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ハワイ・ナウ Hawaii Now

「ここオアフ島の海軍病院前には、報道陣が詰めかけています。奇跡の生還を果たした海軍パイロット、宮崎明大尉を海岸で発見したのは、モデルの桐嶋ナラニさんでした。宮崎大尉の体調は良好で、短時間の面会なら差し支えないとの病院側の判断で、桐嶋さんがお見舞い訪れるとあって、二人の母国である日本からも、マスコミが取材に駆けつけました」


 ハワイのローカル局が伝えた正午の日本語ニュースも、受信モニターに標準装備された自動翻訳機能のおかげで、世界中どこでも母国語で視聴できる。

 早くも数分後には、CIA本部からの電話を秘書がダレスに取り次いだ。東部時間午後五時を回っていたが、偵察機爆発事件を受け、ペンタゴンの統合参謀本部のスタッフは連日残業を続けている。

 電話の主はもちろんフーバーだ。


「軍事機密を知る士官を民間人に引き合わせる気か!?だいたい、メディア対策はどうなっているんだッ!海軍はマスコミをシャットアウトしたんじゃないのか?」

 メディア対策すらまともにできないのか!

 フーバーはホログラム越しに怒気を籠めてダレスをなじった。

 軍事演習中の事故をシティ公営放送にすっぱ抜かれ、大統領に大目玉を食らったのは何も国防総省だけではない。海外メディアに統合演習の情報が漏れた咎で、CIAも槍玉に上げられたのである。

 それに加えて、ダレスのやり口に嫌悪感さえ覚えていた。

 今回の事故を受けて召集された緊急会議では、ダレスがプライムが事故に関与したとありもしない疑惑をでっち上げた。シティ公営放送のリークも、同じくプライムの仕業と匂わせている。

 巧妙に断言は避けたが、結果的に大統領以下政府高官に向かって平然と大嘘をつくとは!・・・

 ダレスの言動には官僚としての倫理観も、人としての良心も感じられなかったのである。


 我が身を振り返れば、フーバー自身、前々回の会議で大統領を前にプライムの人工兵士育成計画を捏造したが、決してダレスのように平然とやってのけた訳ではない。官僚機構の規律を守りトップに上り詰めただけに、虚偽報告の反動は予想以上に激しい。自責の念を持て余してイラついていたのである。むろん、共謀が露呈しはしないかと不安にも駆られる。

 そこへ、当のパイロットと著名モデルの劇的な出会いが、こともあろうに芸能ニュースネタで流れたのである。鬱積した感情が爆発するのも無理からぬことだった。


「あのモデルは、政財界の有力者にコネがあるのだ。東洋の神秘とやらに魅せられた政府や軍の高官が数十人もいては、二人の面会までは止めようがない。電磁パルス爆弾の実験を知らされていない連中ばかりだ。人気者に頼みこまれて断り切れなかったと言うより、進んで引き受けている始末だ。トップガンの奇跡の生還にトップモデルが一役買ったとなれば、軍にとって格好の宣伝材料になる。飛びつくのは無理もないだろう?」

 ダレスは冷静な口ぶりとは裏腹に、あからさまに不快な表情を見せた。

 ナラニ・キリシマのマスコミ登場は、ダレスにとっても寝耳に水の極めて苛立だしい出来事だったのである。


「エドワード、君は事故のリーク報道を逆手にとって、緊急会議でプライムを悪玉に仕立て上げたな。だが、有名モデルがしゃしゃり出て、世間の注目を惹くのは拙いぞッ!ミヤザキはスワンの恋人だったが、仮にノヴァと繋がっているとしても、今後、迂闊に手出しは出来なくなる」

 怒りは収まり切れないものの、ダレスに当たり散らすのは見当違いだ。フーバーは目的本位に動くべきだと己に言い聞かせた。


「キリシマが表に出て来たのは想定外だが、エージェントをすでにハワイに送りこんだ。ノヴァや関係者がミヤザキに接触すれば、その正体を探る。可能なら身柄も拘束する。ノヴァの正体を突きとめる絶好の機会になるはずだ。今回の演習にミヤザキを起用したのも、スワンが生きていると踏んだからだ。恋人の危機となれば、姿を現わしても不思議はない」

 策略家の常として転んでもただでは起きない。想定外の事態に備えて、ダレスは前もって手を打っていた。


「すると、ミヤザキを含めノヴァまたは関係者と思われる者は、これでつごう五人か?」

 今回の計画には、ヘプトニウム利権への執着を利用して大統領を追いこむ他に、ミヤザキを使って、ノヴァをおびき寄せる狙いもあったのか?

