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第三世代のメンター Their Mentor Says

 昼過ぎまで働いていたアロンダは、ピザ配達員の制服を着たまま、険しい表情で落ち着きなく部屋の中を歩き回っていた。ソファに腰掛けたキャットは、そんなアロンダの様子も目に入らず、難しい顔で柄にもなく何やら考えこんでいる。

 アキラが消息を絶ったと一報が入って五時間が過ぎたが、ホログラスでネット上の情報を探っても一向に安否はわからず、二人の我慢は限界に達していた。軍事演習中の事故だけに、ネットにも一切情報は出てこない。受け身のままひたすら時が経つのを待つのは、活動的な第三世代には耐えがたい。内側でくすぶるエネルギーは高まる一方で、今にも爆発して噴き出しそうになる。


 伽耶だけは常と変わらぬ穏やかな表情で、アナログなダイヤル式電話の受話器を耳に当てて話に聞き入っていたが、しばらくすると受話器を置き、二人へ向き直った。

「テレビをつけるわね」

「えッ、ここにテレビなんかあったの!?」

 シーダハウスには、デジタル機器はひとつも置いていないと思ってた!

 アロンダとキャットが驚くのを尻目に、伽耶はニコっとして机の下に手をやった。ソファーの正面にある木製の壁がスルスル左右に開き、大型モニターが姿を見せた。同時に卓上に浮かび上がったホログラムパネルに伽耶が触れると、モニターにシティ公営放送の国際ニュースチャンネルが映し出された。

「信じられない、あのパネル、最新式ね!テレビも次世代型じゃないの?」

「ママ上、よく知ってるっちゃね~。うち、この時代のテクノロジーはまだよくわからないっちゃ。携帯用のデジタルと武器だけは慣れたけどね」

 今さらながら伽耶にはいつも驚かされる。

 この新人類の影のメンターとは、過去生で何度か巡り会ったけれど、いつだってアナログ主義者だった。それが、今や最先端のハイテクを駆使する企業のCEOなんだから・・・

 二人は顔を見合わせた。

「始まるわ」

 気が紛れていくらか緊張がほぐれた二人を伽耶が促した。


「・・・臨時ニュースです。パイロットのミヤザキアキラ米海軍大尉が搭乗した偵察機が、太平洋沖で消息を絶ったとの情報が入りました。ミヤザキ大尉が緊急脱出したか今のところ不明で、現場海域では米軍と北米連邦軍による捜索が続いているもようです。軍事訓練中の出来事のため、事故に関する情報は、今後も公表されないとの見方も広がっています。ミヤザキ大尉は、日本人初のトップガンパイロットで、北米連邦軍に派遣されていましたが、今月、米太平洋軍に転属したばかりです。続報が入り次第、追ってお伝えします・・・次のニュースです」


「あなたがリークしたのね!なぜ、そんなことを?」

 動揺していたアロンダは、頭から伽耶と決めつけてイラついて食ってかかった。が、伽耶は冷静そのものだ。

「私じゃないわ。こうなると予想していただけ。アロンダ、カミとタクを連れて、サンクチュアリ跳んで頂戴。カミは記憶喪失の診断で保養休暇を取っている。タクも期末試験前で授業がないからちょうどいいわ」

「予想してたって、それ、どう言う意味・・・」

と、キャットが尋ねかけたところへ、感情が昂りに昂っているアロンダが、大声で割って入り伽耶に食ってかかった。


「なぜ、今サンクチュアリに?アキラが行方不明だっていうのに、放って行けって言うのッ!?」

「頭を冷やして、アロンダ。最近起こった事件はすべて繋がっている。あなたもそう感じているでしょう?」

 一向に動じた様子のない伽耶に、アロンダはむきになって言い返そうとしたが、ふと気づいた。

「だから何だって言うの!・・・じゃあ、アキラの転属も今回の失踪も、最近の事件と関係があるって言うの?」

 伽耶は落ち着き払っている。理路整然とアロンダを諭した。

「電磁パルス爆弾はシティを狙っていた。標的はプライムよ。アメリカで確認したの。ところが、プライムの破壊に失敗したから、敵はシティを監視しにかかるわ。米軍でのあなたとアキラの関係も知っている。今回の事故は、あなたをおびき出す罠かも知れないの。アキラは転属前の休暇を利用して、シティと西の都にも来たわ。軍人用のIDは細工が難しいけれど、アキラの父親は天才エンジニアでしょう。あの時は、アキラのGPSにシティ旅行は反映されないよう細工してもらったの。でも、あなたがシティに居ると感づかれないよう、念のため、しばらくここを離れて頂戴」

