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ホワイトハウス The White House

 絶大な権力を持つ大統領と言えども、とどのつまりは有力な投資家連中の操り人形でしかないのだが、おめでたいほど愚鈍なローズ・ジュニアは、すべて自分の実力と信じ込んで疑いもしなかった。

 鼻柱と自惚れが強いだけのこの男が、三代続けて国のトップにのし上がった裏には、世襲ならではの長年の癒着利権が深く関わっている。亡き祖父の影響力に加えて、莫大な政府予算から甘い汁を吸う者たちがこぞって画策した大統領当選だったのである。むろん利益誘導はアメリカ合衆国に限ったことではなく万国共通の現象だが、時として無能なリーダーを祀り上げた結果、予想外の暴走を招く。

 利に敏く理に疎い大統領は、世間向けの派手なパフォーマンスは自ら買って出るくせに、実務となると無知無頓着で閣僚に任せっぱなしにする。ところが、己が利権が絡むとなると、途端に勢いづいてイニシアチブを発揮して、周囲を右往左往させるのだった。


 突然召集された非公式会議に出席した閣僚たちは、一様に緊張した面持ちで神妙に座っていたが、国防長官のドナルド・ライデッカーは落ち着き払っていた。五十歳前後に見えるが、実年齢は七十三歳である。遺伝子操作による部分若返り処置を、幾通りも受けているともっぱらの評判だった。

 もっとも、富裕層や著名人がバイオ企業の若返り施療専属チームを雇う時代で、美容整形で外見を変えずとも、生物学的に年齢より二、三十歳若い有力者はとりたてて珍しくはない。


 大統領を迎えて全員が起立した後、高級スーツをびしっと着こなした国防長官は腰を下ろさず、電磁パルス爆弾の実験経過について説明を始めた。

「五年前、小惑星探査で発見したヘプトニウムの採掘権を他国に奪われては、将来的に重大な安全保障上の問題が生じます。幸い、高名なムラカミ教授の提言により、我われは惑星開発公社と協力して、いち早く小惑星にロボット兵二個師団を送り込みました。結果、中国はじめ各国を出し抜いて、貴重なレアメタルの権益確保に成功したのです」

 ムラカミ教授と聞いて、大統領は唇をひん曲げあからさまに嫌悪の表情を見せた。歯に衣着せぬ言動で有名な日系人の教授は、二十世紀の原爆投下を合衆国の歴史的汚点と公然と非難して憚らない。愛国者を自認するローズ大統領とすれば、目の上のたん瘤のような存在なのだ。

 しかし、二度のノーベル賞受賞者にして宇宙物理学と科学哲学の権威を政権アドバイザーから外すほど、合衆国の高級官僚は無能ではなかった。

 「大失敗したくなければ、イエスマンを集めるな」と言う鉄則を守り、大統領を説得して譲らなかったのである。


 ライデッカーが続けた。

「ヘプトニウムは、高周波電磁波を凝縮してパルス状に放出します。この特性を活かして、膨大な被害が出る高高度核爆発ではなく、小型の電磁パルス爆弾の開発に目途が立ちました。ところが、一年半前、試作品一号はネバダ砂漠で実験を行う途上、搭載した無人機が墜落して破壊されました。 ヘプトニウムは回収できず、製造は一から出直しとなったのです」(*)

 ホワイトハウスの会議室には、主要閣僚はじめ政府高官と補佐官が顔を揃え、真剣な面持ちで聞き入っていた。世界に先駆けて画期的な新型兵器を保有できるか否かの瀬戸際で、各国が動き出す前に、ヘプトニウム鉱山を押さえた以上、是が非でも新兵器開発にこぎつけなければならない。

 一同が真剣になるのも当然だった。


「さらに、三日前には試作品二号を積んだ北米連邦の潜水艦が、日本沿岸でテロ攻撃を受けました。何者かがハッキングした無人機が、爆弾を搭載して飛び立ったのです。無人機は耐熱パネルが剥がれたため、空力加熱で炎上して汚染地帯に墜落しましたが、直前に爆弾を発射しています」