 ダレスが駆使する謀略には、感心するべきか警戒するべきかフーバーは戸惑った。

 底知れない闇を覗き込んでいるような気分になる・・・


「いや、八人だ。メトカーフとオータキ、それに、国務長官の首席補佐官も怪しい」

 この言葉にフーバーが噛みついた。

 政権ナンバースリーである国務長官の側近が、プライムやノヴァと関わっていると言うのか?とんでもない話だ!

「何だと、ダグラスもか!?政府要人だぞ!なぜ黙っていた?何を根拠に彼女を疑う?」

「前々回の会議だ。プロファイリングデバイスに反応があった。黙っていたのは、前回の会議では怪しい反応がなく、確証が得られなかったからだ」

 ダレスは不機嫌に顔をしかめてぶっきらぼうに答えた。


「何だとッ!プロファイリングデバイスを、ホワイトハウスに持ちこんだのか?大統領に知れたら懲戒免職ものだぞ!どうやって持ちこんだんだッ?」

 フーバーが声を荒げると、ダレスは右手指でVサインを作り、両目に向けて見せた。

 コンタクトレンズか?してみると今も使っているのだ!

 自分の表情まで密かに分析されていたと気づいて、ついにフーバーの堪忍袋の緒がプッツリ切れた。

 今回の偽旗作戦もダレスが秘密裏に推し進め、詳細を知る間もなく情報が漏洩した。虚偽報告の後だけに、大統領に睨まれたフーバーは心底肝を冷やしたのである。


「エドワード、はっきり言うぞッ!手を組むなら、それなりの敬意を払えッ!デバイスで心を読むのは断じて許さんからなッ!それから、独断専行は今後きっぱり止めるんだッ!蚊帳の外に置かれては、こちらの首が先に飛んでしまう。そうなったら君が困るんだぞ!まず、偵察機の事故をどうやって仕組んだかきっちり説明してもらうからな!」


 ダレスは眉も動かさなかった。

 フーバーは頭も切れる上に、肝も据わっている。使い捨ての道具にするのは惜しい・・・

 冷ややかに考えを巡らせるや、おもむろに口を開いた。

「アレン、このデバイスで君の表情を読むのは無理だ。モニター映像では精度が大幅に落ちるのだ。それはともかく、君の言い分は理解できる・・・いいだろう。緊急対応を除くという条件で、CIAを巻きこむ可能性がある場合は、事前に計画を知らせると約束しよう。それでいいか?」


 渋い表情のフーバーが首を縦に振って承諾すると、ダレスは言った。

「手始めに今回の計画を説明しよう・・・シティ攻撃を覚えているか?あの時は、共振装置で潜水艦の乗組員を失神させた。正式名称は高エネルギー低周波発生装置だ。証拠を隠滅するため、装置は爆弾に取り付けさせたが、SSRX2の炎上とは無関係だ。墜落は耐熱パネルの欠陥が原因だろう。今回は同じ装置を利用したのだ」

「電磁パルス爆弾の格納容器スタビライザーに取り付けたのか?」

 過去数か月、何度も角を突き合わせたフーバーは、ダレスの策略を見通す眼力を見せ始めている。

 ダレスは微かに称賛の混じった笑みを浮かべて言った。


「そうだ。偵察機が加速した時点で共振装置が作動するよう、速度感知トリガーを使った。振動で電磁パルス爆弾が電磁臨界を起こし、異常を感知したAIが偵察機を自動回避モードに移行させる。そこで、AIにあらかじめ細工して最高速垂直離脱に設定した。加えて、手動操縦回路を遮断して、ステルス機能もオンに入るよう、プログラムを変更した」

「それで、投下前に急上昇してレーダーから消えたのか・・・高度25キロ付近で爆発したのは、機体とスタビライザーの振動が続き、爆弾が電磁臨界の連鎖反応を起こしたんだな?」

「データは回収されていないが、専門家によれば十中八九その通りだ。パイロットの離脱は計算済みだったが、与圧ピットの半壊は想定外だった。幸い、パイロットは奇跡的に助かった。ミヤザキが戻らなければ、ノヴァを誘い出すのは難しくなる。我われにとっても幸運だったが、どうにも辻褄が合わないのだ・・・」

 ダレスは一旦言葉を切り、ひと息入れた。


「パラシュートを開いた衝撃で与圧ピットが裂け、ミヤザキは操縦席ごと空中に放り出された。均衡速度の秒速約70mで海面に落下したと見られている。時速にして250kmでは、海面は舗装道路も同然だ。75mの高さから落水した場合、時速130kmだが生存率はわずか2%しかない。(*) だが、操縦席底部から海面に突入したため、落下の衝撃が大幅に和らいだらしい。操縦席のスタビライザーとショックアブソーバーのおかげと専門家は見ている・・・」



* 米サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジ中央部の高さ。世界一飛び降り自殺の多い建造物として知られる。


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