 メトカーフ大佐を介して、国務省のダグラス補佐官から政府中枢の情報をいくつか掴んでいた。わざわざアメリカへテレポートしたのも、それが目的だったのである。お膳立てに時間がかかったものの、メトカーフ大佐はじめ人類の動きならば、先を見通すのはさほど難しいことではない。


「・・・わかったわ。タクの訓練でまたサンクチュアリに行くつもりだったし、カミもあそこを訪ねたがっているから。アキラの消息がわかったらすぐ知らせて!」

 アロンダはようやく納得してうなずいた。貴美はかつての自分、つまりオパル時代のニムエ以来の後天的な第二世代で、これまでサンクチュアリに行く機会がなかったのだ。皆に紹介する良い頃合いだと思った。

 すると、キャットが尋ねた。

「ねえ、さっきのニュースを予想していたって、どういう意味だっちゃ?」

 伽耶が言った。

「あなたやタクには何度も逃げられたから、相手が揺さぶりをかけてくるのは予想がつくでしょう?今度はアキラが巻きこまれた。敵はアロンダ、つまりスワン中尉が生きていると感づいたと、これではっきりしたわ」

 

「じゃあ、リークしたのはあの国防総省高官だっちゃね!」

「それは・・・まだ分からない。軍事演習中の事故までリークするとは思えない・・・リークしなくても私たちが気づくと、ダレスなら見抜けるはずよ」

 伽耶にしては珍しく歯切れが悪いわね。

 アロンダは気になって尋ねた。

「わたしをおびき寄せる計画なのね?でも、カミはどうなの?あの機動歩兵を倒したんだから、新人類だってバレたはずよ。カミも狙われるわ!それにダレスがリークしたのでなければ、いったい誰がやったの?」

「そうね、貴美がマークされているのは間違いないわ。ただ、リークしたのは、おそらく別の存在・・・貴美とあの機動歩兵とアキラには謎が多過ぎるから、今は何とも言えない・・・」

 とつおいつ言葉を紡いだ伽耶に、別の存在って、誰なの?と、アロンダとキャットは顔を見合わせた。

 いつだって先を見通してきた伽耶が、こんなに優柔不断な態度を見せるなんて・・・


 でも、こうなったらあれこれ考えたってわかりっこない。伽耶にもわからないのだから。だったら、できる事ををやるまでよ!

 似た者同士の母娘は、阿吽の呼吸で同時に心を決めた。

「いいわ。今は考えたって仕方がないわ。これ以上じっとしていると、気が変になりそうよ!わたしはカミとタクを探して、サンクチュアリに行く。キャットは先に跳んで!」

「了解だっちゃ!」

 ホント、じっとしているのはもうウンザリだっちゃ!

 キャットは素早くソファから立ち上がった。アロンダはキャットスーツ姿のキャットを抱きしめて、プラチナブロンドの髪を撫でながら言った。

「アキラは大丈夫。必ず無事に戻って来るから!」

 同時に自分にも言い聞かせていた。


 すると伽耶が歩み寄って、二人に両手を回した。アロンダより頭ひとつ、キャットよりも頭半分は背が低いため、肩ではなくウエストに手を回した。

(あたたたちはもう第二世代ではないから、つい忘れてしまうのね。思い出して!時間を味方につけると言うでしょう?たとえば、多くの人が祈りや瞑想を行えば、人々の行動や自然現象にまで影響を及ぼすわ。祈りも瞑想も思考もイメージもすべてはエネルギーなの。科学では未だに観測できないけれど、量子場に繋がれば物質にも未来にも影響を与えることができる。私たち新人類は、その能力を授かっている。アキラが無事に戻って来る様子をイメージできるでしょう?)


 メンターはこうでなくっちゃ!

 きっとうまくいくわ!

 伽耶の接触型テレパシーに、キャットもアロンダも力強くうなずいた。心に直接語りかけるため、言葉より遥かに説得力があるのだ。


 俄然張り切った二人がテレポートして部屋から消えると、伽耶はもの思わし気に目じりの上がった二重瞼の目を細めた。

 ・・・そう、私にも分からない。サウロン、貴美、アキラの動きは読めない。ところが、どうやらプライムには予測できるらしい。


 アキラの失踪をリークしたと考えて、まず間違いないわ・・・


「私はプライムの動きから、先を読むしかない・・・」

と、胸でつぶやき、何事か思い定めたように目を閉じた。


 白い光が全身を包み、伽耶の姿は瞬時にかき消えた。



* 「青い月の王宮」第13話 「第二世代」


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