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不運な偶然 Navy SEaAirLandS

 匠は半時間ほど経って目を覚ました。顔をしかめて辺りを見回す。頭痛がして身体がひどく気だるい。

 見覚えのある石壁に、サンクチュアリに居ると気づいた。


「起きたのね!」

 駆け寄ってきたのはアロンダだ。黒いボディスーツ姿の上半身を屈めて、匠をそっと抱きしめた。


「アロンダ!さっきのテレパシー、聞こえたんだけど、オーブを起動する前にまた眠ってしまった・・・」

 匠は断片的な記憶を探って言った。

「キーリンの言った通りね。覚醒して間がないから、聞こえてもオーブを纏えないかも知れないって。でも、大丈夫。代わりに解毒剤を打ってもらったから!」

 アロンダがうなずいた。

 そうだった!外部被曝を避けようと、不時着後すぐオーブを起動した。第二世代でヒーラーだから、自然治癒力も格段に上がる。最初の麻酔ニードルの効果はすぐに消えたんだ。でも、目を覚ました瞬間、オーブは消えて二発目の麻酔で眠ってしまったらしい・・・

 ようやく事の次第を呑みこんだ匠が言った。

「助けてくれたんだね、テレポーテーションで?」

 アロンダは首を横に振った。今日は、戦闘機乗り時代と同じシニヨンに髪をまとめている。

「最初の数キロはリープよ。リープならオーブはほとんど目立たないから。テレポーテーションはその後」

 アロンダは大の男を抱き上げるぐらい軽々とやってのける。匠を抱えてリープするのは簡単だった。


「そうか・・・じゃあ、ずっと僕を追けてたの?」

「先回りしたの。リープしながら、フィールドトリップのポイントを下見したわ。途中であの連中を見つけて見張っていたのに、あなたったら、空き地を通り過ぎたからビックリよ!」


 コンバットスーツには、アキラがカメレオン迷彩と赤外線シールドを組みこんでくれた。おかげで特殊部隊に気づかれず監視できた。もっとも、アキラの存在はまだ匠に打ち明けられず、その話は口にしなかった。

 罪悪感でつい素っ気なく振舞ってしまうんだわ、わたし・・・

 アロンダは小さくため息をついた。


「ああ、考えごとに気を取られて、うっかり通り過ぎたんだよ。で、いきなりバイクがおかしくなって・・・じゃあ、あれは故障じゃなかったのか?」

 伽耶がアロンダに見張らせたんだ、と匠は合点した。

 千年前も、タリスは信じられないぐらい手回しが良かった。でも、覚醒して以来、スーパーでもイルカちゃんの姿を見ない。一昨日も家には来なかった。顔を見せないのはなぜだろう? (*)

 首を傾げていると、アロンダが匠を睨んだ。安心した反動で、怒りをぶつけるように言った。

「バイクが電磁波パルスを食らったのよ。墜落しなくて幸いだったけど、連中の出方を見たから、わたしだってすぐ動けなくて焦ったわ。あなたがぼんやりしてるからよッ!」

「そんなこと言ったって・・・」

 それじゃ、敵が待ち伏せしてる所へ()()()()着陸した方が良かったのか?と、匠は少し凹んだが、アロンダの機嫌が悪いのが気になった。

 何か隠し事があるらしい・・・昔から、彼女はひとりですべて抱えこむ癖がある。

 

「ヒヤッとしたけど、何とか着地できた・・・あれは兵士だった!なぜ僕を狙ったんだろう?」

 すると、アロンダは木のテーブルから角ばった装置を取り上げて匠に見せた。

「米軍が使う時限発火装置よ。あなたをここに運んでから、テレポートで戻ってバイクから取り外したの」

「米軍だってッ!?虎部隊じゃないのか?バイクを燃やして証拠隠滅なんて・・・CIAがキャットの拉致に失敗したから、僕を狙ったのかな?」

 一昨日、アロンダとキャットに会った匠は、マグレブと忍者の里で起きた事件の一部始終を聞いていたのである。

 とんでもない出来事を耳にしていたのに、危機意識に欠けていたようだ、と自覚した匠は真顔で尋ねた。


「間違いないわ!キャットの行方を掴めないから、標的を変えたのね」

 アロンダはうなずいた。

 敵はわたしが生きていると感づいているに違いない。でも、居場所は知らない。だって死人なんだもの、探しようがない。それにシティの外では目立つ行動はしていない・・・だから、キャットに次いで匠が狙われたんだわ。


