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蘇えりし女戦士 Warrior Uprises

 アロンダと匠が居間にテレポートした瞬間、自室で気配を察した貴美は足元のラグをめくり、手にした三日月刀を素早くデスクの床下に隠した。生体認証で開くスタッシュには、CIAの関係書類や支給品の小型レーザー銃が収まっている。


 部屋から出て足早に居間へ向かう途中、廊下で匠とアロンダに鉢合わせした。

「よかったよ、無事で!」

 匠は飛びつくようにして貴美を抱きしめ、安堵の声を出した。続いてアロンダも貴美を抱きしめて言った。

「シティは無事ね!ひと安心だわ!」

 ただならぬ二人の様子に、貴美は怪訝な顔で尋ねた。

「いったい何なの?」

「サンクチュアリの電源が喪失した。HEMPらしいわ」(*)

「えッ、高エネルギー電磁パルスを受けたの!?みんなは無事?キャットは?」

 貴美は仰天した。

 広域高エネルギー電磁パルスは、主に高高度核爆発で発生する。直接人命を奪いはしないものの、広範囲にインフラを破壊するため、長期的には直接核攻撃をも凌ぐ犠牲者を生むと言われている。


「大丈夫。キャットも目を覚まして元気よ!」

「よかった!でも核爆発じゃなさそうね。高度が低いと核攻撃、高いとシティも下手すれば日本全土の五分の一が、電磁パルスで停電するもの」

「僕は汚染地帯の状況を調べて見る」

 匠は身をひるがえして自分の部屋へ向かった。貴美は弟の後姿を見送って、アロンダに小声で話しかけた。

「わたしはCIAのデータベースを調べるわ」

「その前に、どう報告するつもり?CIAにはめられて、機動歩兵に襲われたのよ」

 アロンダが聞き返した。

「考えがあるの。ハンドラーには帰還したとだけ伝えたわ。シティの行政官に詳細な報告は必要ないから」

「わかった。ところで、サンクチュアリのホットラインがダウンしても、エリア21からナラニに連絡できるのね?」


 アロンダは貴美の様子が変わったのに気づいた。アロンダに向けていた刺々しさが影を潜めていた。貴美の次の言葉は、アロンダの直感を裏づけるものだった。


「ええ、一段落したら連絡を取るわ。それから、今日はありがとう。助けてくれて!」

「こちらこそよ、カミ。あなたはキャットを守ってくれた!」

 アロンダは微笑みを浮かべて貴美を見つめた。初めて「カミ」と自然に呼べた。だが、マヤの荒んだ心をわたしは受け止められなかったと、養母ニムエが抱いた罪悪感が心に募る。

 サウロンの心の闇を受け継いでいたら、と中世で信じられていた「呪い」が恐かった・・・

 マヤの当時に戻った貴美の青い瞳を見る度に、アロンダは心苦しくなるのだった。キャットもサウロンの青い目を受け継いでいるが、受ける印象はまるで違うのである。


「武器を準備するわ。敵の標的がサンクチュアリなら、わたしたちの出番よ。火器は使えるわね?」

 過去生の苦い想いを振り切って尋ねると。貴美は軽くうなずいた。

「それじゃ、調査をお願い。すぐ戻るわ!」

 目を閉じたアロンダは、瞬時にオーブに包まれ姿を消した。


「テレポートできれば、武器だって持ちこみ放題よね・・・」

 残された貴美は、まるで人ごとのように独り()ちた。

 機動歩兵との闘いに電磁パルス攻撃と目まぐるしく続いたと言うのに、些細な出来事にしか思えない。

 あの機動歩兵は、サウロンの生まれ変わりだわ。しかも、サウロンが光の血族だったなんて!

 機動歩兵にコンタクトした時、同時に再体験したサウロンの過去生の方が、貴美にとってはるかに衝撃的な出来事だったのである。

「光の血族なら、サウロンが深刻な心の闇を抱えるなどあり得ない。マヤも呪われてなんかいない!」

 確信めいた直感が新たな希望を生み出し、貴美の中のマヤの意識は本来の自分を取り戻すきっかけを掴み取っていた。


 CIAのデータベースを参照しながら、意識はあらぬ方向へと彷徨い出る。

 アロンダはエアカーからキャットを連れて煙のように消えたわ。匠のようにオーブの転写はできなくとも、手をつなげば意識のない新人類でもテレポートさせられるのね・・・

 マヤの記憶がさらに蘇ったら、わたしもテレポートできるようになるのだろうか?


「カミ、入るよ!」

 匠の声に貴美は我に返った。弟の気配を感じ取れないほど、物思いに気を取られていた。あたふたと部屋に入った匠が言った。

「テレビをつけて!臨時ニュースだ」

 手元のホログラムで貴美がモニターをテレビに切り替え、臨時ニュースのガジェットを拡大した。シティ公営放送チャンネルに、光沢を帯びた全天候対応スーツ姿の女性アナウンサーが現れた。無表情に淡々とニュースを読み上げる様は、まるでロボットのようだ。臨時ニュースは随時繰り返し放映されるが、そのたびに新たな情報が加わる。


「火花を散らして上空を通過した物体の目撃情報について、シティ科学委員会は物体は隕石の可能性が高いと発表しました。大部分が燃え尽きたと見られますが、一部が汚染地帯に落下したもようです・・・」


「付近のモニターが損傷しているのに流れ星ってか?」

 匠が不信をこめて眉をひそめた。

「どういうことなの?」

「小田に電話してそれとなく聞いたんだ。あいつ、情報が早いから。すると物体は途中で燃えつきて、一部が汚染地帯の北西部で消えたって。でも、隕石じゃない!研究所のデータを調べたら、付近の放射線モニターが軒並み欠測して、外縁に位置するモニターには、電磁波の強烈なスパイクが記録されていたんだ。ただ、サンクチュアリは直撃圏の外側だから、すぐ復旧できるんじゃないかな?」

