表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/118

国防総省 The Pentagon

 国防総省。

 ダレスの執務室では、ホログラムに現れたフーバーが、雷雲のように険しい顔でまくし立てた。

「ファットマンはシロ?それは確かか?だとしても、君の独断専行にはもう付き合いきれん!近く、我われは大統領に呼び出されるだろう。日本政府も黙ってはいないぞ!我々の首が飛ぶだけではすまない。納得のゆく説明を用意しないと、今後の米軍とCIAの活動にも重大な影響が出る!」

 ダレスの姿は、アメリカ近代史を牛耳る二大ファミリーがのし上がった当時のモノクロ写真から抜け出たようだ。教養と育ちの良さがにじみ出る細面の顔を、七三に分けた髪と上品な高級スーツが引き立てる。

 しかし、今日のダレスの口調には、常にない綻びが見て取れた。いく分ぶっきらぼうな口ぶりで言った。

「アレン、お偉方の対応なら手を打ってある。シティは外したが電磁パルス爆弾の実験は成功した。ヘプトニウム利権は、いずれ五百億ドルを生む金の卵になるだろう」

「すると、ローズ大統領の一族が小惑星の鉱山利権に投資したのは、元はと言えば君の差し金か?」

 ダレスは妙に苛ついているようだ・・・

 フーバーは怪訝に思い眉をひそめたが、例によって先手を打っていたと知って、ひとまず胸をなで下ろした。

 が、次の言葉に顔色を失う。


「その件だが、CIA日本支部に爆弾は失敗と報告させ、CIA経由で仕手筋にリークしてもらいたいのだ」

「何だとッ?市場はとっくに反応しているぞ!惑星開発公社の株価はストップ高で、大統領もご満悦だ。どうして冷や水を浴びせる必要がある!?」

 安堵も束の間、驚愕したフーバーが嚙みついた。

「株価が上がったのは、裏情報が流れたからだ。だが、プライムがどう判断しようと、シティ自治政府は近く物体は隕石だったと正式に発表する。日本政府も関わらないで済む上に、最新鋭機のハッキングを隠蔽してわが国に恩を売れる」

 ダレスは妙に淡々とした口調で、客観的な情勢判断を伝えた。

「日本側の動きは、確かに君の筋書き通りになるだろう。だが、政府見解など投資家連中には無意味だ。爆弾が成功した事実は変わらない。わが国が新兵器を手に入れ、大統領一族も得をするのに、ぶち壊す必要がどこにある!?」

 言い返したフーバーは、はたと思い当たった。

 どうしてダレスは裏情報が漏れたと知っているのだ?

 考えるまでもなかった。


「・・・すると、偽情報リークは君の仕業か!だが、汚染地帯の監視網が軒並み損傷したのは事実だぞ。虚偽報告で株価を暴落させる理由は何だ?」

 陰謀と扇動はCIAの職務に付き物だが、大統領に虚偽報告を上げるとなれば、フーバーとしてもおいそれと引き受ける訳にはいかなかった。

 ダレスは格上のCIAトップに対しても、まったく遠慮と言うものを知らない。傲岸不遜な自信を垣間見せて言った。

「空売りで副大統領に大金が転がりこむと言えば、君は納得するか?しないだろう?・・・アレン、ノヴァの脅威に比べれば、マネーゲームなど弱者の火遊びでしかないのだ。我われの次の標的は大統領だ。押しが強いだけが取り柄の無知蒙昧な(やから)にはショック療法が効く。元もと薄っぺらな理性を吹き飛ばしてやれば、プライムを敵視してこちらの思惑通り動かせる」

 大統領に対して何たる言い草か!

 癇に障ったフーバーだったが、心の片隅でダレスの言い分を受け入れている自分に気づいてもいた。

 リチャード・ローズ三世通称ローズ・ジュニアは、典型的な世襲のボンボンである。無能を絵に描いたような自惚れ屋と、政府高官なら誰もが知っている。

 しかも、大統領以下政府高官を操る超富裕投資家連中を弱者扱いか・・・この若い補佐官はどうも得体が知れない。おまけに、大統領と副大統領の双方を手玉に取っているのか?

 警戒と興味がないまぜになってフーバーの胸に去来した。


 しかし、ダレスと手を組んだばかりに、フーバーは抜き差しならないジレンマに陥った。「我われ」という言葉には「一蓮托生だぞ」と言う響きがこめられている。

 元はと言えば、CIAに潜入したダレスの手先が事の発端だったが、ノヴァの存在が浮かび上がった今となっては、選択肢は残されていない・・・

 苦い想いに顔をしかめたが、大統領直属のCIA長官としては、あっさり引き下がるつもりはなかった。

「納得できん!どうして、そこまでプライムにこだわるのだ?ノヴァが存在する証拠を掴めないからと言って、プライムが肩入れしていると断定する気か?」


 すると、ダレスは語気を強めた。

「この一ヵ月で五回、ノヴァの拉致を試みてすべて失敗に終わった。五回も続けば偶然ではなく必然だ。そこで、今回初めてプライムを標的に選んだが、案の定、計画は失敗した」

