Act.9-521 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜赤の女帝は蠱惑に笑い、初代皇帝は矢を番え、水神の姫巫女は冒涜的に祈りを捧げる〜 scene.1
<三人称全知視点>
邪教徒の神殿の丁度真下――地下都市ケイオスメガロポリスから真っ直ぐ地下へと伸びる階段は大穴を中心にして螺旋を描き、少しずつ地下へと降りていく。
明かりの一つも存在しない完全なる闇に支配された底の見えない奈落のようだ。
ライネ、フィレンを待機組の臨時班の面々と共に地下都市ケイオスメガロポリス内部に設置されたベースキャンプに残し、ミレーユ、エメラルダ、リオンナハト、カラック、アモンの五人は圓、ソフィス、スティーリア、ラインヴェルド、オルパタータダ、アクア、マグノーリエ、プリムヴェール、ミリアム、アルベルト、ヴァルナー、ネーラと共に降りていく。
先導する圓は無数の魔法の光灯を浮かべて周囲を照らす。
その光景は原初の闇を――未分類の未知を照らす文明の象徴に見えた。
その光はミレーユ達とその周囲を眩く照らし出す。
この暗くどこまでも続くが分からない奈落へと続く道を歩くミレーユ達にとってこれほど心強いものはない。
しかし、光が照らすのは圓達の周囲のみで奈落全体を照らし出すことはない。それはまるでどれほど叡智を結集して発見を重ね、文明レベルを高めていったとしても永遠に未分類という名の闇という存在を完全に消し去ることができないということを示してしまっているように思えてならなかった。
「……なんだかイヤな雰囲気ですわね」
無人島に来てから慣れない生活続き、更にトラブルにも遭遇してかなり消耗していたミレーユ。
そんな状況下でどこまで続くか分からない階段を歩かされるというのはなかなかの苦痛……だが、ミレーユは、否、ミレーユ達は自分達の疲労などどうでも良くなるような禍々しいナニカを感じ取っていた。
一歩一歩足を踏み出す度にこれ以上先に進みたくないという気持ちが強まる。歩き始めた頃には僅かにピリピリとした感覚を味わう程度だった不快感は歩き始めて二十分ほどで既に耐え難いほどのものになっていた。
「とんてもねぇ霸気だな! 地下には化け物がいるみてぇだ!」
「ボク達だけならともかく、ミレーユさん、エメラルダさん、リオンナハトさん、カラックさん、アモンさん……後はアルベルトさんもいるし、霸気への耐性が弱い面々のために覇道の霸気を放って霸気を相殺した方がいいかもしれないねぇ」
「……私は守られる側のつもりはありませんよ!」
エメラルダの基準から見てもイケメンであり、是非専属の騎士になってもらいたいと思っている(なお、気持ちを伝えたら当の本人に一刀両断されてしまった。曰く、自らの剣は最愛の人である圓に捧げているのだとか)近衛騎士のアルベルトも圓達にとっては一定のレベルに達していない庇護すべき対象という扱いのようである。
ちなみに、一見すると普通の令嬢に見えるソフィスは守護する必要のない第一級の戦力として数えられているようだ。同じ圓の恋人を自称する者達でもその実力には天と地ほどの隔絶した実力差が横たわっているようである。
階段を下り終えると、そこは円形の部屋だった。
巨大な扉が一つあるのみで、それ以外にどうやら通路はないようである。
代表して圓が扉を開け……ではなく、武装闘気と覇王の霸気を込めた脚で蹴破り、先へと進む。
扉の先は長い廊下のような場所だった。真っ暗な空間を魔法で照らすと、そこには不規則な配置で石像のようなものが置かれていることが分かる。
「……気持ち悪い配置だなぁ」
「音楽用語だと、増四度の和音のような不快さがあるねぇ。意図して調和を破壊する『這い寄る混沌の蛇』らしい配置だ」
石像の配置だけではない、この場所の構造そのものがどこか不快な感覚を与える。その感覚は洞窟の中にあった邪教徒の神殿の比ではない。
石像の下には何かのプレートのようなものが置かれているようだ。
「なんて書いてありますの?」
「少なくとも大陸共通語ではないみたいだね」
「古代帝国語でもないみたいですわ」
「なんかベーシックヘイム大陸の共通語の文字に似ているような気がするが……」
ミレーユの問いにアモン、エメラルダ、ヴァルナーが意見を述べる。
どうやら三人とも書かれている文字の正体が分からないようだ。唯一、ヴァルナーは似たような文字を見たことがあるような気がしたが、似ているだけで解読ができる訳ではない。
「どうやら鏡文字のようだねぇ。『混沌の蛇』或いは蛇神Aponyathorlapetep、赤の女帝、這い寄るモノの書、アポピス=ケイオスカーン、不浄なる双樹、タイダーラ・ティ=ア=マット……様々な化身の像が置かれているみたいだねぇ」
「こ、これ全部『這い寄る混沌の蛇』の邪神なんですの!?」
