第21話 老人と私
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よく、異世界転生やら異世界転移やらの話しで、最初のモンスターと戦う時に現代日本が平和だった為に、殺すと言った行為に嫌悪感を抱いたり、剥ぎ取りと言った行為で、吐き気を催したりと言う描写は多い。
だけど私にはそう言った感情は皆無で、当たり前のようにこの世界の常識に慣れてしまっている。
そもそも、私は、前の世界で大量の人を殺している大量殺人犯である。
そしてそれに罪悪感があるのかどうかと言えば、殺した人や家族には申し訳ないが全く無い。
演技の為ならそれは仕方の無い肥やしである。
だからと言って道徳は分かっている。
と言うか人の気持ちが分からないのに、人を演じる事になんて出来ないのだから当然だろう。
だが私は、道徳を兼ね備えた人殺しであった。
自分の中にある、正義や道理が通るのなら人を殺すのは仕方ない、むしろ人を殺さない事によって自分の目的が達成出来ないのなら、それはもう自分を殺す事になる。
人を殺す事を正義として全く疑わない、と言うよりもあまり疑問にも思わない。
まぁ英雄と呼ばれて来た歴史上の人物も、人を殺して築き上げたのだから大差ないと思っている。
むしろ私は、人を殺せない人達の気持ちも汲み取れるし、感情も寄り添える、何人にもなれると思えるのは、演技をし過ぎてきた反動なのかもしれない。
これは、誰にも共感出来ない気持ちだろうと言うのも理解出来るし、共感を求めている訳でも無い、自分自身はみんなの事を知って共感出来るのに自分の事は知られないのを、少し寂しい気持ちになるだけだ。
まぁそんな考えの私が今さらゴブリンを殺す事に戸惑いも無ければ、耳を剥ぎ取る事で吐き気を感じる事も無いのだ。
それになんにでもなれる私はベテラン冒険者を演じれば、そのような気の持ちようにもなれる。
なので、初めての戦闘も特にドラマは無いのだ。
ただ、やはり剣の扱い方はもう少し練習が必要だ。
刀を扱う役なら何度も演じて来たので、問題無かったのだがブロードソードはやはり勝手が違う。
刀も最初から上手く扱えたわけではない。いや人よりも器用だし、運動神経も高かったので、それなりには扱えたのだが、私はそんな中途半端な演技をするつもりは無かった。
その為に、刀を一流に扱える様になる為に、山に籠って修行した事もある。
その際に、山奥だと言うのに何故か剣の達人だと名乗っていたおじいちゃんに教えて貰ったのは、懐かしい思い出だ。
おじいちゃんに初めて会った時はビックリした。
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「うーんなんか違うんだよなぁ…こう振った方が良いのかなぁ?うーんやっぱちょっと違う。」
「ほーこんな所で、剣の修行でもしてるのか?」
「え!?誰ですか??」
私の前に気配も無く突然現れた老人にビックリする。
いつからそこに立って居たのか全く分からなかった。
「まぁわしは色々あって俗世から離れたくてな、剣だけは捨てれなかったから、こんな山奥で未だに剣を極めようとしてるもんじゃな。まぁだが、剣の腕は確かじゃぞ?なんてったってわし達人じゃから。」
「達人?それが本当なら私と勝負してくれませんか?」
もしこの人が本当に達人なら、その剣を間近で見て学びたいと思った。
言葉遣いは胡散臭いとは思ったが、目の前に居ても消えうるような気配や、佇まいを見たら只者ではない事は確かだと思ったからだ。
「ほう、嬢ちゃんわしと勝負したいと申すか、しかもわしのことを只者では無いと感じ取ったか。よかろう、勝負をしてやろう。じゃがわしが使うのは木の枝じゃ。」
そう言って老人は木の枝を持ち、実に自然体で構えた。
特に殺気みたいなものが出て来るわけでも無く、ただただ、自然と一体化したような雰囲気で、というよりも完全に自然と同化している。
目の前に居ても油断したら見失ってしまいそうになる。
