表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/118

急転直下 Flip Of Fate

 アロンダはシーダハウスに住んでいるし、キャットはサンクチュアリに身を潜めているが、テレポーテーションで自在に行き来できる。

 伽耶がアメリカから戻り、三人は互いに情報を交換して対応を相談していた。先週末には、アロンダが貴美と匠をサンクチュアリに連れて行き、貴美を第二世代たちに引き合わせたばかりだ。


「伽耶、カミに聞かれたっちゃ。三日月刀の在りかを誰かに教えたかって!マヤの記憶も戻ってるのに、どうして伽耶の正体を隠すっちゃ?」

 キャットが尋ねると、伽耶のキリっと目じりが上がった黒い瞳に、珍しく憂いの色が浮かんだ。

「三日月刀をラボで再分析したくて、勝手に持ち出したの。ごめんなさい。でも、まだ貴美には会えないの・・・」

 三か月前、伽耶は貴美と匠を覚醒させるためテレポートした(*)。二人の家の間取りもスタッシュの場所も知り尽くしている。むろん手回し良く貴美の指紋も採取しておいたし、最先端のパスワード解析器も用意していた。

「・・・わかった。伽耶がそう言うならうちは構わない。カミには隠し事をしたくないけど、仕方ないっちゃ」


 ただでさえ秘密主義の伽耶が、輪をかけて頑なに説明を拒む以上、よほど深い事情があるに違いない、とアロンダもキャットも以前から感じていた。

 尋ねるだけ無駄と割り切ったアロンダが話題を変えた。

「それで、分析結果はどうだったの?」

「最初の分析では、判別できるDNAが十数人分残っていたけれど、どれも大滝のDNAとは一致しなかった」


 西の都でキャットが大滝から現金を掠め取ったのは、シンに謝礼として渡すためと言うより、髪の毛の採取が目的と大滝に悟られないためだったのである。(**)


「サウロンの生まれ変わりだとしても、今生では別人だもの。遺伝子は違って当然ね」

 アロンダは不機嫌な口振りだった。

 三日月刀を入手するまでの手のこんだ策略と言い、伽耶の大滝への執着ぶりは尋常ではない。あの男こそ、現世に蘇ったサウロンに違いないわ!

 とっくに大滝の正体に気づいていたが、アロンダを動かすニムエの意識は、心の闇を抱えた兄に対して、愛しさの反面、激しい憤りを抱いていた。それは自分もまた同じ闇を抱えているのではないか、という恐怖の裏返しでもあった。

 汚染地帯で倒れた大滝を発見した時も、助けようと思わなかったほど、相反する感情を持て余してどうにもやりきれない。

 

 第三世代に変異してからというもの、アロンダは千年前の人格に支配されがちだわ。それはキャットも同じ・・・第二世代を凌ぐ異能力には、トレードオフがつきまとう。感情的で好戦的になるのね。

 伽耶はアロンダの様子を、それとなく観察しながら口を開いた。

「でも、髪の毛から採取した遺伝子のエピジェネティック分析で、面白い発見があったわ。虹彩の色が変化するらしいの。アフリカとアジアのハイブリッドで黒い瞳なのに、なぜか青い瞳の遺伝子もあった。しかも、スイッチがオンになった痕跡があったわ」

「それじゃ、瞳の色が変化するわけ?それって、貴美と同じ現象なの?」

 アロンダが驚いて尋ねた。

「特定の要因が引き金になって変わる可能性はあるわ。でも、貴美の青い瞳は不可逆変化だから・・・」

 伽耶は何やら思い悩んだ様子で言葉を切った。


「ふ~ん、面白いちゃね!でも、西の都であいつの身体を探った時は、目の色は黒かったっちゃよ。暗かったけど、わたし、夜目が効くもん。機動スーツを着ていた時は、目の色まで見えなかったけど・・・」


 キャットがそう言った後、アロンダが意外なことを口にした。

「気になることがあるの。カミは汚染地帯で、機動歩兵に折り重なるように倒れていた。その時、カミのオーブを見たわ。マヤと同じ虹色よ!大滝にコンタクトしたんじゃないかしら?だったら、あの男、過去生を思い出したかも知れない」

 伽耶の表情が見る見るうちに曇った。弓なりの眉をひそめて尋ねた。

「それは本当なの?・・・貴美が大滝を刺したから、二回目の分析では血液を採取できた。ひどい状態だったわ。赤血球も白血球も血小板もDNAも、まるで急性放射線被爆のように破壊されていたの。ここまでとは思わなかった・・・」

「えッ!?それじゃ、あいつは死んでいたの!?」

 アロンダは幾分青ざめた顔で尋ね返した。

 サウロンの生まれ変わりが死んだと思うと、さすがに平静ではいられない。

 機動歩兵の弱点をキャットとわたしに教えたのは他ならぬ伽耶だ。その伽耶でさえあの短刀の威力を予想できなかったんだわ・・・


「いいえ、機動歩兵を乗せた軍用カーゴが、翌日、イワクニ基地に帰還している。基地内で大滝の姿を確認した協力者が教えてくれた。生きているわ」

「それじゃ、カミはコンタクトしたのね!あいつにいったい何をしたの!?」


「きっと、マヤと同じだっちゃ・・・ダニエルを生き返らせたもん」

 キャットが思いついたようにポツンとつぶやいた言葉に、今度はアロンダが度肝を抜かれて叫んだ。

「マヤが、ダニエルを生き返らせたのッ?オパルで!?」

 そんな、馬鹿な!いくら新人類でも、死人を生き返らせるなんて、聞いたことがない!

