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ウソでしょ~! It Can't Be True !

 日米両政府が水面下で慌ただしく動いている頃、シーダハウスにテレポートしたアロンダとキャットは、フィトンチッドの香り漂う一階の居間で、伽耶とくつろいでいた。


「アロンダ、アキラはどうしているの?」

 伽耶が尋ねると、アロンダは幾分そっけなく答えた。

「実家に戻ってるわ。休暇が明けるから三日後には日本を立つって」

 千年前、王女ニムエに抱いたダニエルの恋は片想いに終わったが、二人はその後の幾多の過去生を通じて深く愛し合い、現世でもトップガンのパイロット同士として巡り会った。

 けれども、現世のニムエは千年の時を隔てて、再びサマエルと結ばれる運命にある。第二世代に進化したサマエルこと匠は、アキラとの関係を知っても嫉妬も独占もしない、とわかってはいても、第三世代に変異したアロンダは、アキラとの関係に罪悪感を感じて、モヤモヤする自分を持て余していたのである。

 運命は変えられないわ。変えたいとも思わない。でも、自分の気持ちも思うようにはできない・・・

 まだ、アキラへの想いは吹っ切れそうになかった。


「寂しくなるね。アキラさんがいなくなると・・・」

 キャットはしんみりとつぶやいた。

 シンが懇意にしているバーの女将、北条時子の家に身を潜めて、大滝が動き出すの待っているのだが、今回の事件のほとぼりが冷めるまでは、シンともおおっぴらには会えない。

 アキラとは、キャットが言うところの「ミッション」でしか会う機会がなかったが、一緒に過ごした数日間は匠やシンに会えない寂しさも紛れ、優しく頼りになる兄のように慕っていた。トップガンでエンジニアのアキラと、大学五年生で専門学部三年目の匠は、どこかしら雰囲気が似通っていたのである。

 輪廻転生の記憶が蘇ると、現世の肉体年齢や上下関係はさほど意味をなさなくなる。パパ上の方が年下っていうのが変だけど、ま、いいか、とキャットは思っていた。

 でも、アキラさんがいなくなるなら、なおのこと早くパパ上に会いたい!

 中世のアルビオラ姫の性格そのままに、素直に自分の望みを表に出して、

「ねえ、パパ上とはいつ会えるの?わたし、二週続けて死にかけたから、これ以上待てないっちゃ!」

と、またしても伽耶にねだった。


 すると、伽耶は時おり見せる悪戯っぽい笑顔を見せて、事もなげに言った。

「貴美と匠なら、あなたの快気祝いの準備をしているわ。あなたが二度も命の危険にさらされたと知って、ナラニが二人にアドバイスしたのね。ついさっき私書箱にアロンダ宛の速達が届いたの。カヤコープの至急便を使っているわ。たぶん今夜よ。中を確認したら、アロンダと一緒に行ってね」

 アロンダは匠に連絡手段としてカヤコープの私書箱を教えていた。むろん私信を開封などしないが、伽耶には自社の飛脚便の封筒の体裁から招待状と見分けがついた。

 今夜、会えるのッ!?

 キャットは嬉しい驚きに目を輝かせて、伽耶にぱっと抱きついた。

「えッ、ホント!?うれしいっちゃ!」

 日本語の「カイキ祝い」って何?と思ったが、お祝いならパーティに決まっていた。


「伽耶どうするの?タクはあなたにも会いたがっているわ。でも、貴美にはまだ正体を隠して置くんでしょう?」

 招待状を受け取ったアロンダは英語で尋ねた。快気祝いにピッタリくる慣用語はないが、自動翻訳で意味を理解した。その流れで自然に英語が口をついて出た。この三人の会話には、決まって英語と日本語が入り混じって飛び交う。七年前に覚醒して以来、ほとんど海外で過ごしてきたアロンダは、日本語はまだ流暢とはいかず、必要に応じて自動翻訳機を使っている。

 キャットを抱きしめたまま、伽耶はうなずいて英語で返した。

「私は出かけるわ。急用なの」

「また秘密なのね?」

 アロンダが溜息交じり皮肉ると、伽耶は意外にもあっさり答えた。


「メトカーフ大佐に話があるの」

「えッ、あなた、マーカスを知ってるのッ!?」

 藪から棒に大佐と会うって!?二人はどこで知り合ったの?

 アロンダは信じられないと声を張り上げた。すると、伽耶は例によってさり気ない口調で爆弾発言を返した。

「黒幕がわかったの。参謀本部副議長の補佐官よ。名前はエドワードダレス。たぶんブラックイーグル作戦の首謀者ね。ダレスが大佐の関与に気づく前に、大佐に会う必要があるの」

 ここシティで大滝が匠を襲撃した作戦に、プライムとダレスのどちらが関わったのかは伽耶にもまだわからないが、米軍参謀の黒幕を突き止めたのは大きな収穫だった。けれども、この手の策略家は迅速に動くから、一歩でも先んじなければならない。

「いったい何なの!?マーカスが何に関与したって言うのッ?」

 黒幕発見の朗報も頭からすっ飛んで、アロンダは息せき切って尋ねた。

 メトカーフ大佐とはネバダ砂漠の飛行試験場で会ったきりだが、あの有能にして冷静沈着なリーダーシップを忘れられるはずもない。(*)