私は、持っていた剣を正面に構えてどんな攻撃にも対応しやすい様にした。
「そうか、わしの事を認識出来るってことは、まだまだ修行が足りんかも知れんな。そして嬢ちゃんわしが木の枝で戦うと言ったのに、憤りも油断もしないのじゃな?」
「えぇそれ程の技量の差があるのでしょう、いえ、それ以上ですか?そんな方からの剣を見る機会を頂けるのですから感謝してます。」
「そうか、ならわしの動きをしっかりと見ておるのじゃぞ?」
「望むところです。」
老人の動きを見失わないように、老人の動き出しの兆候を探る。
視線や肩や腰の動き、足や手などの動きの予兆を読む、どこにサインが現れるか分からない、そしてフェイントにも気をつけなければいけない、静と動、虚か実か読み切ったら、カウンターを素早く行えば勝利の可能性もあるはずだ。
観察眼には自信がある、私なら読み切れるはずだ。
「あれこれ考え過ぎじゃな。」
「痛っ!?」
目を離したつもりは無い、身体のどこかが動けば必ず判断出来たはずだった。
だが老人は気付いたら私の目の前に立ち、私の手を木の枝で打ち払った。
油断していたわけではない、完全に集中していたはずだったが老人は事もなげに、私の手から剣を落とさせたのだった。
何をしたのかは見えなかった、だが何をしたのかは分かる。
恐らくだが、自然に近付いてただ木の枝で私の手に当てただけ、だがその動きがあまりにも洗練された動きで、武道特有の摺り足で近付いて、挙動を感じさせる事も無く木の枝で手に当てただけ、その完成された動きに不自然な物が入り込む余地は無く、達人と自賛した事も納得だった。
武道を習う人に最初に教える様な、単純な技だろうと言う動きを極限にまで精錬されると、それはもう奥義と呼ぶまでに昇華された技になる。
途方も無く、ただひたすらにそれだけを鍛錬し続けて来たのが今の攻撃だけでわかる。
それも、やらされただけの人には決して到達出来ない、全てを高い集中力で毎日にやり続けて来た人だと言うのがわかる。
ただこの老人の一番凄いのは、その呼吸を感じさせない事、良く呼吸を読むと言う表現があるが、呼吸を読む事は出来なかった。
格闘技などだと、必ず拍子があり、みんなが自分のリズムを持って相手を惑わせたり、攻撃したりする。
リズムを敢えてずらしたりしてフェイントに使ったりと普通は拍子を利用するもんだ。
だがこの老人は拍子を利用するのでは無く、拍子を無くした。
無拍子と言う言葉が合うだろう。
「どうじゃ?わし凄いじゃろ?わしも、もう歳じゃからな、嬢ちゃんには光る物を感じる。わしも今までに弟子を取った事もあるが、その誰もがワシについて来れそうな人間は居なかったが、嬢ちゃんはわしが何をやったか分かったんじゃないか?その素晴らしい眼ならわしの全てを教えてやらんでもないぞ?」
「あっ、大丈夫です。必要無いです。」
「ん?今なんと言った?わしも耄碌したかのう、耳が遠くなってもうたかのう?もう一度言うぞ?わしの弟子にならんか?」
「間に合ってます。」
「何故じゃ!達人から教えて貰えるんじゃぞ?こんな機会今後ないぞ!?嬢ちゃんなら世界最強の剣士になれるぞ?」
「いや私剣士じゃないので。」
「剣士じゃない?でも剣の修行でこんな山奥まで来たんじゃろ?」
「演技で必要だったんですよねー、剣の扱い方がしっくり来なくて環境を変えてちょっと練習しようと思って。」
「演技?そんな物の為に?…!?違う!悪かった!そんなつもりで言ったわけじゃないんじゃ!馬鹿にしているわけじゃない!」
演技を馬鹿にされたと感じた私は、老人に向かって殺気を放ってしまった。
「いえ、おじいちゃんが剣に本気で生きているように、私は演技に命を賭けてやっているので次からは気をつけて下さい。」
私の本気の殺気に焦ったのか、老人はうんうんと頷くのだった。
この物語は異世界の話しでありパラレルワールドの話しです。
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