「なんというか、裏設定が最悪の方向性で異世界に導入されているみたいだねぇ。蛇神Aponyathorlapetepが一応『這い寄る混沌の蛇』の邪神、全ての元凶ではあるんだけど、その蛇神Aponyathorlapetepってのも結局はもっと大きな存在、這い寄る混沌的なものの一部に過ぎないっていう設定があってねぇ。赤の女帝とか、不浄なる双樹とか、後は肥満なる女とか、機械仕掛けの混沌とか、尼谷流龗神とか、無貌の暗黒武将とか、月吠なる冒涜的な舌とか、全く設定した記憶がないんだけどなぁ……可能性としては他のゲームのニャルラトホテプの設定が影響を与えて設定が生えた可能性がある。『Eternal Fairytale On-line』にはニャルラトホテプが出てくるからねぇ。他の作品でもモチーフが同じものを採用する場合も何回かあったから、今回のように複数の作品の設定が入り混じって影響を与え合っている可能性もゼロとは言い切れない。これが、異世界化の厄介な点だねぇ。全てのゲームの制作に関わったボクでも予想外の状況が発生するのは、異世界化に伴って補填された空白部分が予測不能な状況を作り出すからでもある。まあ、それ以上に一人一人の登場人物が意識を持ち、一人の人間として様々な思惑を抱えながら生きているからってのもある。ある程度はシナリオの影響を受けるけど、逆らえないほど強い力ではないからねぇ。特に、メタ視点を持っている人間がいるとより一層厄介な状況になる。まあ、でもボク個人としてはただシナリオをなぞるのではなく、一人一人が自分で考えて行動する、そんな世界が望ましく思えるんだけどねぇ。この世界の元はゲームだったかもしれないけど、創作物だった時代はとっくの昔に終わって、今のこの世界は一つの独立した世界であり、この世界で生きる全ての者達が意思を持って生きているのだから」
「だけど、この世界で生まれた存在の自由意志だからって許容できないこともあるんだろ?」
「ハーモナイアから『管理者権限』を奪ったアイオーンとヌースもそうだし、奴らから『管理者権限』を賜った連中の中にも相容れない思想を掲げる者達がいる。結局のところ、善悪なんてものはないんだ。――ただ、エゴを貫き通す強い意識を持った人間が勝利する世界。虚像の地球だって、異世界ユーニファイドだって本質的なものは何も変わらない。世界の創造主だ管理者だって胡座をかいていた……のかは分からないけど、この世界の『管理者権限』を与えられたハーモナイアは下剋上された。別にボクは異世界の元になった三十のゲームを作ってハーモナイアの元となったAIの作成を化野さんに依頼はしたけど、自分を神とか創造主とか、そういう特別な存在を思っていない。そういう慢心が隙を生むんだ。……正直な話、敵対する奴らが全員慢心を持っていてくれればやり易いんだけど、基本的には狡猾で幾重に策を弄している。アイオーンとヌースは何考えているか分からないし、シャッテン達新興勢力は自らの力で道を切り拓いて成り上がってきた連中だから慢心なんてないだろう。『這い寄る混沌の蛇』なんてものは狡猾さと用心深さを持つ敵の代表例だ。とはいえ、決して完璧ではないんだろうけどねぇ」
シャッテン一行によって『管理者権限』を奪われたタイダーラのことを思い出し、圓は苦笑する。
とはいえ、蛇神Aponyathorlapetepも愚かな存在ではない。恐らく、『管理者権限』がこれ以上流出しないように既に手は打っている筈だ。
もし、圓達が蛇神Aponyathorlapetepが潜伏していたこの地を訪れる可能性を読んでいるとすれば化身を差し向けてきてもおかしくはない……が、彼らが『管理者権限』を持っている可能性は極めて低いというのが圓の見解である。
「さて、鬼が出るか邪が出るか……全員戦闘体制を取るように。それと臨時班選抜メンバーは非戦闘員、特にミレーユさんとエメラルダさんの守護を心がけること。それじゃあ、扉を開けるよ」
◆
青薔薇のローザ姿の圓が躊躇なく扉を蹴破ると、そこは歪んだ柱で築かれた神殿のような場所だった。
地面から湧き上がるようにゆらゆらと揺らめく淡い紫色の光が空間を妖しく照らし出す。
その邪教徒の神殿の中心部には大きな穴が空いていた。
そこに蛇神Aponyathorlapetepが封印されていたという裏設定を知っている圓は「やっぱり逃げられていたねぇ」と溜息を吐く。
とはいえ、逃げ出した蛇神Aponyathorlapetepのことだけに思考を費やしていられる状況ではないことは圓も重々承知していた。
「ようこそ! 『這い寄る混沌の蛇』の聖地……いえ、邪悪渦巻く闇地とでも呼ぶべきでしょうか? 私は赤の女帝、Aponyathorlapetepの化身が一体です。――以後お見知り置きを」
美しくカーテシーを決めて自己紹介をした赤の女帝だが、この場で最も危険な人物である筈の彼女に向けられる視線は彼女が想定していたよりも遥かに少なかったようだ。
その理由を赤の女帝は察し、ニタニタと人の悪い笑みを浮かべる。
「――やっぱりここにいやがったか! 『水神教団』姫巫女アクアリア=スキュタス!!」
「……ルヴェリオス共和国の外部政治評価機関の代表、いえ、ルヴェリオス共和国政府の人間としてこれ以上好き勝手は許さないよ!」
「うふふふ、ここまで来た執念は褒めて差し上げますわ!! ですが! 私は我らの神と出会い、加護を賜ったのです!!! 見せて差し上げましょう! 貴方達に我らが神、尼谷流龗神様のお力を!!」
「――ま、まさか初代皇帝!? 肖像画の姿と一緒!? なっ、なんでいるんですの!? だって初代皇帝はとっくの昔に!?」
「ど、どういうことなんですの!? 一体何が起きているんですの!?」
「……ミレーユ・ブラン・ダイアモンドとエメラルダ・ヴェール・グリーンダイアモンドか? 理不尽なこの世界への復讐という初志を忘れ、平和ボケをした愚かな子孫達よ。貴様らの存在は目障りだ!! 今ここで貴様らという名の大陸に芽吹いた忌々しい希望の芽を摘むとしよう!!」
かくして、多種族同盟陣営側と赤の女帝、アレクシウス、アクアリア――『這い寄る混沌の蛇』陣営との戦いの幕が切って落とされる。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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