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愛娘たちを救え! Save Our Daughters !

 土曜日の昼過ぎのことだった。ピザの配達を装ったアロンダが、匠に会いにエリア21キャンパスを訪ねて来た。正確には強引に連れ出しにやって来たのである。


「急用よ、一緒に来て!」

 カフェテラスで仲間とくつろいでいた匠にずかずかと近づいて、藪から棒に切り出した。

 けれども、匠はもう何が起きても驚かないほど、平静な心境に達していた。

 と、言うより、諦念に近いか?

 ようやくフェロモン現象を制御できた。これで元の生活に戻るかと思いきや、事もあろうに世界最強の特殊部隊に襲われた。この先、何が起きてもおかしくない。

 怯えて身構えるのが当然なのに、なぜか今この瞬間しか意識しないでいられる。TPOをわきまえないアロンダの振舞にも、何ら苛立ちを感じないのだ。

 まるで他人事のようでもあり、事態を興味深く眺めている別の自分がいるようでもある。

 何とも不思議な感じ・・・

「行くってどこへ?」

 一応、聞くだけ聞いては見たものの、返事は予想通りだった。

「いいから、来るの!ゴメンなさ~い。彼を借りるわね~」

 アロンダは学生たちに華やかな笑顔を振りまきながら、有無を言わせぬ勢いで匠の腕を取った。

 国際色豊かなシティでもひと際目を惹く長身の八頭身美女の迫力には、回りの学生たちは半ば圧倒され半ば魅了され、口をつぐんで成り行きを見守っていた。

 匠はと言うと、ネクタイ派でなくてよかったな、と妙な事を考えていた。

 下手すれば犬のように引きずり出されたかも知れない。アロンダならやりかねない!何しろ、僕といるとニムエ女王に戻ってしまうのだから。


「ねえ、ロバは最近ちょっと変じゃないこと?桐嶋ナラニに連れ出されたかと思えば、今度はあの(ひと)に拉致されてしまったわ」

 あっけに取られて二人を見送っていた真弓が、小田に話しかけた。

「うん、何だかおかしい・・・媚薬の臨床実験でも受けたのかなあ~」

「あのー、ビヤクってなんですか?」

 真弓に真顔で尋ねられ、弱ったなと小田は口ごもった。

 何しろまだ十七歳で初心(うぶ)だから、迂闊に下ネタを出した日には、露骨に「サイテ―、やらし~!」と罵られるに決まっている。


 こういう時は科学用語にすり替えれば、嫌な顔をされずに済む。素早く頭を働かせて言った。

「つまり・・・フェロモンのように異性を惹きつける化合物だよ」

「えッ、じゃあ催淫物質ですか?そう言えば、チアリのあの憎らしい女も、ロバに言い寄っていたわ!」

「最近、美紀子も飛騨乃さんにやたらちょっかいを出してるもんなあ~」

 どうも怪しいと小田は首を傾げた。

 小田さんって、真剣な顔で集中するとクールだわ。ものすごく頭が切れるから、深遠な思考を巡らせているに相違なくってよ、と真弓は小田を見つめていた。

 が、小田の気まぐれな頭脳は、とっくに切り替わっていた。

「そうだ、マユ、今からテニスしない?飛騨乃さんが抜けるとダブルスが組めないんだよ。マユは上級者だから物足りないかもしれないけど、どう?」

 一瞬、真弓は放心した。

 な、何も考えてないんだわ。男ってわからない!

 さほど男性経験がないにもかかわらず、真弓は人生の重要な教訓をしっかり胸に刻みつけるのだった。


 体育館前の芝生で、チアリーディングの練習に励んでいた遠藤美紀子は、アロンダがピザの宅配バッグを肩に、匠と連れだって歩く姿を目ざとく認めて眉をひそめた。

 誰なのッ、あのド派手ピザ宅配女は!?

 自分のことは棚に上げて、アロンダを睨みつけて仏頂面をしているところへ、サブリーダーの松浦音子が寄って来て言った。

「すッごくきれいなひとね~。二週間前だっけ?モデルのナラニが連れて行っちゃったから、みんなびっくりしたけど、今日はラテン系なの?へ~、匠先輩ってば、あんなにモテたっけ?」

「し、知らないわよ!」

 神経を逆なでされた美紀子は「プチ切れ」した。


 ナラニの時は天上人のようなオーラに吞まれ、敵意や嫉妬は感じなかったけど、無名の配達員に負けるなんて我慢ならない!なによ、ちょっとばかりスタイルがいいからって、ボディスーツなんか着ちゃって!

 美紀子自身、水着モデルのバイトで稼ぐほどプロポーションが良いだけに、対抗心に駆られて、アロンダに憎々し気な眼差しを向けた。


 他人の物となると、なおさら先輩をモノにしたくて堪らなくなる・・・絶対に逃がさないからッ!


 でも、なぜ、わたし、匠先輩にこんなに執着するんだろう?

 自分でもおかしいと感じる。あの夢を見て以来、美紀子はあらがい難いほど激しい熱情を持て余していたのだ。


「美紀子ったら、匠先輩なんかタイプじゃないって言ってたのに、どうしたっていうの?ちょっと変じゃない?」

 音子が訝し気に尋ねると、こみ上げてくる暗く熱い衝動を振り払うように、美紀子は声を張り上げた。

「何でもないわよ!おっこ、みんなを集めて!もう一度ルーティンをやるわよ!」 

 

 美紀子の視線には気づかず、匠とアロンダはキャンパスを囲む森の中へ足を踏み入れた。

「駐車場に行くんじゃないのか?」

 早足に歩くアロンダに尋ねると、アロンダはくるっと匠に向き直った。

「アメリカの伽耶から連絡があったの。カミが狙われて、キャットも巻き添えになった!わたしがテレポートして助けに行く。でも、あなたをシティに残して置けないわ」

「なッ、何だってッ!?ふたりは大丈夫なのか?狙われたって、どこで?誰に?」

 ついに姉の貴美まで標的になったのか!?仕事が残っているから土曜出勤と言っていたが、テレポートとなるとシティにはいないってことか?どうなってるんだ・・・

 匠はうわずった声でアロンダを問いただしたが、例によって一蹴されてしまうのだった。

「うるさいわね~、話は後よ!サンクチュアリに行くから手を握って、早く!」

「二人に何かあったのだったら治せるかもしれない、僕も現場に連れて行ってくれ!」

「相手は強敵なのッ!あなたはサンクチュアリで待機して。さあ、早く!」


 慣れっこになった展開に匠は大人しくアロンダの手を握ったが、平静な心境もどこへやら、匠の意識はサマエルの昔に戻り、二人の愛娘ビビとマヤを想う親心は千々に乱れた。

 無事でいてくれ!

 祈りをこめて目を閉じる。


 鬱蒼と緑が生い繁った初夏の森は、監視カメラもなく人目にもつかない。二人の姿はフワッと光に包まれて消え去った。



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