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機動歩兵を追え! Pursue The Mobile Suit !

 一週間が過ぎた。

 西の都ではキャットが隠れ住む北条時子の家に、久方ぶりにシンが顔を出した。昼前とあって仕事前の時子は、キャットとコーヒーを飲みながらくつろいでいた。


「面倒なことになった。サツのガサ入れだ!それも大がかりなやつが、近々あるらしい。と言っても、形式だけだがな。俺も事情聴取でしばらく忙しくなりそうなんだ。別件で逮捕される奴も出るだろう。捜査員はこの家までは来ないはずなんだが、万一、見つかるとヤバいから、お前の新しい隠れ場所を探してるとこだ」

 シンは簡単に事情を説明した。

 プラウドはロケット砲攻撃の濡れ衣をかぶる条件で、日本政府と裏交渉を続けてようやく合意に達したばかりである。

 直前まで現場にいたシンは、公安と警察から厳しくマークされている。キャットをかくまうだけでも精一杯で、プラウド上層部からもしばらく組織中枢と距離を置くよう指示されていたから、いったい組織にどれほどの見返りがあるのか、詳しい成り行きまでは掴めていない。


「ふ~ん、それじゃ仕方ないっちゃね。心配しないで、シン。身を隠すところなら心当たりがあるっちゃ。騒動が落ち着いたらまた戻って来るから!」

 キャットはしばらくサンクチュアリかシーダハウスに移ろう、と考えた。あの機動歩兵が動く、と伽耶から暗号メールが来たばかりでちょうど良かった。

 騎馬民族というわけではないが、第三世代の機動性は抜群だ。何しろテレポーテーションが使えるから、最小限の身の回りの品さえあれば生活はこと足りる。


「ほな、急いだほうがええ。キャット、気をつけるんだよ!いつでも戻っておいで、待ってるで!」

 この界隈で生まれ育ち物騒な出来事には慣れっこの女将は、何が起きようと肝が据わっていた。

 立ち上がるとキャットの手を両手でしっかり握りしめた。キャットは涙を浮かべてうなずき、時子に抱きついてささやいた。

「うん、戻って来るっちゃ。ほんとうにありがとう!ママさんも元気でね!」


 それからキャットはシンに向き直り、二人は抱き合って互いの目を見つめ合った。

 そんな二人の姿を、時子は温かい笑顔でしみじみと見守っていた。

 なんてひたむきで微笑ましいんやろう、ふたりはお似合いやで、と気持ちがほっこりする。

 わずか十日ほどだったが、天真爛漫なキャットと過ごした時間は、未亡人となった時子の心の傷も癒してくれたのだった。


「じゃあ、俺はふけるぜ。人に見られないよう、お前も気をつけてな。落ち着いたら連絡してくれ。女将、いろいろありがとう。恩にきるよ!」

 シンが立ち去ると、キャットは間借りしている部屋に戻り、キャットスーツに着替えてカジュアルなジャケットを羽織った。

 黒いコンタクトレンズとウィッグも身につけてから、三日月刀を取り上げた。伽耶が分析を終えた例の短刀である。

 ロケット砲攻撃がプラウドの内部抗争というのは真っ赤な嘘だが、ニュースを鵜呑みにして、ここぞとばかりプラウドに攻勢をかける荒っぽい手合いが後を絶たない。そのため、アキラが以前細工した監視カメラも含め、プラウドはすべての監視装置を取り換えた。

 監視カメラの操作ができなくなったキャットは、金庫にテレポートして三日月刀を戻すのは諦め、こっそり金庫に入る機会をうかがっていたが、今日までチャンスがなかったのである。


 とりあえず持って行くしかないっちゃ!

 三日月刀を隠し持ったキャットは、時子に別れを告げると、裏口から出てエアバイクでメガロポリスの中心街へ向かった。

 虎部隊を迎え撃った駐車場にバイクを止めて、ショッピングモールまで歩いて化粧室に入り、クリプトフォンを取り出した。


「ママ上、機動歩兵のカーゴはどこなの?」

「予定通りよ。カヤコープの諜報AIの情報で確認したわ。一時間後に静岡駅に着いて、そこで軍用トラックに積みこむ手筈よ。その後はわからない」

 アロンダはスクーターを走らせながら、イヤーモジュールで電話を受けた。前方を行く匠のエアスクーターから目を離さず、周囲に気を配りながら後を追う。閉鎖空間で監視の厳しいシティの中に潜入するのは、さすがのネイビー・シールズでも難しいが、用心するに越したことはなかった。

 この街の厳しい監視体制にはとことんうんざりしていたが、敵も動き辛いためこういう時は便利だった。

 最近ではピザ配達を兼ねて、カヤコープにも出入りしている。情報資源室に立ち入る権限を与えられた数少ない幹部社員たちは、外部委託のフィクサー、いわゆる「始末屋」らしいと推察していたが、派手で気さくなアロンダにすっかり魅了された。

 今では皆と打ち解けて、諜報AIの操作を学んでいるところだ。すべて伽耶の指示であるのは言うまでもない。


「了解!じゃあ、そのトラックに貼り付くっちゃ。マグネットもアキラさんに調整してもらったからもう大丈夫。ところで、伽耶は?」

「まだ、アメリカから戻ってないわ。何をやってるのかしらね~?貴美も急用で出かけて、わたしはタクの警護でしょ。人手が欲しいのに!」

「カミは仕事なの?だって、今日は土曜日なのに?」

 キャットは怪訝な声で尋ねた。

「残業だと思う。わたしも匠と落ち合った時に聞いたの」

「変だっちゃね~。週末はパパ上から目を離さないって言ったのに・・・でも、ママ上がいるから大丈夫だけど」

 アロンダと貴美の間に漂う妙な緊張感に、キャットはとっくに気づいていた。千年前の過去生に端を発していると察してもいたが、巻き添えで自分と貴美との関係までギクシャクさせるつもりは毛頭ない。

 オパルでの過去生の二人、アルビオラとマヤは、それは仲睦まじい姉妹だったからだ。また、現世の匠つまり当時のアトレイア公爵も分け隔てのない愛情を惜しみなく姉妹に注いだ。女王である母親ニムエが公務に駆けずり回っていても、幼い二人は存分に甘えて安心して過ごせる心のベースキャンプには事欠かなかったのである。


 公爵の生まれ変わりの匠ときたら、あの頃そのままで、ママ上のお尻に敷かれっぱなしだし、マヤは今生では姉だから、恩返しとばかり命懸けでパパ上を守ろうとしているし・・・

 やっぱり、うちは複雑な家庭だっちゃね。

 キャットはため息をついた。が、それは幸せに満ち足りたため息だった。


 でも、何だか雲行きが怪しいっちゃ!機動歩兵の奴がまた動く。今度は、虎部隊のアジトより遠くへ足を延ばして東へ向かっている・・・米軍参謀のあの黒幕、いったい何を企んでいるっちゃ?

 虎部隊のアジトでは機動歩兵に命を救われて、その後、理由は不明だがキャットは解放された。命の恩を忘れるつもりはないが、何か裏があるに決まっている、とキャットは思っていた。解放された直後にロケット砲で攻撃され、伽耶が機転を利かせなかったら、自分は燃焼爆弾の犠牲になっていたのだから。

 機動歩兵の弱点も伽耶から教わったっちゃ。たとえ命の恩人でも、世界最強の特殊部隊員でも、必要なら容赦なく倒してやる!


「再会したみんなの生活を、権力をかさに着た連中なんかに絶対に壊させないっちゃ!」

 キャットは決意を新たにしていた。


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