「何が言いたいんだ?」

「プライムの干渉を防ぐため、わざわざ潜水艦を使ったが失敗した!ファットマンが嘘発見器でシロとわかった以上、SSRX2に欠陥があったと考えるしかないが、それでも、プライムが設計に干渉したか、欠陥を知っていた可能性が残る・・・」

 さすがのダレスも、感情の起伏を隠し切れないと見える。

 フーバーはそれとなく観察していた。

「・・・他にもある。君の部下のドレフュスを除けば、タクミヒダノとキャットという娘は民間人だ。その二人が、二大特殊部隊の手を一度ならずすり抜けた・・・結論は三つだ。彼らには特殊能力がある。仲間がいる。そして、理由は不明だが、プライムの庇護を受けている。だが、プライムさえ排除できれば、ノヴァを捕らえて正体を解明できるはずだ!」

 

 このところ、ダレスはややもするとこうして持ち前の冷静さを失う。フーバーはいったん歩み寄り、頭を冷やさせる方が得策と見て言った。

「つまり、大統領を揺さぶってプライムへの敵愾心を煽るのか?」

「その通りだ。そこで先ほどの話に戻るが、惑星開発公社の株価暴落を演出して欲しい。だが、電磁波パルス爆弾は、本格的な製造に向けて裏で準備を進め、国益は守る」


「選択の余地なしか・・・」

 フーバーは折り合うしかないと覚悟を決め、ため息交じりに尋ねた。

「ところで、ファットマンの心理鑑定は盗聴できたのか?」

「いや、失敗だ。盗聴はプライムが関われないルートで、盗聴ワームの不具合らしい。堅物のメトカーフが軍を裏切るとは思えないが、新人類レポートの件と、ビアンカスワンの調査の件が引っかかる。引き続き監視を続けてくれ」

「いいだろう。だが、君の言う通り彼は無関係だろう。五年前、メトカーフは新人類レポートは偶然の思いつきと言った。子供の頃からのSF好きらしいから、あり得ない話ではない。スワンの調査は、殊勲を挙げた部下の事故死に、気持ちの整理をつけるためとも受け取れる」

 フーバーのとりなすような口調にも、ダレスは憮然としたままだった。

「そのスワン中尉だが、中東の作戦を改めて精査した。あの操縦技能は、やはり人間業ではない!間違いなくノヴァの一員だ。となれば、生き延びている公算が高いが、まだそれらしい人物は確認できない・・・ドレフュスは、シティに戻ったらしいな?」


 ダレスは唐突なほど結論を急いでいるようだ。スワンがノヴァでしかも生存しているとなると、フーバーとしては半信半疑にならざるを得なかったが、不安定なダレスを刺激するのは避けた。

「オータキの襲撃を受けた後、脳心理研究所で当日の記憶を喪失していると診断された。精神的ショックによる健忘症だ。カウンセラーの仕事とCIAの任務に支障はないから、泳がせて様子を見る。オータキの報告はまだか?」

「まだだ。機動スーツの管理担当者は、強い電撃を受けたためオータキには休養が必要と報告してきた。近く精密検査と心理鑑定を受けさせる。事情聴取はその後になるだろう」

「電撃はエネルギー兵器だったな?」

 フーバーが尋ねた。参謀本部の情報に頼るしかなかった。

 機動歩兵派遣に衛星爆破が重なり、その数時間後には潜水艦のハッキングと電磁パルス爆弾攻撃と続いた。CIA極東支部は、錯綜する情報で混乱を極めたのである。

 放射能汚染地帯での出来事とあって、現地エージェントから生の報告を得ることもできない。

 ダレスはうなずいた。

「そのようだ。専門家によると、プラズマに重力場形成を組み合わせた物らしい。持続時間が短く指向性がないため、兵器としては実用性はない。グラヴィトニウムを使うためコストも高く、実験室レベルの代物に過ぎないそうだ」

 ダレスは平静を保っていたが、内心では不気味な疑惑に苛まれていた。

 虎部隊アジトの襲撃後、偶然確保したノヴァと思しい娘をオータキは独断で解放した。汚染地帯でも結果的に標的を二人とも取り逃がした。

 オータキやファットマンやメトカーフは、プライムが密かに操る駒から、新人類の異能力に洗脳された操り人形に変化(へんげ)したのでは?・・・

 打つ手打つ手がことごとく裏目に出た挙句、見えない敵への迷信的な恐怖を募らせていたのである。


 現実主義者のフーバーはと言うと、自らのキャリアを守る方策に想いを巡らせていた。

 日本支部の報告を変えさせると、大統領一族は大損を被る。かたやダレスの入れ知恵で、副大統領は惑星開発公社の株を密かに空売りして、大儲けするに違いない・・・

 この分ではいずれ現大統領は失脚して、CIAは副大統領に忠誠を誓うことになると冷静に分析していた。

 二人の和解どころか、決別を演出する羽目になろうとは・・・ダレスの計画に巻きこまれ、わずか二カ月の間に大統領まで陰謀の標的にするとは、政府高官としての倫理も忠誠も自分は見失ったのだろうか?


 のっぴきならない状況に首まで浸かった己を憐れむべきか、笑うべきかわからないと、フーバーは複雑な想いに囚われ、暗澹たる気分に浸っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