「うん、今、思い出したっちゃ・・・マヤを助けようとして、ランポに蹴られたんだって。すっかり忘れてた」

 少しばかり決まり悪そうにキャットが打ち明けた。

 千年前、ニムエは養女マヤと距離を置いていたため、子供心にその空気を察した当時のキャットことアルビオラは、マヤから聞いた話を自分の胸にしまっていたのだった。


「そうだったの・・・」

 伽耶が沈んだ声を出した。

 私はオパル王宮から離れて暮らしていたから、マヤのヒーリング力までは知らなかった。第三世代の力は私にも把握できない。とりわけマヤは・・・

「二人とも仮死状態だったのかも知れないわね・・・第三世代については、私にもまだよくわからないの。あなたたち二人もそうだけれど、カミは特殊だから・・・」

 

 アロンダがちらっと伽耶に訝し気な視線を向けた。

 伽耶にしては考えられないほど歯切れが悪いのだ。キャットがアロンダの顔をチラッと見た。この子も同じことを感じてるんだわ、とアロンダは気づいた。

 大滝と貴美の話になると、伽耶は口数が少なくなる。思った以上に深刻な秘密を抱えているに違いなかった。

 アロンダは単刀直入に言った。

「今の貴美は独断で行動しているし、マヤの戦闘力まで蘇った。汚染地帯から戻って、いくらか落ち着いて話しやすくなったけれど、だからって、このまま放置しておいていいの?」


「そうね・・・あなたたちはどう思う?」

 アロンダとキャットは不意を突かれて一瞬顔を見合わせた。伽耶が二人に意見を求めることは滅多にない。が、アロンダは元米軍士官らしく、素早くきっぱりと口火を切った。

「CIAはしばらくカミを泳がせて、様子を見るつもりよ。その間に、カミの訓練を進めるわ。テレポーテーションも教える。でも、ミレニアム計画の全貌を知っているのは、あなたよ!方向性が見えないと、カミをチームに加えていいか分からないわ」

 キャットも気後れせずに続いた。

「わたしとカミは、昔のようにうまく行ってるっちゃ。でも、三日月刀が消えて、伽耶の存在をわたしが知ってるって感づかれた。それに、伽耶に聞いた機動歩兵の倒し方も教えたから、大滝の正体も知っているってもうバレてるはず・・・伽耶のことを隠したまま、カミがわたしたちと一緒に戦うのは難しいと思う」


 伽耶はソファーに背筋を伸ばして座り、二人の話に何度かうなずいて耳を傾けていた。おもむろに口を開いたが、それはひどく謎めいた言い方だった。

「貴美、と言うよりマヤの存在が必要になるわ・・・たぶんね。ただ、何度も言うようだけど、私はまだ彼女に会う訳にはいかない。未知の要因が働いているから、危険は冒せない。それだけは分かってほしいの」

 伽耶の口調がますます深刻になっている・・・

 アロンダもキャットも、今は言い分を通すのは諦めるしかなさそうだと腑に落ちた。

「わかった・・・それで、カミをどうするっちゃ?」

 キャットが尋ねた。

「貴美を通して、大滝を味方につけたいの」

「えッ!あいつを、味方にするの?・・・」

 キャットは素っ頓狂な声を上げた。

 あの機動歩兵はなぜかうちを助けたけど、サウロンは心の闇を抱えていたんじゃないの?

 よしんば味方にできても、信用できるのだろうかと危ぶんでいた。アロンダも驚きにポカンとして、咄嗟に言葉が出ない。

 どうやって、大滝を味方につけるの?伽耶は貴美をどうするつもりなの?


 伽耶はいつもの落ち着いた口調に戻った。およそ動揺した姿は見せた試しがない。動揺を隠して虚勢を張るということもない。全体像を把握して五歩先を読む異能に、アロンダとキャットはいつも驚かされるのだった。

「いい知らせもあるわ。メトカーフ大佐にメッセージを届けたの。心強い味方が増えたわ。彼のおかげで政権中枢に新しい情報提供者も・・・」


 と、その時、固定電話が軽やかに鳴り出した。伽耶は席を立って、古めかしい受話器を取り上げた。

「あの電話機、使えるっちゃ?アンティークの装飾品じゃないの?」

 びっくりしたキャットが小声でアロンダに尋ねた。

「カヤコープの直通電話よ・・・でも何だか深刻そうね、どうしたのかしら?」

 様子を窺がいながらアロンダが答えた。

 短いやりとりの後、戻って来た伽耶は表情を曇らせて二人に告げた。

「アキラが行方不明と伝えてきたの!太平洋で行われた合同軍事訓練で、偵察機が消息不明になったらしいわ」

「えッ、アキラがッ!?」

「アキラさんがッ!そんなッ、まさか!!」

 アロンダとキャットは叫び声と共にソファから飛び上がった。


 その昔、アキラはオパル公国の重鎮、プロスペロ宰相の息子ダニエルだった。トップガンのミッションを通じて、ビアンカ・スワンことアロンダは、オパル時代のアキラの正体を知った(***)。

 新人類でこそないが、伽耶でさえもその存在の謎を解き明かせない人物である。


 そのアキラが?

 三人は期せずして同じ疑惑を抱いた。

 これは事故じゃない。黒幕が動いたに違いない!



* 「青い月の王宮」 第33話「謎の訪問者」

**「青い月の王宮」 第8話「機動歩兵の憂鬱」

***「ブラック・スワン~黒鳥の要塞~」第1話「ある夜のできごと」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