「彼がプライムの新人類レポートを作成したの」

 サラっと伽耶が答えると、アロンダは気が動転するほどのショックを受けた。キャットも目をパチクリさせていた。

 メトカーフ大佐?知らないっちゃ。ママ上は米軍の作戦行動は話したがらないから。でも、プライムのノヴァ報道のことは聞いたっちゃ・・・

 長期の冬眠から覚めてまだ日が浅いため、キャットは情勢を把握し切れていなかった。


「な、何ですってッ!?・・・ウソでしょ!?マーカスが?どうやって、私たちの存在を知ったの?」

 むろんのこと、七年前に覚醒したアロンダは新人類レポート事件を知っている。驚いて伽耶を問いただした。

「私が伝えたからよ」

 何気ない伽耶の言葉に、思わず大声が漏れた。

「ウソでしょーッ!!」

「正確にはプライムと私が伝えたことになるわ」

 伽耶は平静そのものだった。しかし、唐突な指示や人間離れした平常心には慣れっこの二人も、今回ばかりは気持ちが動転した。

「それ、どういう意味だっちゃ?」

「なぜそんなことを!?」

 キャットとアロンダが口々に問い詰めたが、伽耶は答えなかった。


「今にわかるわ」

 お得意の口癖が出ると、二人は異口同音に言った。

「また、それッ?信じられないッ!」

 が、伽耶はにっこり微笑んで、あっさり話を打ち切った。

「じゃあ、行くわ。パーティを楽しんでね!」


 オーブの輝きが(ほとばし)って伽耶の姿が消えるや、アロンダとキャットは呆然と互いの顔を見つめ合った。

「ちょっと、聞いた?」

「聞いたけど・・・聞いてないっちゃ!」

 驚かされるのには慣れっこの二人も、さずがに開いた口が塞がらない。そのまま二人してソファに呆けたように座りこんだ。

「いくら何でも、こんな秘密をいきなり打ち明けられたら、わたしだって参るわよ!」

「こんな秘密を隠して、パーティどころじゃないっちゃ!」

 能天気な母娘も、さすがにすっかり魂消(たまげ)て頭を抱えこんだ。


 世界最高峰の人工知能プライムが弾き出した新人類の存在。その情報をリークしたのが伽耶だったなんて!

 なぜ、わたしたちの存在を漏らしたの!?

 それに、いったいどうやってプライムに近づいたって言うの?



 数日後、米バージニア州。


 尾けられている・・・

 メトカーフ大佐は、歩道を歩きながらイヤーモジュールに触れ、ホログラスを展開した。バックグランド映像が、ホログラムに鮮明に映し出された。

 「ズーム」とささやいて映像を拡大、瞬きを使って五十メートルほど後方を徐行する黒塗りのエアバンにフォーカスした。

 ここ数日、外出する度に同じバンを見かける。

 CIAが大佐の尾行を始めたのは、日本で起きた化学工場跡の爆発とロケット砲攻撃の数日後だ。

 フーバーの差し金に違いない、と大佐は推測していた。

 何か重大な事が起きているらしい・・・


 マーカス・メトカーフ。51歳。アメリカ国防情報局分析部に所属、国防情報局情報官代理を務めた経験もある。有事には統合参謀情報部の部長を補佐する有能な幕僚で、温和な人柄も手伝い部下から敬愛されていた。

 逆に、有能過ぎるが故に、上司という上司から常に警戒の目で見られてきた。しかし、出世欲の塊のような上層部とは違って、実はメトカーフはまったく野心家ではなかった、


 フーバーからダレスの名をそれとなく聞き出した大佐は、さっそく若き補佐官の調査を開始したのだが、謎が多い人物で異様なほど人脈が広く、あちこちに出没している割には、果たしている役割が不明瞭で掴みどころがない。

 だが、凄腕のプロファイラーでもあるメトカーフは、この手の人物には心当たりがあった。

 いわゆる「影の政府」の実力者と特徴が一致する。とは言っても、三十台にしてこれほどの権力基盤を築き上げた者は過去に例がない。

 ダレス補佐官は何かとてつもない秘密を隠しているはずだ。そして、その秘密は新人類の謎に関わっているに違いないと、大佐は察知していた。


 日曜の午前とあって、緑豊かな市街地を抜ける二車線の道路には、家族連れやカップルの車が目立つ。この地域は自然愛好家が多く、昔ながらの自然食品店は朝採りの新鮮な野菜の他、果物や大豆製品など健康食品を求める買い物客で朝から賑わっていた。

 歩道を歩く大佐は、通りすがりに顔見知りと会う度に、気軽に声をかけて世間話を交わしながら、やがて行きつけのアスレチックジムの敷地に入った。

 尾行して来たエアバンは、そのままジムを通り過ぎたが、Uターンして戻って来ると大佐にはわかっていた。

 休日まで尾行する目的はただ一つ。誰かと接触するのを待っているのだ。これといって人と会う予定はないが、大佐の直感は滅多に外れない。


 CIA以外に何者かの視線を感じる・・・



 * 「デザート・イーグル~砂漠の鷲~」


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