「僕はあの二人に何かしたのかな?倒れていたけど・・・」

 まさか殺してしまったのでは、と不安になった匠が尋ねると、アロンダは一笑に付した。

「忘れたの~?一撃で特殊部隊員二人をノックアウトしたのよ。正直、惚れ直したわ!」

「僕が?まさか・・・誓ってそんなつもりはなかったんだ!ただ、オパルの記憶が蘇ったから、つい力が入ったかも・・・」(**)

 倒した相手の身が心配になって、匠の顔は心なしか蒼ざめて見えた。過去の出来事と重なったとは言え、自分が激しい暴力を振るったと知ってショックを受けたのである。


「大丈夫よ!見たところ脳震盪ね。意識が朦朧としてたんだから、あなたが力を加減できなかったのはしかたないわ」

 匠はヒーラーで根っからの非暴力主義だから悩むのだが、戦士ニムエの人格に支配されたアロンダは、非戦闘員ならともかく戦闘員にはこれっぽっちも容赦がない。

 わたしたちってとことん凸凹カップルね、と可笑しくなって、いくらか気持ちがほぐれた。

 頼りがいがあるアキラとは違い、匠には母性本能をくすぐる魅力を感じるのだ。

 特殊部隊に狙われてるのに、まったくお人好しなんだから!

 でも、そこに惹かれる・・・昔も今も。

 本当に強いのは匠の方かも知れないと思うことさえある。この人は自分を犠牲にしても他人を守ろうとする・・・いつだってそう。ブレない。

 そして打たれ強いわ・・・攻撃性にはとことん欠けているけれど、この人は防御に回るととてつもない耐久力を発揮する。

 アロンダは千年前に経験済みだった(***)。


「力を制御するのが難しいと伽耶も言ってたっけ・・・ところで、そのハイテクのボディスーツ、すごくそそる!」

 匠は平静を取り戻していた。狙われていると知ったが、今現在に自然に意識が集中して、ボディスーツ姿のアロンダは一段となまめかしく映ってならない。


「あ~、忘れたのッ!?あなた、フェロモンを抑えるんじゃなかった?ホントに、しようがない人ね~!」

 アロンダはハシバミ色の瞳で匠を睨むと「皆に挨拶をしたらバイクまで戻るわよ!」と言って、匠の首根っこをぐいッと掴んだ。

 自分に一途に想いを寄せるところも昔と同じだから、ついつい(むし)って遊びたくもなる。

 まったく、いろいろと女心をくすぐってくれるわ!


「ちょ、ちょっと・・・僕は仔猫じゃないんだよ!」

 アロンダは聞く耳を持たず、容赦なく匠を引き摺るようにして部屋を出た。



 アロンダは、しかし迷っていた。このままシティに匠を戻しても大丈夫だろうか?ダレスはプライムが計画した中東の地下要塞壊滅作戦を利用して、わたしの正体を知った。とことん狡猾なヤツだわ!

 シティで機動歩兵が匠を襲ったのも、プライムでなくあいつの差し金かも知れない、と思う。

 あの襲撃が匠の暗殺でなく、正体を探るのが目的だったら?


 ボディスーツのポケットには、匠が怪力を発揮して引きちぎった防護服の記章が収まっている。米海軍の紋章とネイビーシールズの文字の刺繍だ。

 匠の正体を知るため、敵は最強の特殊部隊を送りこんで来たわ!

 海空陸のどこでも、特殊作戦に対応出来る能力を持つ。彼らに匹敵するのは機動歩兵しかいないが、サバイバル能力では上を行くと言われている。


 シティで起きた最初の襲撃では、機動歩兵をわたしが密かに倒したけれど(***)、今日は違う!匠が空き地を通り過ぎたばっかりに、わたしより先に彼が倒してしまった。匠の正体をダレスに知られた・・・

 包囲網は確実に狭まっている。伽耶がアメリカから戻るまで、わたしがタクを守らなければ!

 アロンダは唇を噛みしめて緊張感に耐えた。


 もうひとり、頼り甲斐のある味方がいるにはいるのだけど・・・

 複雑な感情を持て余して胸でつぶやいた。

 マヤアテナイアは最強の戦士だった。わたしやアルビオラでさえ、彼女にはかなわなかった。

 ただ、彼女は扱いが難しい・・・



*「青い月の王宮」 第58話「エピローグ」

** 「青い月の王宮」 第51話「エメラルド・フォールズ」

*** 「青い月の王宮」

****「青い月の王宮」 第28話「ワンマン・アーミー」


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