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衝撃と畏怖 Shock And Awe

「国務長官、虎部隊がアジトから撤収したのは、我が軍特殊部隊による作戦の成果です。CIAと協力した極秘作戦でした。しかしながら、在日スパイの掃討作戦ですから、中国側から抗議は一切ありません。その後のロケット砲事件も、地元組織の抗争で無関係です」

 ライデッカーはすらすらと答えた。大統領よりよほど弁が立つのである。

「偵察衛星爆破では、北米連邦の攻撃衛星がハッキングを受けた痕跡が見つかりました。今回の潜水艦へのテロ攻撃でも、潜水艦のAIに内通者がバックドアを仕掛けた可能性があります。いずれの事件も、テロリストの正体と動機を調査中ですが、異常事態であるのはご指摘の通りで・・・」


 その時、またもローズ大統領が声を張り上げ一同は凍りついた。イライラした時の癖で、右脚でトントンと貧乏揺すりを繰り返している。

「その電磁パルス爆弾だが、実験成功と情報が流れたと言うが本当か!?」

「はい、仕手筋に何者かが情報を流したようです。しかし、CIAの報告書通り、無人攻撃機が投下した爆弾は残念ながら失敗に終わっています」

「何が起きたのだッ!?惑星開発公社の株価が乱高下して、株式市場は騒然となっているが?」


 またか!

 呆れたと言う表情が、居並ぶ高官たちの顔に浮かんだ。

 惑星開発公社は表向き政府の管轄だが、内実は大統領一族が所有する同族会社と、この場の誰もが承知している。むろん、メディアや国民には知らされていない事実である。

 電磁パルス爆弾は、国家安全保障を左右しかねない重大懸案である。利権は二の次に開発を成功させなければならない。

 ところが、大統領ときたら一族の利権確保にしか関心がないと見える・・・


「大統領、偵察衛星と潜水艦のハッキングについて国防長官に質問が・・・」

 ついに我慢できなくなったフォックスが口を挟んだが、ライデッカーは片手ですげなく制して、大統領に向かって言った。

「大統領のご質問については、フーバー長官に説明を求めたいのですが」

 大統領がうなずくとフーバーが立ち上がった。フォックスの屈託した表情に気がねして軽く会釈したが、発言を無視されたフォックスは、憤懣やるかたないと唇を噛みしめていた。

 国防長官は事あるごとに男性優位主義を表に出すわ。いけすかない!超保守派の大統領とちっとも変わりりゃしない!


 傍らに座るダグラス補佐官は、しかし、別の事に気を取られていた。

 昔ながらのビジネススーツ着用はホワイトハウスの伝統だが、れっきとした保安上の理由がある。

 デバイス内蔵のハイテクスーツは禁止され、ホログラスさえ持ちこめない。微表情や身振りから心の動きを探る装置を使われた日には、互いに疑心暗鬼が募り、まとまる議論もまとまらなくなるからだ。

 メリンダは、国防長官がダレスにちらりと視線を投げるのを見逃さなかった。ダレスが正面に座るフーバーにかすかにうなずくのも目にした。

 心理学博士号を持つメリンダは、周囲に警戒されないよう隠しているが、実はプロファイリング技術も徹底して習得していた。

 なんてこと!ダレスとフーバーだけじゃない、国防長官もグルだわ!まず、間違いない・・・

 ダグラスは慄然としたが、その驚きも直後に飛び出したフーバーの爆弾発言の前に霞んで、隣席のフォックスの頭からも、男女差別への怒りは消し飛んだ。


「大統領。仕手筋に流れた偽情報には、日本の人工知能プライムが関わった可能性があります。一連の事件の発端はシティにおけるハイテク兵器開発計画にあり、計画を警戒した中国が、日本の首都近郊に虎部隊の前哨基地を築いたのが引き金となったと見られます」

 衝撃の発言を受けて、会議室は一瞬し~んと静まり返ったが、続いて驚きの声がざわめきのように広がった。


 世界最高峰のAIが!まさか!?


「プライムだとッ!同盟国の人工知能が、偽情報を流したと言うのか?」

 大統領の太いだみ声が周囲を圧して響き渡り、会議室は再び静寂に返ったが、室内には手で触れられそうなほど緊迫した空気が張りつめる。


 大国中国と世界最高の人工知能が対立した日には、事は異常事態を超えて非常事態になりかねない!