「そうだといいけれど・・・電磁パルスだったのは間違いなさそうね。シティ政府は隠蔽しているんだわ!標的はシティ?それともサンクチュアリ?それに、なぜ外したのかしら?」

 貴美は合点がいかないと首を傾げた。

「サンクチュアリだったら大変だ!第二世代の隠れ場所を知られたってことだから。アスカは敵が部隊を投入したら、テレパシーで伝えると言ってた。汚染地帯だからロボット兵かな?」

 貴美は(かぶり)を振って言った。

「正規軍は簡単に派遣できないわ。指令を出せるのは大統領で、そもそも、同盟国の日本を攻撃するなんて考えられない!電磁パルス爆弾だとしたら、特殊部隊の隠密作戦かも知れない。米軍特殊部隊にはあなたも会ったでしょう?後はCIAか・・・」

 貴美の言葉じりが宙に消える。

 匠も第二世代の心身に馴染んできたことだし、わたしがCIAのオフィサーと打ち明ける頃合いかも知れない、と気持ちに迷いが出たのである。


 匠は匠で、姉は以前から米軍や北米連邦軍にやたらと詳しいと、不思議に思っていた。

 トップガンだったアロンダなら当然だけれど・・・そう言や、アロンダはどこだろう?

「カミ、アロンダは?」

「消えたわ。武器を手に入れて後方支援の用意をするって。サンクチュアリが攻撃されたら、わたしも同行するわ」

「えッ、ウソだろッ!?アロンダは米軍にいたけど、カミは武器なんか・・・」

 その瞬間、貴美がハッと顔を上げて言った。

「戻ったわ!」


 匠には感知できなかったが、貴美の言葉通り、アロンダは居間にテレポートして戻っていた。二人が居間に駆けつけると、開口一番、弾んだ声で言った。

「いい知らせよ!汚染地帯に敵部隊の姿はないわ。アメリカの知人が偵察衛星で確認してくれたの。赤外線捜索ね。武器を取りに行く前に、サンクチュアリにも跳んで、みんなにも伝えたわ」

 アメリカの知人とはもちろん伽耶だが、貴美にその存在を隠しておくため、アロンダは話をぼかした。貴美は貴美で、アロンダは元米軍士官だから、当時の知り合いだろうと考え聞きとがめなかった。


「ふー、助かった。あそこが敵にバレていなくて!」

 匠はホッとしたのだが、アロンダが大型キャリーバッグと金属ケースに収めて持ちこんだ武器の山を前に、驚きのあまり立ちすくんだ。プライマリー・ウェポンの数々を初めて目にする匠にとっては、信じられない光景だったが、アロンダは匠の視線など意に介さず貴美に話しかけた。

「カミ、今回は出番がなかったけれど、この武器はあなたに預けるわ。隠し場所はある?」

「アネックスの地下が核シェルターなの。エリア21のホットラインの脇にも貯蔵庫があるわ」

 匠とは対照的に、武器の山にも取り立てて神経質になりもせず、貴美はあっさり答えた。

 軍用の武器は保持するだけで重罪に問われるが、躊躇いもなくロング・アサルト・ライフルを掴んだ。慣れた手つきで弾倉を外して、仔細に眺めると再装填した。照準モニターを親指で弾いて展開するなり、素早く肩に当て壁に向かって狙いを定め、銃を構えたままアロンダに尋ねた。

「初速は?アイサーは使える?」

「秒速二千ヤード。麻酔弾も赤外線スコープも用意したわ。近距離戦なら波動砲ね」

 ずんぐり丸みを帯びた小型エアー・コンプレッサー砲を、アロンダが軽々と持ち上げて言った。

「プラズマ銃と音響爆弾もあるわ。レーザーはライフルとハンドガン。殺傷力があるから、使わずに済ませたいわね」


 貴美はアロンダの言葉にいちいちうなずきながら、鋭く目を光らせて無駄のない動きで次々に武器を手に取っては、注意深くチェックしてゆく。

 匠はアイサーが麻酔弾の俗称ということさえ知らず、二人が銃器を調べながら話を交わすのを、ポカンと口を開けて眺めていた。

 素人目にも、貴美が銃を構える手並みは堂に入っていた。

 もっとも、隠されていた姉の素顔を垣間見てひどく驚いたものの、実のところ、貴美の姿にはまったく違和感を感じなかったのである。

 見覚えがある。懐かしいぐらいだ!

 武器こそ中世とは大きく異なるが、今の貴美はオパル王朝きっての戦士だったマヤを彷彿とさせる。第二世代も足元に及ばないヒーリングの能力と恐るべき破壊力。マヤは、相反する両面を併せ持つ稀有な存在だったのである。

 人工的な環境に浸った現代人の家畜のように柔な雰囲気は消え失せ、凄みを感じさせるほど精気に満ちている。この一週間で体型まで引き締まって、貴美は優し気な癒し系カウンセラーから、碧眼白皙(へきがんはくせき)の精悍な女戦士に変貌していた。


 匠の意識の中で、アトレイア公爵が静かにつぶやいた。 

「オパルのマヤが蘇って、カミの戦士の休息は終わったんだ・・・」



* 地上40 ㎞から400 ㎞ほどの高高度核爆発で発生する高高度電磁パルス(High Altitude Electromagnetic Pulse: HEMP).。別名核電磁パルス(Nuclear EMP)

ここでは、広義の高エネルギー電磁パルス(High Energy Electromagnetic Pulse)を指す


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