「日本近海に運んだのは、北米連邦と太平洋軍の合同演習で、ダミー艦船を標的に実験するためか?」

 ブレジンスキーがライデッカーに尋ねた。

「その通りです、副大統領。乗っ取られた無人機も、最新鋭の超高速攻撃機のプロトタイプでした。演習ではマッハ20まで加速する予定で、日本領空を脅かす中国軍への絶好の示威行動になるはずでした」


 マッハ20と聞いて感嘆のざわめきが広がったが、突如、ローズ・ジュニアが声を荒げたため、一同の顔に緊張が走って室内は一瞬で静まり返った。

「すると、ハッキングしたのは中国かッ!?」

 海外鉱山利権に中国が介入して、大統領一族が莫大な損失を被ったのは公然の秘密である。以来、大統領が抱く個人的な怨恨が、大国同士の外交に悪影響を及ぼさないかと、閣僚や高級官僚は冷や冷やしていた。しかも、その利権は副大統領から買い取ったため、国のトップ二人の関係にも亀裂が入る始末だった。


「大統領、犯人の正体はまだ不明です。乗員が超低周音波攻撃を受け、潜水艦が急浮上するまでハッキングは不可能でした。浮上後ものの数分で無人機が発艦したため、内部犯行の線で調査中です」

 ライデッカーが答えた。

「潜水艦にスパイが潜入していたのか?」

 憤然としたローズ・ジュニアが、ドングリ(まなこ)を見開いて国防長官を睨んだ。

「その疑いがあります。第五空母航空団が北米連邦に派遣したアサルト型潜水艦でした。北米連邦軍と共同で乗組員の事情聴取に当たっています」


 ライデッカーの慎重な受け答えでは、大統領の機嫌が治るはずもなく、高官たちは固唾を吞んだ。室内にピリピリと緊張感が漂う。大統領の権限は絶大である。この我儘な男の逆鱗に触れれば、この場で解任を言い渡される者が出てもおかしくないのだ。

 重苦しい沈黙を破ったのは政権のナンバースリー、国務長官のパール・フォックスだった。

「この件も含め、このところ同盟国の日本で立て続けに不可解な事件が起きています。北米連邦の攻撃衛星が、我が国の偵察衛星を誤爆したのも日本上空です。何らかの異常事態が起きているのか、国防総省とCIAの見解を明らかにして下さい」

 フォックスは隣に座るダグラス補佐官に何やら耳打ちされて、フーバーとダレスにチラッと視線を向けて言葉を続けた。

「なお、中国のミュータント部隊の関わりも取沙汰されていますが、日本政府は否定しています。米軍特殊部隊が動いたという噂もあるやに聞いていますが、いかがでしょう?」


 CIAのフーバー長官は大統領に、米参謀本部副議長付きのダレス補佐官は副大統領に、それぞれ重用されているが、この二人が手を組んで、秘密裏に重大な事態が進行しているのでは?

 ダグラス補佐官は密かに二人の動向を探って、ようやくフォックスに共謀の可能性を伝えたばかりだった。

 大統領と副大統領を交えて、虎部隊のアジト襲撃についてフーバーとダレスから事情を聞いて三週間が経つ。その間に、ネイビー・シールズと機動歩兵の新たな動きを探り出したメリンダは、いよいよ黙ってはいられなくなり、この会議に先立ってパールにこう告げたのだった。

「ともに小規模作戦で詳細は不明ですが、二大特殊部隊が日本の汚染地帯で、二週続けて活動した形跡があります。しかも、機動歩兵は偵察衛星撃墜と時を同じくして派遣され、その八時間後に起きたのが、潜水艦へのテロ攻撃と最新鋭ドローンのハッキングです。異常事態と言わざるを得ません!」


 発言を終えたフォックスは、ダグラスに耳打ちした。

「どうして軍参謀本部議長は来てないの?国家情報長官もいない。ダレスとフーバーが代理なんて!」

 二人は顔を見合わせたが、心の中で同じ疑問を抱いていた。フーバーCIA長官がお飾りの国家情報長官より力があるのは当然としても、一介の補佐官に過ぎないダレスが、これ程強い権限を持つのはいったいなぜなの?



*「デザート・イーグル ~砂漠の鷲~」


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