 フーバーは周囲の動揺も素知らぬ顔で、淀みなく報告を続けた。不自然なほど無表情だった。

「今のところ、中国とプライムの確執については臆測の域を出ません。なお、国務長官お尋ねの件ですが、CIAと特殊部隊が一部の事件に介入したのは事実です。もちろん、大統領の事前承認の元にです」

 フーバーは男女差別主義者ではなく、フォックスにも気を使ってそれとなく付け加えた。同時に、人任せにしておきながら、いざ事が起きると怒り狂う大統領に、やんわり釘を刺すのを忘れなかった。諜報機関と連携した小規模作戦は、米軍最高司令官の大統領ではなく現場に一任されているのだが、手続き上は事前承認と見なされるのだ。


「では、情報を流したのがプライムかどうか、まだわからんと言うのだなッ!?」

 大統領は釘を刺されたとも気づかず、顔を真っ赤にしてフーバーに迫った。山師の成金一家の跡継ぎだ。頭の中は惑星公社の株価一色に染まっている。しかし、大統領とは対照的に、フォックスはじめとする政府高官は、事の重大さを認識して激しい衝撃を受けた。

 合衆国と北米連邦の二大特殊部隊、中国のミュータント部隊、攻撃衛星や最新ハイテク兵器を巡る一連の事件に、世界最高性能の人工知能が関与していたとなれば、最悪の場合、極東の要衝である日本を巡って、米中が武力衝突する事態に発展する恐れがある!

 誰もが、心の底から畏怖を感じていた。


「長官、惑星開発公社の株価急上昇に、プライムが関わったと疑う根拠を示してもらえまいか?」

 激高した大統領を落ち着かせようと、ブレジンスキーがおもむろに口を開いた。


「CIAは軍参謀と協力して、過去数か月、プライムの新兵器開発疑惑を調査してきました。その結果、プライムはシティの科学技術を駆使して、精巧な改造人間、いわゆるサイボーグを開発した疑惑が浮上しました。先日の潜水艦乗っ取り事件については、サイボーグ開発計画を阻止する目的で、中国が攻撃機をハッキングしてシティを狙ったものの、プライムに返り討ちにされた可能性が高いと考えます」

 フーバーの言葉に、ようやく事の重大さに気づいた大統領は、押し黙ってグリグリ(まなこ)をひん剥いて宙を睨んだ。虎部隊というミュータント工作員が実在するからには、サイボーグ兵士の開発もあり得る、と思い当たったのである。

 世界最先端の科学技術都市だけに、サイボーグと聞いても一笑に付すことはできない!

 それはこの場の高官たちが抱いた共通認識だった。


「それらしい映像も入手しました。シティ北西部の汚染地帯での作戦行動では、素手の民間人の一撃で、ネイビーシールズの隊員二名が昏倒させられ、しかも、犯人は拘束された後、幽霊のように消えています」

 ネイビーシールズと聞いて、再び会議室がざわついた。一介の民間人が渡り合える相手ではなく、まして素手で倒すなど到底考えられない。

 神出鬼没の超人兵士の姿を、閣僚たちはありありと頭の中で思い浮かべていた。


「また、国防長官のお話の通り、CIA極東支部は電磁パルス爆弾が汚染地帯で爆発したと確認しました。ハッカーがシティを狙ったものの、攻撃機が炎上したため操作不全に陥り、爆弾投下が遅れた可能性があります。しかし、放射された電磁パルスは微弱で、一帯の電子監視網に損傷は認められませんでした。結果、株価が急反落したわけです」

 フーバーを観察していたダグラス補佐官は目を見張った。

 CIA長官は嘘をつく時、軽く下唇を噛む癖がある。今の言葉はウソだわ!

 衝撃的な報告に慄然とする面々をさり気なく見渡して、不審な微表情や仕草を目ざとく観察した。

 やっぱり・・・ライデッカーとダレスの表情は皆と違う。わずかにほくそ笑んで余裕がある。それに、副大統領も動揺した様子がまったくないわ・・・


「実験成功の偽情報は、市場を混乱させ再実験を妨害するプライムの仕業とも考えられます。ご存じの通り、日本政府とシティ自治政府は隕石の落下と公表しました。攻撃機のハッキングを隠蔽したい我が国と、虎部隊アジトの一件を隠蔽したい日本政府の利害が一致したわけです。ただし、プライムが攻撃機の制御AIをオーバーライドして、中国側の攻撃を阻止したのであれば、今後の交渉では日本側に有利な材料となるでしょう・・・」

 一息入れたフーバーは、憂慮の念を言葉に滲ませて話を締めくくった。

「・・・CIAとしましては、最大かつ緊急の懸念は、プライムが秘密裏に強化兵士を開発した点にあると考えます。なぜ、同盟国であるわが国と開発計画を共有しなかったのか?・・・以上です」


 フーバーが着席すると、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。


 ライデッカーは、株価暴落に怒り心頭の大統領を冷ややかに見つめていた。惑星公社株の空売りで莫大な利益を手にしたブレジンスキーは、何食わぬ顔でローズ・ジュニアにささやきかけた。

「大統領、次の実験に成功しさえすれば、株価はストップ高で公社は安泰です。プライムに我が国と敵対する意図があるか確認する絶好の機会にもなるのでは?」


 けれども、ダレスが密かに注目したのは大統領ではなかった。

 その目にはホワイトハウスの探知器が見逃したコンタクトレンズが貼り付いている。

 IT大富豪のベイツが独自に開発して、ムラカミ教授の講演会に持ちこんだあのプロファイリング・デバイスである・・・


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