うーん頭痒くなったらどうするのだろうか?
「五月蝿いんだな!許さないんだな!」
そう言うとドラゴンは、尻尾を振りかぶって自分の頭目掛けて思いっきり叩きかける。
ドラゴンの尻尾は、私を透過して頭を思いっきり叩きつけた。
「痛いっ!?痛いっ!?なんでなんだな!?なんで当たらないんだな?」
いくらドラゴンが尻尾で私を攻撃しようとも、私の身体にドラゴンの尻尾は当たらずに、何度も挑戦しては自分の頭に尻尾を叩きつけている。
それでも諦めずに毎回、透過してしまう私を叩きつけようとしている。
「いつまで遊んでいるんですか?頭を打ち過ぎてバカになってしまいましたかね?」
「なっなっ僕はバカじゃ無いんだな!ん?痒い!頭が痒い痒い!何だなこれは!?何したんだなぁー!」
私は先ほどの答えを確認しようと、ドラゴンの触覚に幻術魔法を掛ける。
ドラゴンは尻尾で頭を掻こうとしているが、尻尾では満足がいくように掻けない。
その内にドラゴンはあまりの痒さに、我慢が出来ずに気が狂った様に、その辺りにある木に岩に頭を打ち付けている。
「はぁはぁ、もう嫌なんだな、頭が痒くて気が狂いそうなんだな…お前何したんだな?でもいくら嫌がらせしようとも、僕を傷つける事は出来ないんだな、僕の皮膚は傷付いたりしないんだな。」
「そうですか、それならあなたがどこまで耐えられるかの勝負になりそうですね!化現しなさいワルキューレ!」
私の周りにはフルアーマー姿の乙女が8人現れる。
私を含めて9人だ、私もみんなに合わせる為に、フルアーマー姿にしている。
ただ、フルアーマーと言ったが、見た目重視の私は、頭の防具だけは無くして、顔だけは見える様にしている。
顔まで覆い隠してしまったら、見た目が誰だか分からないので、それだと単なる分身になってしまうからだ。
「なんなんだな!突然人が増えたんだな?それが召喚魔法って奴なんだな??でも僕は知ってるんだな、召喚魔法は魔力を多く消費するから、お前の魔力はもう底をついてるだな!そいつら倒したら僕の勝ちなんだなー!!」
召喚魔法では無いが、まぁそう見えても仕方ないだろう。
ドラゴンは私が化現させたワルキューレに向かって攻撃を仕掛けるのだった。
この物語は異世界の話しでありパラレルワールドの話しです。
名称などの実在の地名、企業名、人名、商品名、団体名などとは関係ありません。




